星屑の魔法ときみの名前11
“好き”を伝え合ったあとも、
恋は終わらない。
むしろそこから、
少しずつ形を変えていく。
触れ方とか。
名前の呼び方とか。
隣にいることの意味とか。
昨日まで普通だったことが、
全部少しだけ特別になる。
これは、
両想いになったふたりが、
まだ慣れない熱に振り回されながら、
それでも幸せを覚えていく夜の話。
キスをした次の日。
世界は何も変わっていない。
授業は普通に始まるし、
先生は普通に課題を増やすし、
星屑はいつも通り夜空から降ってくる。
なのに。
私だけが、全然普通じゃなかった。
「……無理」
「なにが?」
隣から、涼しい声。
ちら、と見る。
レイナはいつも通りだった。
いつも通り綺麗で、
いつも通り余裕そうで、
いつも通り私の隣にいる。
……いや。
いつもより少し近い。
「近い」
「昨日も聞いた」
「昨日とは意味が違うの!」
小さく笑う声。
くっ……余裕そう。
「ユイ、顔赤い」
「誰のせいだと思ってるの」
「私」
また即答。
ずるい。
本当に。
⸻
昼休み。
逃げるように中庭へ来たのに。
「なんでいるの」
「恋人を追いかけるのは普通でしょ」
「っ……!」
さらっと言うな。
周囲に聞かれたらどうするの。
「レイナ!」
「なに」
「声!」
「大丈夫、誰もいない」
そう言って。
当然みたいに隣へ座る。
肩が触れる。
その瞬間、
昨日の感触が全部蘇った。
「っ……」
「また思い出した?」
「うるさい!」
絶対顔に出てる。
レイナは楽しそうに目を細めた。
「……ねえ」
「なに」
「昨日の、嫌じゃなかった?」
不意に、少しだけ不安そうな声。
その顔はずるい。
「嫌だったら今ここにいない」
答えると、
レイナの肩から少しだけ力が抜けた。
「……よかった」
小さい声。
それが嬉しくて。
気づけば、私はそっと指を伸ばしていた。
触れる。
レイナの手に。
一瞬。
レイナの目が見開かれる。
「……ユイから触ってきた」
「悪い?」
「悪くない」
むしろ嬉しそう。
そのまま、
ゆっくり指が絡む。
昨日までとは違う。
“好き”を知ったあとの触れ方。
少しだけ照れて、
少しだけ甘い。
⸻
「……ねえユイ」
「なに」
「キスしたあとって、こんな感じなのね」
「レイナでも初めてなんだ」
「失礼ね」
くすっと笑う。
「でも」
レイナの視線が、ゆっくりこちらへ向く。
「思ったより、我慢できなくなる」
どくん。
「っ……」
「今も、すごく触れたい」
低い声。
昨日より近い熱。
「レイナ、ここ外」
「知ってる」
「人来るかも」
「じゃあ来ないとこ行く?」
「そういう意味じゃなくて!」
完全に遊ばれてる。
でも。
レイナの耳も少し赤い。
余裕そうに見えて、
ちゃんと同じなんだ。
⸻
そのとき。
「……えっ」
後ろから声。
びくっと振り返る。
クラスメイトだった。
しかも。
私たち、
しっかり手を繋いでる。
「ご、ごめん邪魔した!?」
「違っ……!」
慌てる私の隣で。
レイナは。
「ええ、恋人との時間だから」
さらっと言った。
「レイナ!!」
クラスメイトは顔を真っ赤にして去っていく。
終わった。
全部終わった。
「なんで言うの!?」
「隠す必要ある?」
「あるよ!?」
レイナは少しだけ首を傾げる。
「私は隠したくない」
静かな声。
「好きな人を好きって言うの、変?」
その言葉に、
一瞬で怒れなくなる。
「……変じゃないけど」
「でしょ」
勝ったみたいな顔。
悔しい。
でも。
嬉しい。
⸻
夜。
星屑が降る中庭。
今日は何も訓練していない。
ただ、
並んで座っているだけ。
それなのに。
こんなにも満たされている。
「……不思議」
「なにが」
「前は、魔法のことばっか考えてたのに」
今は。
隣にいる人のことで、
頭がいっぱいだ。
レイナは静かに笑った。
「それ、恋よ」
簡単に言う。
でも。
その言葉は、
星屑みたいに胸へ落ちた。
「ユイ」
「なに」
肩が、そっと触れる。
「これからも、ちゃんと好きって言うから」
どくん。
「……なんで」
「言わないと不安になるでしょ」
否定できない。
すると。
レイナは少しだけ笑って。
今度は、
そっと頭を肩へ預けてきた。
「だから安心して」
夜空から、星が落ちてくる。
静かに。
優しく。
その光の下で。
私たちは、
何度でも恋をしていく。
第11話を読んでくれてありがとう。
今回は、“付き合った直後の不安定な甘さ”を中心に描きました。
両想いになった瞬間に、
すべてが完成するわけじゃない。
むしろそこから、
触れる意味も、
言葉の重さも、
一気に変わってしまう。
ユイはまだ、
「恋人」という関係に慣れていません。
だから少し触れられるだけで動揺するし、
名前を呼ばれるだけで心臓が跳ねる。
一方でレイナは、
比較的余裕があるように見えます。
でも実際は、
好きな人へ触れられることが嬉しくて仕方ないだけ。
だから今回のレイナは、
かなり“隠す気がない”状態でした。
特に、
「隠したくない」という言葉は、
彼女の独占欲と愛情がそのまま出ています。
好きなものを、
ちゃんと好きだと言いたい。
それはシンプルだけど、
すごく勇気のいる感情です。
そして今回から、
ふたりの空気はさらに変わっていきます。
“恋が始まった”空気ではなく、
“恋が日常になり始める”空気。
でも、
日常になるからこそ、
新しい不安や欲も生まれる。
もっと触れたい。
もっと独り占めしたい。
もっと、相手の特別になりたい。
星屑の光は、
そんな感情にこれからもっと強く反応していきます。
だからこの物語は、
まだ終わりません。
恋を知ったふたりの魔法は、
ここからさらに深く、眩しくなっていく。
また次の夜も、
一緒に見届けてもらえたら嬉しいです




