第11話:抱きしめたぬくもり ― 森の影で ―
昼下がりの森は、薄曇りの光に包まれていた。
レイは一人で森の奥へと入っていた。狼の足跡を追っているのだ。
風がざわめき、鳥たちが一斉に飛び立つ。嫌な予感が胸をよぎる。
「……またか」
次の瞬間、茂みの奥から黒い影が飛び出した。牙を剥いた獣――森狼。
レイは反射的に剣を構え、獣の動きを見極める。だが、もう一体、背後にも気配があった。
「チッ……二体かよ」
ひと太刀で一匹を倒すも、肩を浅く噛まれる。血が滲む。
しかしレイは構わず剣を振り抜いた。
一方そのころ、リアは落ち着かずにいた。
「……やっぱり、様子を見に行こう」
心配に駆られ、足が自然に森へ向かっていた。
木々の間を抜け、血の匂いが漂う場所へと辿り着く。
そこにいたのは、肩を押さえながら膝をつくレイの姿。
「レイさんっ!」
リアは駆け寄り、ためらいなく抱きしめた。
「バカ……来るなって言ったろ……」
低く掠れた声。でも、彼の体は熱く、震えていた。
「そんなの、無理です! 放っておけません!」
リアの声が涙で揺れる。
レイは少し目を細め、腕をゆっくりと彼女の背中に回した。
「……お前、ほんとに不器用だな」
「レイさんだって……!」
顔を上げた瞬間、至近距離で目が合う。息が触れる距離。
リアの頬に、彼の血が少しつく。
「……汚れるぞ」
「いいんです。今はそれより、傷を」
「平気だ」
そう言いながらも、レイはふっと笑った。
「……こんなに心配されるの、悪くねぇな」
リアの心臓が痛いほど跳ねた。
「……もう、心配かけないでください」
「……努力する」
短く答える声が、なぜか優しく響く。
その時、森の奥で再び枝が折れる音がした。
ガイが駆けつける。二人の姿を見て、一瞬立ち止まる。
リアの腕の中にいるレイ。
言葉を失いながらも、すぐに駆け寄り、冷静に傷の手当てを始めた。
「兄さん、無茶をしすぎです」
「……お前も心配性だな」
「誰に似たんでしょうね」
静かな皮肉に、レイは少しだけ笑う。リアはそのやりとりを見つめながら、胸の奥が温かくなるのを感じた。
森の光が差し込み、血の跡を静かに照らしていた。
その日、リアの中で何かが変わった。
ただの「心配」ではない。
もっと深く、もっと切ない――恋の痛み。




