第11話 二人目の依頼者
夕焼け空を数羽のカラスが飛んでいく。
フクロウなど、一部の鳥以外にとって夜は視認性の悪い不利な時間帯である。
日が落ちて暗くなる前に巣へ帰るのだろう。
カラスたちの降り立つ森の中には夕闇に沈みつつあるボロい神社があり、その鳥居の前に一人の少女が立っていた。
このような時刻に来客であろうか。
赤い髪を左右で結んでいる少女は馬鹿でかい声で叫び始める。
「アーゲハせーんせ! カエデちゃんが来てあげたよ~!」
大きな声に驚いたカラスたちは、せっかく帰ってきたばかりだというのに巣から飛び立っていった。
はた迷惑な小娘である。
「そんな大きな声を出さなくても聞こえるって! 近所迷惑だよっ! まあ、近所なんていえるほど近くに家はないんだけど……」
インターホンいらずの爆音で呼び出されたのは、この神社の巫女であるアゲハだ。
最後に実態をボソッと呟いた彼女は、箒片手に神社を掃除していたらしい。
ただ、もう片手に大量の付箋の貼られた「勝てる! FX!」と書かれた雑誌を開き持っているので、真剣に掃除していたのかは疑わしいところである。
「あーカエデね。良い術を見せてもらったから良く覚えているよ。髪型変えたんだ?」
「そーだよっ! オカルト部のエース! カエデちゃんだぞ! お団子にするの面倒だもん!」
いつの間にか自称が超新星からエースに進化したカエデ。
駆け寄ってきた彼女をジト目で見たアゲハは、手水舎の柱に箒を立てかけた。
ちなみに手水舎というのは、お参りの前に手と口を清める場所である。
ただし、手桶は持ち手が半ばで折れ、石の水だめは落ち葉で埋め尽くされており、清めるどころではない。
廃墟級のボロ神社である。
「それにしても……。ボスもだけど夕暮れ時に来るのが好きだよね?」
「学校が終わったあとに来たからだぞ~! ちょっと遠いんだ!」
「黄昏時にウロウロするのは危ないんだよ?」
雑誌を大きな裾に放り込んだアゲハは、腕を組みながら赤髪少女カエデと前回の依頼主である金髪少女マイヤの共通点を挙げて注意した。
黄昏時とは誰そ彼時とも読み、霊的存在と遭遇しやすい時間帯なのは常識である。
昼から夜へ移り変わりは世界の移り変わりに近いため、世界の境界が曖昧になり現世に常世の存在が現れやすくなってしまうのだ。
また、単純に視認性が下がるので、危険を避けにくくなる時間帯ともいえる。
「そうなのっ!?」
オカルト部に所属しているはずのカエデは、常識を初めて知ったかのように驚愕した。
いや、マイヤ部長いわく。何度もしたハズの注意を忘れていた彼女だ。
忘れてしまったというのが実態かもしれない。
常識を忘れるとは、とんだエースがいたものである。
「まあ、この辺りの連中は大体カツアゲして追い払ってるから大丈夫! 街から神社までの間は安全だよっ!」
「さっすが~!」
神社の神域ではなく暴力によって安全を確保しているとは、恐ろしい巫女だ。
まさか霊的存在も、現世に現れてカツアゲされるとは思わなかったであろう。
「で……?」
「ん?」
「もちろん、何か理由があって来たんだよね?」
「あっ! そーだった!」
ニタァと笑ったカツアゲ巫女の問いかけに対して、元気にビシッと手を上げた自称エースは、瞳を輝かせながら返答する。
「アゲハ先生っ! あたしを鍛えて欲しいんだっ!」
「鍛えるぅ?」
怪力乱神の巫女を前にして、凄まじい度胸である。
何も考えていないだけかもしれないが。




