第二十一話 すべての真相
「戻ってきたわね」
「ええ。予定より少し早かったわ」
モービルを降りると、すぐに屋敷の建物を見上げる。
月影に照らされたスレートの屋根が、朧に輝いていた。
鉄柵を吹き抜ける温い風が、耳に響く哀しげな旋律を響かせる。
決戦を意識しているからだろうか、ここ数日の間に見慣れた屋敷が、まったく知らない異国の館のように見えた。
「今度こそ……怪我なく戻ってくるんやで?」
そういうエリカの声は、どこか弱弱しかった。
この間は、結局すぐに帰ることが出来なくて、約束を破ってしまったっけ。
私とシャルロッテは互いにアイコンタクトをすると、エリカの方を見やって笑う。
「安心して、今度こそは戻るから」
「そうよ。だからシェリーは、夜食でも作って待ってて?」
「ホントやね? もし戻ってこなかったら、荷物ぜーんぶ放り出したるんやから!」
「大丈夫よ。夜食、期待してるわ」
「わかった、とびっきりのを用意するからバシッと決めてきてや!」
大きく腕まくりをすると、ガッツポーズをするエリカ。
何ともオヤジくさい仕草だが、それがまた彼女らしい。
いつもの調子を取り戻したエリカに、私たちは軽く手を振る。
そしてモービルのそばを離れると、門扉の横に設置されているベルを鳴らした。
すっかり顔なじみになったメイドが、エプロンドレスを翻しながらすぐに姿を現す。
「あら? こんな遅くにどなたかと思えば……シャルロッテさんたちじゃないですか。どうしたんです、日曜まで家に帰られることになってたはずですけど……?」
「事情があって、戻ることになったの。開けてくれる?」
「そうですか、少し待っててください」
軽く軋みを上げながら、鉄扉がわずかに開かれる。
裏で頑張るメイドさんの動きに合わせて、私たちも扉を押した。
こうして身体が通り抜けるだけの隙間を確保すると、すぐさま敷地内へと足を踏み入れる。
勝手知ったる他人の家、ためらいも何もない。
「サンキュ! じゃあまたあとで!」
「あ、ちょっと! どこへ行くんですか?」
「秘密、まだ言えないわ!」
――正確には、まだ言えないんじゃなくて知らないなんだけどね。
私はメイドさんに軽く頭を下げながら、心の中でごめんねと舌を出した。
そのままシャルロッテに続いて庭を駆け抜けると、玄関の前に立つ。
「それで、誰のところへ行くの?」
「ついてきて、すぐにわかる」
私の質問に答える代りに、シャルロッテは扉を開いた。
彼女は館の中へと足を踏み入れると、すぐに階段を上り、まっすぐ西側へと歩いていく。
この方向だと、行先は使用人部屋だろうか。
そう思って廊下を進んでいくと、先を歩くロゼッタさんの背中が見える。
今日も彼女が見回り担当のようだ。
「こんばんは」
「……あれ、二人とも帰ってたんじゃないんですか?」
「事情がありまして。戻ってきたんです。お話ししたいので、部屋へ行ってもいいですか?」
「わかりました。それじゃあ、ついてきてください」
「はーい!」
やたら陽気な声で返事をすると、シャルロッテは彼女の後ろに引っ付くようにして歩き出した。
いったい、どういう風の吹き回しなのか。
ちゃんと決着をつけに行く気はあるのだろうか。
シャルロッテはやるときはやる人間だと知っているが、この行動にはさすがに不安になってきてしまう。
私は全身の力がぬけて、ぐったりと頭を垂れた。
こうして下がった視界の中央に、妙な動きをするシャルロッテの白い手が映りこむ。
シャルロッテの手は、いつの間にかアストロラーベを握っていた。
しかも、上蓋が開けている。
左手の人差し指が、中の金属板の一部をしきりに示していた。
そこに描かれた惑星記号は――水星。
人差し指の先は、確かにその惑星を指していた。
「……まさか」
とっさに、変な声が出てしまった。
独り言にしてはいささか大きすぎるつぶやきが、広い廊下を反響していく。
少し先を行くロゼッタさんが、目を丸くしながらこちらを見た。
「どうしたんです?」
「い、いえ……ちょっとのどの調子がおかしくって。ゴホッ! ゴホンッ!!」
「あらら、お大事にしてくださいね?」
下手な演技でもしないよりはましだったらしい。
ロゼッタさんは何の疑いもなく、再び前を向いた。
本当に彼女が――犯人だというのだろうか?
