星屑の魔法ときみの名前10
触れたい、と思う気持ちは。
たぶん、魔法よりずっと強い。
隣にいたいとか。
声が聞きたいとか。
そういう小さな願いが積み重なって、
気づけば“特別”は恋に変わっていく。
これは、
曖昧だった距離に名前がついて、
そして――
初めて、本当に触れ合う夜の話。
“好き”と言われてから。
世界の全部が、少しだけ変わって見える。
空気とか。
距離とか。
視線とか。
今まで曖昧だったものが、
全部、熱を持ってしまった。
特に。
レイナの距離。
「ユイ」
名前を呼ばれるだけで、
心臓が跳ねる。
「……なに」
「なんでそんな警戒してるの」
「誰のせいだと思ってるの」
「私」
即答だった。
放課後。
誰もいない図書塔。
高い窓から、夕暮れの光が落ちている。
本当は課題をしに来たはずなのに。
机を挟んで座っていた距離は、
気づけばもう意味を失っていた。
「ねえ」
レイナが立ち上がる。
「……近い」
「好きって言ったんだから、これくらい普通」
「普通の基準がおかしいんだって」
くすっと笑う。
でも、その目は優しい。
「ユイ」
「なに」
「まだ、信じられない?」
一瞬、言葉に詰まる。
「……少しだけ」
「なにが」
「レイナが、私を好きってこと」
だって。
レイナは綺麗で、強くて、特別で。
私はまだ、
自分がその隣にいていい理由を探してしまう。
すると。
レイナは少しだけ困った顔をした。
「……ほんと、そういうとこ」
「え」
「私がどれだけ必死だったと思ってるの」
どくん。
「必死?」
「ずっと我慢してた」
一歩。
「近づきすぎないように」
また一歩。
「嫌われないように」
距離が、なくなる。
「でも、無理だった」
まっすぐな瞳。
逃げられない。
「ユイが可愛すぎるから」
「っ……!」
反則だ。
そんな真顔で言うの。
「レイナだってずるい」
「知ってる」
「開き直らないで」
笑い声が重なる。
そのまま。
静かに、沈黙が落ちた。
でも、嫌な沈黙じゃない。
むしろ。
お互いの鼓動が聞こえそうなくらい、
近くて甘い静けさ。
⸻
「……ユイ」
「なに」
レイナの指が、そっと頬に触れる。
優しい手。
でも少し震えている。
「今度は、ちゃんとするって言ったの覚えてる?」
心臓が跳ねる。
覚えてる。
忘れるわけない。
「……覚えてる」
答えると、
レイナが小さく息を吐いた。
「逃げるなら、今のうち」
「逃げない」
即答だった。
一瞬。
レイナの目が揺れる。
それから。
ゆっくり。
本当にゆっくり。
顔が近づく。
星屑が、ふわりと舞う。
窓から入り込んだ光が、
銀色の髪を揺らす。
綺麗だ、と思った。
こんな状況なのに。
それが最初に浮かんでしまうくらい。
「……ユイ」
名前を呼ぶ声が、近い。
「ん……」
呼吸が重なる。
あと少し。
本当に、あと少しで――
⸻
触れた。
⸻
一瞬だけ。
柔らかく。
熱く。
でも。
それだけで、世界が止まるには十分だった。
「……っ」
離れた瞬間、
心臓が壊れそうになる。
息がうまくできない。
レイナも、
珍しく少しだけ呼吸を乱していた。
「……やば」
小さく呟く。
「レイナ?」
「思ったより無理」
「なにが」
「理性」
顔が熱くなる。
でも。
レイナは、また優しく笑った。
「……嫌じゃなかった?」
不安そうな声。
そんな顔するんだ。
「……嫌なわけない」
答えると。
レイナは、安心したみたいに目を細めた。
そして。
今度は、そっと額を合わせる。
「好き」
静かな声。
「私も」
自然に言えた。
その瞬間。
星屑が、一気に輝く。
まるで夜空そのものが、
祝福しているみたいに。
⸻
あの日。
星屑を掴めなかった私に、
レイナは手を差し伸べた。
触れ方を教えてくれた。
受け入れることを教えてくれた。
そして今。
私はやっとわかる。
魔法より先に、
心が触れていたんだって。
⸻
夜空が落ちてくるこの学園で。
私たちはきっと、
これからも何度だって手を伸ばす。
不器用に。
遠回りしながら。
それでも。
同じ光を見失わないように。
⸻
星屑が降る。
静かに。
優しく。
まるで――
ふたりの未来を照らすみたいに
ここまで『星屑の魔法と、きみの名前』を読んでくれて、本当にありがとうございました。
第10話で、ユイとレイナの物語はひとつの終着点へ辿り着きました。
最初は、
星屑をうまく扱えない落ちこぼれと、
誰より完璧に見える天才。
交わるはずのなかったふたりでした。
でも、
手を取ることから始まった関係は、
少しずつお互いを変えていった。
ユイはレイナに“自分を信じること”を教えられて、
レイナはユイに“ひとりじゃなくていいこと”を教えられた。
この物語で描きたかったのは、
ただ恋をすることではありません。
誰かに触れることで、
自分の世界そのものが変わってしまう感覚です。
だから星屑の魔法は、
感情に反応するように描いていました。
好きという気持ちは隠せない。
隠そうとしても、光になって零れてしまう。
それがこの物語の魔法です。
そして最後のキスは、
ただの恋愛のゴールではなく、
“お互いを受け入れた証”でもあります。
星屑を掴めなかったユイが、
最後にはちゃんと“誰かの想い”を受け止められるようになった。
その変化を書き切れたことが、
この物語の一番大切な部分でした。
きっとこの先も、
ふたりは喧嘩するし、
嫉妬もするし、
距離感を間違えると思います。
でもそのたびに、
また手を取り直していく。
夜空が落ちてくるこの学園で、
ふたりの魔法は、まだ続いていきます。
本当に、ありがとうございました




