星屑の魔法ときみの名前13
恋をすると、
“触れたい”が増えていく。
最初は、
ただ隣にいたかっただけ。
手を繋げるだけで嬉しくて、
名前を呼ばれるだけで胸がいっぱいだった。
でも。
好きが深くなるほど、
もっと近づきたくなる。
もっと知りたくなる。
もっと、自分だけを見てほしくなる。
今回の話は、
そんな“恋人らしさ”が、
少しずつ自然になっていく夜の物語です。
甘くて、
近くて、
少しだけ危うい。
星屑の光の下で、
ふたりの距離はまた変わっていきます。
最近。
レイナが、やたら触れてくる。
⸻
「ユイ」
「……なに」
返事をした瞬間。
するり、と指が絡む。
「また!?」
「また、じゃない」
「今日もう五回目!」
「少ないわね」
「どこが!?」
昼休みの廊下。
普通に人がいる。
普通に見られてる。
なのにレイナは、
まるで気にした様子もない。
「恋人なんだから普通でしょ」
「レイナの“普通”怖いんだけど」
くすっと笑う。
でも、
絡めた指は離さない。
最近はもう、
手を繋ぐだけじゃない。
髪を触られるし、
肩を寄せられるし、
気づけば距離がゼロになっている。
……慣れない。
全然。
⸻
「ねえユイ」
「なに」
「顔赤い」
「誰のせいだと思ってるの」
「私」
即答。
悔しい。
でも。
その余裕そうな顔を見るたび、
心臓がうるさくなる。
⸻
放課後。
今日は珍しく、
訓練場ではなく図書塔へ来ていた。
次の実技試験に向けた課題。
本当はひとりで調べる予定だったのに。
「なんで当然みたいにいるの」
「ユイがいるから」
レイナは平然と答える。
そして。
隣へ座る。
近い。
いや、
今日はいつも以上に近い。
「レイナ」
「なに」
「肩当たってる」
「当ててる」
「なんで!?」
「触れたいから」
最近ストレートすぎる。
心臓に悪い。
⸻
本を開く。
でも。
全然集中できない。
理由は簡単で。
隣から、
ずっと視線を感じるから。
「……何」
「別に」
「絶対なんか見てる」
「見てるわよ」
「なんで」
一瞬。
レイナが少しだけ目を細めた。
「好きな人だから」
どくん。
静かな図書塔で、
心臓の音だけがやけに大きい。
「……急にそういうこと言うの禁止」
「なんで」
「無理だから」
「なにが?」
「色々!」
レイナは肩を揺らして笑う。
完全に楽しんでる。
⸻
そのとき。
ふわり、と。
一冊の本が棚から落ちた。
「あ」
同時に手を伸ばす。
そして。
重なる。
指先が。
「……っ」
一瞬なのに、
変に意識してしまう。
でも。
レイナはそのまま、
私の指へ自分の指を絡めた。
「捕まえた」
「……本より先に?」
「うん」
さらっと言う。
しかも。
そのまま離さない。
「レイナ、図書塔」
「静かにしてる」
「そういう意味じゃなくて」
困っていると。
レイナが、
少しだけ真面目な顔になる。
「……ユイ」
「なに」
「最近、ちゃんと実感する」
「何を?」
静かな声。
「あなたが恋人なんだって」
胸が熱くなる。
「前までは、
隣にいてくれるだけで嬉しかった」
絡んだ指に、
少しだけ力が入る。
「でも今は、もっと触れたくなる」
近づく距離。
「もっと欲しくなる」
呼吸が近い。
「……ユイのこと」
⸻
だめだ。
空気が甘すぎる。
「レイナ」
「なに」
「ここ図書塔」
「知ってる」
「絶対今キスしようとしてた」
「ばれた?」
「ばれる!」
くすっと笑う。
でも、
その目は少し本気だった。
⸻
「……ねえ」
「なに」
「ユイは?」
「え?」
「もっと触れたいって、思う?」
不意打ちだった。
そんなの。
答えなんて決まってる。
でも。
口にするのは、
まだ少し恥ずかしい。
「……思う」
小さな声。
でも。
レイナはちゃんと聞き取った。
一瞬、
目を見開いて。
それから、
すごく嬉しそうに笑う。
「……だめ」
「え?」
「今その顔されると、ほんと無理」
「どんな顔!?」
「かわいい顔」
「抽象的!」
笑いを堪えるみたいに、
レイナが額を押さえる。
その耳は、
少し赤かった。
⸻
そのとき。
窓の外で、
星屑が降り始める。
淡い光が、
図書塔の床へ静かに零れていく。
「……綺麗」
呟くと。
レイナが、
そっと私の肩へ頭を預けた。
「うん」
静かな声。
「でも今は、ユイのほうが気になる」
「……それ口に出す?」
「出す」
即答。
もうだめだ。
この人、
本当に隠す気がない。
でも。
そんなレイナが、
少しずつ愛しくなっている自分がいる。
⸻
星屑が降る。
静かに。
やわらかく。
絡んだ指は、
前より熱い。
肩越しに伝わる体温も。
全部。
恋を知る前より、
ずっと近かった。
第13話を読んでくれてありがとうございました。
今回は、
「付き合ったあとに増えていく触れ合い」
をテーマに書いた回でした。
これまでのふたりは、
“触れること”そのものが特別でした。
手を繋ぐだけで緊張して、
距離が近づくだけで心臓が跳ねていた。
でも今は違う。
恋人になったことで、
触れ合うことが少しずつ“日常”になっている。
ただ、
日常になったからといって、
ドキドキが消えるわけじゃない。
むしろ逆で。
慣れてきたからこそ、
今までより深い感情が見えてくる。
今回のレイナは、
かなり“欲しがる”感情を強めに出しています。
隣にいるだけじゃ足りない。
もっと触れたい。
もっと近づきたい。
でも、
ユイを大事にしたい気持ちも強いから、
ぎりぎりのところで止まっている。
その危ういバランスを書きたかった回でした。
一方でユイも、
ちゃんと変わっています。
以前なら、
レイナに翻弄されるだけだった。
でも今は、
「自分も触れたいと思っている」
ことを少しずつ認め始めている。
その変化が、
今回の「……思う」という小さな返事に詰まっています。
短い言葉だけど、
ユイにとってはかなり大きな一歩です。
そして、
図書塔という静かな場所を選んだのも理由があります。
静かな空間って、
呼吸とか、
視線とか、
沈黙とか。
そういう小さなものが、
やけに意識される。
だから今回の空気は、
今までより少しだけ“近い熱”を意識して描きました。
星屑の魔法も、
もうただの能力ではありません。
ふたりの感情に呼応するように、
光り方が変わっていく。
それはきっと、
恋そのものです。
次の夜には、
また違う感情が降ってくる。
嫉妬かもしれないし、
独占欲かもしれない。
あるいは、
もっと甘い何かかもしれません。
また続きを、
一緒に見届けてもらえたら嬉しいです!