優しくて、穏やかで、純真で。
とてもとても信じることはできない。
しかしシャルロッテが言うのならば、可能性がゼロではないだろう。
念のためポケットに手を差し入れ、いつでもメスが放てるようにする。
「はい、着きましたよ」
「へえ、ここがロゼッタさんの……広いですね」
「そうですね。一応、メイドの長みたいなことをやっているので……他のみなさんよりちょっぴりいい部屋を使わせてもらってます」
「この部屋は、博士が亡くなった後から?」
「いいえ。他のメイドは東から部屋を代わりましたけど、私はもともとここだったので」
「なるほど」
そう言いながら、シャルロッテは部屋の中央に置かれたテーブルに腰を下ろした。
私はその向かいに座ると、あたりを一瞥する。
小ざっぱりとした四十平米ほどの部屋は、一人住まいらしくすっきりと整理整頓されていた。
暮らしていくのに必要最低限な家具だけが、壁際に機能的に配置されている。
もともとかなり広い部屋だが、大きさ以上に見えた。
「それじゃあ、お茶を準備してきますね。ちょっと待っててください」
「あの、その前に一ついいですか?」
「何でしょう?」
「どうしてこの部屋、椅子が二つあるんです?」
「え?」
シャルロッテの言葉に、私はハッとした。
何の気なしに腰を下ろしたが、この部屋の住民は一人。
ソファならばまだしも、椅子が二つ用意されているのは少しばかりおかしかった。
紅茶の用意をしていたロゼッタさんの手が、にわかに止まる。
「お客さんが来た時のためですよ。一つじゃ不便ですからね」
「メイドの部屋に、そんなにお客さんなんて来ますか? 屋敷のお客様なら、ここへは絶対に通しませんし」
「私の個人的な知り合いが……たまに来るんですよ」
「なるほど。じゃあ、そこの床についている跡は何ですか? たぶんあれ、ベッドの跡ですよね。もともと、この部屋に置かれていたベッドは一回り大きなものだったんじゃありません?」
シャルロッテが指差した先は、ギニーコインほどの大きさで床のフローリングがへこんでいた。
相当に重量のある家具でも置かない限り、こうはならないだろう。
それを見たロゼッタさんの顔が、露骨に曇る。
「……そうですよ。前はもう少し、大きなベッドを使ってました。でも邪魔だったので、買い替えたんです」
「じゃあ、あそこに飾られている写真は? 二人仲良く映ってますけど、もう一人の人はどなたです?」
「そんな、写真はすべて――あッ!」
謀られたことに気づいて、ロゼッタさんはとっさに口元をふさいだ。
だがもう遅い。
シャルロッテは射抜くような容赦のない眼差しを彼女に向ける。
「居たんですよね? もうひとり、この部屋の住人が」
「……ええ、一年半ほど前まで姉が居ました。ですが、姉は急な病で亡くなりまして。今では一人で住んでいますよ」
「その時の記事が、これですよね?」
そう言ってシャルロッテが取り出したのは、例のメイドの死亡記事であった。
脳内を稲妻が走る。
彼女の言わんとしていることを察した私は、己の血が凍てついていくのを感じた。
心臓を何者かに鷲掴みにされたような、ぞっとしない感覚が襲ってくる。
「シャルロッテ、それってもしかして……」
「ええ。ロゼッタさん、あなたのお姉さんは死んでなんかいない。今はテレーゼお嬢様として生きているんですよね」
「……はい? な、何をおかしなことを! 適当を言わないでくださいッ!」
「適当なんかじゃないッ!!」
声を荒げたロゼッタさんに、シャルロッテも負けじと声を張り上げた。
睨み合い。
お互いの視線と意地がぶつかり、目には見えない火花を散らす。
「入れ替ったと考えれば、すべて説明がつくんですよ。病気で寝込んでいたテレーゼさんはそのまま亡くなり、博士は身代わりとしてあなたの姉を改造した。だからあなたたちを可愛がっていたブランドさんはいつになく怒った。だから、あなたはテレーゼさんに対して優しくなった。一番自然な結論なんです」
