星屑の魔法ときみの名前12
恋をすると。
たった一言で嬉しくなったり、
たった一瞬で不安になったりする。
隣にいるだけで幸せなのに、
もっと近づきたくなる。
もっと触れてほしくなる。
もっと、“自分だけ”を見てほしくなる。
今回の話は、
そんな独占欲と嫉妬が、
少しずつ形になっていく夜の物語です。
完璧に見えるレイナも、
恋の前ではちゃんと余裕をなくす。
そしてユイも、
そんな彼女を見て、
少しずつ“恋人”としての気持ちを覚えていく。
星屑が降る夜。
絡んだ指は、
前よりもっと、ほどけなくなっていきます。
付き合い始めてから、
一番変わったこと。
それはたぶん。
レイナが、全然隠さなくなったことだ。
⸻
「ユイ」
「……なに」
「手」
もう最近は、
その一言だけで意味がわかってしまう。
差し出されたレイナの手。
私は小さくため息をついてから、
観念したみたいに自分の手を重ねた。
その瞬間。
当然みたいに指が絡む。
「……はい、満足?」
「まだ」
「まだ!?」
教室だよここ。
朝のホームルーム前。
普通にクラスメイトいるし、
普通にみんなこっち見てるんだけど。
「レイナ」
「なに」
「見られてる」
「ええ」
「“ええ”じゃなくて!」
なのにレイナは気にした様子もなく、
繋いだ手を机の下へ隠すどころか、
むしろ見せつけるみたいにそのままにしている。
「……レイナさん」
後ろの席の女子が苦笑する。
「最近オープンすぎません?」
「好きな人と付き合ってるんだから普通でしょ」
さらっ、と爆弾。
「ちょ、ちょっと!」
「なに」
「普通に言わないで!」
「事実よ」
くすっと笑う。
だめだ。
最近ずっと余裕負けしてる。
悔しくて睨むと。
「……かわいい」
小さく呟かれた。
「っ……!」
反則。
本当に反則。
⸻
昼休み。
逃げるみたいに購買へ向かう途中。
「あ、七瀬さん!」
声をかけられて振り返る。
二年の女子生徒だった。
前に訓練を少し教えてもらった先輩。
「この前の実技、すごかったよね」
「え、いや全然……」
「また今度、一緒に訓練しない?」
そんな会話をしていると。
背後から、
ひやりとした空気。
「……レイナ?」
いつの間にか立っていた。
しかも。
機嫌が悪い。
すごくわかりやすく。
「ユイ、行くわよ」
「え、でも今話してて」
「あとでいいでしょ」
ぴしゃり。
先輩が苦笑する。
「あはは、独占欲強いね」
その瞬間。
レイナの眉がぴくっと動いた。
「悪いですか?」
「え」
空気が凍る。
「レイナ!」
慌てて腕を引く。
するとレイナは、
少しだけ不満そうに私を見る。
「だって、その人ずっと近い」
「普通だったよ!?」
「普通じゃない」
即答。
しかも。
そのまま私の手首を掴む。
「行く」
「ちょ、待っ……!」
⸻
そのまま連れて来られたのは、
人の少ない旧校舎裏だった。
「……レイナ」
「なに」
「嫉妬しすぎじゃない?」
一瞬。
レイナが黙る。
それから、
ふいっと目を逸らした。
「……してない」
「いや絶対してる」
「……少しだけ」
認めた。
しかも耳が赤い。
その顔を見た瞬間、
なんだか急に胸がくすぐったくなる。
「……かわいい」
「ユイ」
「ごめん」
低い声。
でも怒ってはいない。
むしろ。
どこか困ったみたいな顔。
「だって」
レイナが、小さく息を吐く。
「最近、自覚してきたの」
「なにを?」
「あなたのこと、思ったより好き」
どくん。
真正面から来た。
「レイナって時々そういうの急に言うよね」
「本当のことだから」
「心臓に悪い……」
すると。
レイナが少しだけ近づいてくる。
一歩。
また一歩。
「ユイ」
「……なに」
「今も、あの人と話してたの思い出すと嫌」