「証拠は何か、あるんです?」
ロゼッタさんの問いかけに、頷くシャルロッテ。
すかさず、私はカバンの中から大きな包みを取り出した。
布をほどけば、たちまちしゃれこうべが姿を現す。
虚ろな眼窩が、怨むようにロゼッタさんの姿を捉える。
その視線に応じるように、忌々しげな舌打ちが聞こえた。
「……遺骨です、鑑定すればテレーゼさんの物だってわかるでしょう」
「……なるほど。ブランドはやられたんですか。その様子だと、死にましたね?」
そういうと、ロゼッタさんはメイドの象徴ともいうべきカチューシャを外した。
白銀から漆黒へ。
柳の枝のように風へと広がった髪は、瞬く間に輝きを変えた。
色彩の七変化。
私は濡れ鴉にも似た見事な黒に、思わず息をのむ。
それと同時に心の奥底から、記憶があふれ出してきた。
「……黒! 黒曜の色! あなた、ハバリア人だったの!?」
「そうですよ。純血のハバリア人です」
「ということは……!」
「こうなったらすべて説明しましょう。長くなりますから、ゆっくり聞いていてください」
質問を投げようとする私を、ロゼッタさんは手で制した。
そして軽く咳払いをすると、壁にもたれかかり、落ち着き払った様子を見せる。
先ほどまで彼女が見せていた焦燥感は、すべて演技だったかのように消え失せていた。
「さて、どこから話したものでしょうか……。もともと、私たち姉妹はハバリアの田舎町に住んでいました。ですが、戦争が勃発してすべて焼けてしまったんです。父も母も、家も財産も知り合いも。みんななくなってしまいました。そこへやってきたのが、シュタイナー博士でした」
「……あなたたち、孤児だったのね」
「はい。当時のハバリアはひどい有様で、頼る人の居ない私たちは市場の端で死にかけていました。そこをたまたま通りがかった博士に拾われたんです。やがて娘が居なかった彼は、私たち二人を義理の娘としてこのリンデンに連れ帰りました」
「メイドでは、なかったのね?」
「はい、『その時は』家族でした」
淡々とした口調が『その時は』という部分だけ、微かに乱れた。
堪え切れない感情が、仕草の端々からにじみ出ている。
博士と彼女たち姉妹の間に何があったのか、想像するだけで胸が苦しくなってきた。
「それからは幸せでした。こんなに大きなお屋敷に住めて、本当に何不自由なかったです。学校も、超一流の名門校に通わせてもらいました。でも、今から五年前……血の繋がった娘のテレーゼが現れたんです」
「……いきなりですか?」
「そんな、テレーゼさんは今年で十八歳になるのに?」
驚きの声を上げる私たち。
それをよそに、ロゼッタさんは冷静に話を続ける。
そのまったく同様のない冷え冷えとした声が、逆に恐ろしかった。
「テレーゼさんの母親と言うのは、行きずりで博士と関係を持った商売女でして。博士をどこの誰とも良く知らなかったので、子どもが生まれても仕方なく一人で育てていたようなんです。ところが五年前、博士は人工心臓を開発して有名になりました。それで博士のことを知った彼女は、いきなり連絡を取ってきたんです」
「ブランドさんは、今は亡き奥様って言っていましたけど……」
「外聞が悪いので、戸籍上は結婚したのです。そのあとすぐに……始末したんでしょうね」
思わず、私とシャルロッテは唾をのんだ。
この事件の闇は、予想していたよりもずっと深そうだ。
眉をしかめて、このまま耳をふさいでしまいたいぐらいだった。
嫌な感情が胸の奥底に沈殿していく。
義理の娘と実の娘、殺された母親。
人間関係が、完全に破綻してしまっている。
「私たち姉妹は、それまで七年間も博士の娘として過ごしてきました。でも、血の繋がりと言うのは大きいんでしょうね。最初は渋っていた博士も、すぐにテレーゼを実の娘として受け入れました。代わりに私たちが、拒絶されたんです。真実を知るものはすべて追い出し、いつの間にか私たちは昔から屋敷に仕えている使用人ということにされてしまいました」