静かな声。
でも、
その瞳は真剣だった。
「私の知らない顔で笑わないで」
ぎゅ、と。
繋いだ指に力がこもる。
「……そんな顔しないで」
「どんな顔」
「捨てられそうみたいな顔」
一瞬。
レイナの目が揺れた。
「……しないよ」
気づけば、
私はレイナの制服を軽く掴んでいた。
「レイナを置いてどっか行ったりしない」
「……」
「だって私」
ちゃんと言う。
逃げずに。
「レイナのこと、大好きだもん」
⸻
空気が止まった。
「……ユイ」
レイナの声が、少し掠れる。
次の瞬間。
ぐいっと腕を引かれた。
「っ……!」
抱きしめられる。
強く。
でも、
壊れ物を扱うみたいに優しく。
「……今のずるい」
「レイナが先に言わせたんでしょ」
「そうだけど」
肩に顔を埋めたまま、
小さく笑う気配。
「もっと聞きたい」
「え」
「もう一回」
「無理!」
「なんで」
「恥ずかしい!」
すると。
レイナは少しだけ体を離して、
すぐ近くから私を見つめた。
「私は何回でも言えるのに」
「レイナがおかしいの!」
「好き」
「わっ!」
「好き」
「ちょ、連続はだめ!」
「好き」
「うるさい!!」
完全に遊ばれてる。
でも。
笑ってるレイナを見ると、
嫌だと思えない。
⸻
そのとき。
ふわり、と。
星屑が降り始めた。
夕暮れの空から、
静かに零れてくる光。
「……綺麗」
呟くと。
レイナが、そっと私の頬へ触れた。
「うん」
その視線は、
星空じゃなくて。
まっすぐ私を見ている。
「でも今は、こっちのほうが綺麗」
どくん。
また心臓が跳ねる。
「……ほんと、ずるい」
「知ってる」
くすっと笑う。
そして。
レイナは、
額へそっと自分の額を重ねた。
近い。
でも、
もう逃げない。
「ユイ」
「なに」
「もっと好きになって」
囁くみたいな声。
星屑が、
ふたりを囲むように舞っている。
その光の中で。
絡んだ指は、
もうほどける気がしなかった。
第12話を読んでくれてありがとうございました。
今回はかなり、
“嫉妬”と“独占欲”を前面に出した回でした。
これまでのレイナは、
どちらかというと余裕があって、
ユイを翻弄する側でした。
でも付き合い始めたことで、
逆に「失いたくない」という感情が強くなっています。
だから今回のレイナは、
わかりやすく嫉妬するし、
わかりやすく不機嫌になる。
しかも隠しきれていない。
完璧そうな人が、
好きな相手の前だけ不器用になる感じを書きたくて、
かなり感情を崩しました。
一方でユイも、
ただ振り回されるだけじゃなくなっています。
以前なら照れて終わっていた言葉を、
今回はちゃんと返せるようになった。
「大好きだもん」
というセリフは、
ユイの成長でもあります。
星屑の魔法は、
感情に強く反応する設定なので、
ふたりの関係が深くなるほど、
光も変化していきます。
最初は不安定だった魔法が、
今では“想い”そのものみたいに揺れている。
だからこの作品では、
魔法=恋心の象徴でもあります。
そして今回、
レイナの独占欲がかなり強めに描かれましたが、
それは束縛したいというより、
“好きすぎて余裕がなくなる”感情です。
天才で、
何でもできて、
誰より綺麗な彼女が。
恋だけは、
ちゃんと初心者だった。
そんな部分を、
少しでも好きになってもらえていたら嬉しいです。
ここから先、
ふたりの距離はさらに変わっていきます。
触れることにも、
想いを伝えることにも、
どんどん慣れていく。
でも慣れた頃にこそ、
新しい感情も生まれる。
恋は、
“両想いになって終わり”じゃない。
むしろそこから、
もっと深くなっていくものだから。
また次の星屑の夜で、
会えますように!