「……酷い」
「まだこの頃は良かったですよ。テレーゼが死亡した後は、私たちに当たり散らすようになりましたから。拳銃を突きつけられて、『お前が殺したんだろう?』って何度言われたことですかね。本当に、何度殺してやろうかと思ったことか……。結果として、ブランドさんが彼を殺してしまいましたけど」
顔を下に向けて、どこか残念そうな顔をするロゼッタさん。
だがそれは、博士が死んだことが残念と言うよりは、自分でとどめをさせなくて残念と言った雰囲気であった。
きつく結ばれた唇の端が、静かながらも切々と彼女の壮絶な悔しさを物語っている。
「ブランドさんはおそらく……テレーゼさんの蘇生のためとはいえ、博士が大量の人間を犠牲にする計画を立てたことに堪えられなかったんですね?」
「はい、彼は優しい人ですから。それはもう大反対でしたよ。そこを無理やり従わせようとして、博士はあの日、拳銃を手にしたんです。それで、もみ合いになって殺してしまった」
「ブランドさんと関係が深いうえに、熟練の星錬術師であるあなたは、事件のトリックと真相にすぐ気づいたんですね? その手に出来ているタコ、小さいころからアストロラーベを良く使い込んでいる証拠ですよ」
「良くわかりましたね? いつからですか?」
ロゼッタさんの眼光が、一段と凄みを増した。
シャルロッテは軽く顎を持ち上げると、少し誇らしげに答える。
「タコ自体には、結構前から気づいていました。それがアストロラーベのタコだって気づいたのは、この間、研究室に行ったときですね。あなたが懐中時計を手にした時、ちょうどタコが時計の縁と当たる位置にあったので。そんなところにタコができるのは、時計職人かよく似た形のアストロラーベを扱う星錬術師ぐらいです」
「それで、私が星錬術師だと気づいたわけですか?」
「内職で時計を作るメイドさんなんて、いないでしょう? それよりは、もともと博士の娘だったあなたは、星錬術の教養があったって考える方が自然です。以前、私が星錬術で修理した窓をあなたは見破りましたしね」
「さすがはリンデン一の探偵さん! その通りですよ、博士は小さい頃、私に星錬術のことをみっちりと教え込みました。それにもともと、私たち姉妹は星錬術の素質を見抜かれて娘にされたようなものですから」
ロゼッタさんは感心したように手を叩いた。
しかし、頬が微かに引きつり、瞳の奥には仄暗い影がある。
心の奥では全く喜んでいないのが、ありありと現れていた。
「話を続けてください。ブランドさんの犯行に気づいたあなたは、それを利用して彼を脅したんですね?」
「そうです、私だけでは計画を遂行できませんからね。彼の力が必要不可欠でした。簡単でしたよ、彼は私に親心みたいなものを抱いていたようですから。もっとも、私は彼が大嫌いでしたがね」
「あなた、ブランドがあなたのために死んだことを知っていて、そう言うの!?」
「関係ありません。それに、失敗しましたしね。彼がジャックになってくれるはずだったのに、私のことまで見破られてしまいました」
「あなた、最初からブランドさんを切り捨てるつもりで……!」
「ええ。計画のためには必要なことですから」
ロゼッタの様子は、悪びれるどころか少し誇らしげにすら見えた。
人を利用できるだけ利用しておいて、何の感慨も抱かないらしい。
私は胸が気持ち悪くなってくるのを堪えながら、質問する。
「……計画って、いったい何をしようとしていたの?」
「大したことじゃありません。博士の計画を流用して、テレーゼではなく姉のために新たな肉体を用意することにしたんです。改造されたあの肉体は、もう限界ですからね。姉が元気になるためには、新しいものがどうしても必要なんです」
「そのためにあなたは……何の関係もない人間を、あれだけ殺したの!? あんなにも惨たらしくッ!!」
あまりの言い分!
私は感情のままに立ち上がると、椅子を蹴飛ばしながら彼女を睨みつけた。
無。
こちらを見つめ返したロゼッタの瞳は、さながら飛び回る蠅でもぼんやり見ているかのように、虚ろで無関心だった。
熱くなっていた血が一気に冷めてくる。
高い崖の上から、底知れない谷底でも眺めてしまったかのような感覚だった。
恐怖に息が詰まる。
いったいどのような過程を経れば、人間がこんな表情をできるのだろう……!
「ダメですか、殺したら?」
「何を、ふざけたことを言うのよ……!」
「だって、帝国人は私たちの家族を殺しましたよ? 私はただ、彼らに奪われたものを取り返そうとしただけです。少しばかり、大げさになったことは否定しませんけどね。町の人間が震えあがるところは、叫びたくなるぐらい爽快でしたよ!」
何がおかしいのか、表情を緩めると愉しげに声を出して笑うロゼッタ。
狂っている。
この少女は、心のどこかがゆがんで壊れてしまっているのだ。
いつの間にか体中に汗をかいていた私は、彼女から一歩距離を取る。
さすがのシャルロッテも、愕然と顔をひきつらせていた。
「なんです、二人とも。怖い顔をしてますけど」
「人を殺しておいて、どうしてそんなに楽しそうなのよ……!」
「そりゃあ、大切なものを取り戻したわけですからね。聖地を奪還した戦士のように、誇らしい気分にこそなりますが、恥じることなんて全くありません」
「……めちゃくちゃだわッ!! まるっきり狂ってる!」
「それを言うなら! 私にはこの国の方が――」
「おりゃあッ!!」
激烈なる気迫。
シャルロッテの拳が目にもとまらぬ速さで振り抜かれ、ロゼッタの頬を撃ち付けた。
造りの小さな顔が激しく歪み、顎が天を仰ぐ。
細く華奢な体はそのまま斜め後方へと吹っ飛んで、すすべもなく床へと転がった。
彼女は頬を押えながら上半身を持ち上げると、酷く驚愕した様子でシャルロッテを見据える。
シャルロッテの顔は――どこか吹っ切れたようだった。
彼女の境遇に対する複雑な思いを、すべて取り払ったかのようだ。
その純粋たる怒りの表情に、私も憑き物が落ちていくような気分になる。
「殴られた! 一切の憐れみも容赦もなくッ!! 思いっきり殴られたッ!!!!」
「当たり前よッ! 最初は少し同情したけど、今のあんたは悪だわ! 紛れもない悪でしかないッ!!」
「ふざけないでよ! 私はただ、無くしたものを取り返そうとしただけ――」
「人を殺して笑ってるような奴は、例えどんな理由があろうと悪なのよッ!! たったいま、そう決めたわッ!!!!」
理屈になってないような理屈だが、シャルロッテはそれで押し切ってしまった。
驚嘆すべき割り切りの良さである。
ロゼッタはもう、同情を誘うことはかなわないと察したのだろう。
軽く舌打ちをすると、私たちから距離を取ってアストロラーベを構える。
使い古され、銀の金具が手垢で金色に変色したアストロラーベは、歴戦の古強者を思わせた。
油断のできない強敵だと、第六感が告げる。
「これは……戦うしかないですね?」
「ええ。こっちも、覚悟はできてるわ。シェリーも大丈夫よね?」
「もちろん。この期に及んで、甘いことは言わない。こいつは、徹底的に倒す」
「そうですか。じゃあ、始める前に一つだけ言っておきましょう。最後の星錬は日曜日でなくても、やろうと思えばいつでもできるんですよ」
「……それはどういうことかしら?」
「つまり――」
ロゼッタは口の端を歪めると、言葉を含んだ。
彼女は私たちの反応を楽しむように、しばし間を置く。
ただ立っているだけで神経が磨り減るような緊迫感が、周囲を満たした。
そして――
「今あなたたちの心臓を奪って、姉さんの体を完成させるってことですよォッ!!!!」
雄叫び。
それと同時に、ロゼッタの手元で青い光が弾けた――。
とうとう最終決戦が始まります!
感想などありましたら、よろしくお願いします。




