9.嵌められるのは大嫌い
俺は馬に乗って、レバンタイン王国へと続く街道を北進していた。
俺の周りにはムチムチ美女が貸してくれた、聖剣教会聖騎士団とかいう騎士が二十名付き従っていた。
ここまではいい。ここまでは、不本意ではあるがまあ許せる。
問題なのは、隊列の真ん中の八頭立ての白い華美な馬車だ。
「ちょっと! あなた! そろそろ休憩にしませんこと? そんなに早く戦場に行きたいわけ?」
馬車の窓から、女房気取りの王女様が俺にそう言った。
王女様は、どうしても俺について戦場に行くと言ってきかなかった。
確かにひとりで魔窟のような王宮に残してくるのも気が引けたが、いくら何でも戦場は危険すぎる。その証拠にあの国王が大賛成した位だ。
「聖剣の勇者様の妻として誠にあっぱれ。戦場で勇者様をお支えするのです」
王族というものは、心にもないことを平気で言いやがる。
どうでもいいが、この聖剣教会聖騎士団の騎士というのは、そろいもそろって若いイケメンぞろいだ。あのムチムチ美女の趣味だろうが、なんかムカつく。
「王女様、お疲れになりましたか? では休憩しましょう」
そのイケメンの中でもとびっきりのイケメン、フランソワとかいう副官が、やたら王女に気を遣っている。勝手に隊を止め、休憩を始めてしまった。
「申し訳ありませんな、勇者様。勇者様の許可なく隊を止めてしまいました」
聖騎士団で唯一のおっさん、グレゴリー団長が俺に申し訳なさそうに言う。
「別にいいぜ、実質的なこの隊の主は王女だからな」
俺はそう言うと、馬から下りて木陰の切り株に腰を下ろした。
まあ、いつもの癖で生真面目に行軍していたが、今回の件はそう真面目に取り組む案件でもない。ゆっくり休憩しながら行くのも良いだろう。
どこに隠し持っていたのか、豪華な絨毯の上で王女がイケメン騎士達に囲まれて紅茶を楽しんでいる。美男に美女、これが正しい在り方だろう。
「失礼ながら勇者様、勇者様は馬にはかなり慣れているようですな」
そう言って、グレゴリーが俺に紅茶の入ったコップを持ってきてくれた。
「まあな。昔ちょっと乗っていたことがあったからな」
「今まで山の中で、水晶採りのお仕事をされていたと伺いました」
「ああ、労多くして得るもの少なしっていう典型的な仕事だ」
初夏の今頃は、山は所々残る残雪と、高原植物が美しい季節だ。あの自然豊かな落ち着いた生活が好きだった。それが突然こんなことになるとは。それとも俺が争いを呼び寄せているのだろうか。
暗燦たる気持ちで紅茶をすすっていた、その時だった。
全身の肌が粟立つような感じがした。忘れもしない、この感覚。俺はすぐに立ち上がると走り出し、王女に覆いかぶさった。
「ちょっと、あなた! 若い男達とわたしが楽しんでいたからって、これはあまりにも破廉恥過ぎですわよ!」
「違う、敵襲だ! みんな伏せろ!」
まるで俺が王女に覆いかぶさるのを待っていたかのように、雨あられと矢が降って来た。俺は王女と一緒になって絨毯の下に隠れた。こういう高級な絨毯は、意外と矢を通さない。
矢が収まると、騎馬に乗った騎士達が襲い掛かって来た。王宮で見かけた国王の騎士団だ。俺達を戦場に送り込む前に、始末したくなったようだ。
当然目的は俺よりも王女の方だろう。
俺は背中に背負っていた聖剣を降ろし、巻いていた布を取り払った。
正直、本当にこれは聖剣なのだろうかと思う。いや、元は聖剣だったと言うべきか。刃が何百年も経つうちに鈍りまくっちまったのだろう。手を押し付けても全く切れない。まるで包丁の背のような刃だ。
俺は近づいてくる王国騎士の兜を、聖剣で思いっきり叩いてやった。
凄い音がして、脳震盪を起こした騎士が馬上から転がり落ちて気絶する。騎士としては最悪な負け方だと思って同情する。
そのうち、相手の一番偉そうな奴が襲い掛かって来た。その男の甲冑だけは、金で縁取られていた。俺はそいつの剣を聖剣で吹っ飛ばすと、首根っこを捕まえて組み伏せた。
「どうして俺達を襲う。ちゃんと戦場に向かっている途中だ。確かに休憩は多めにとっているけどな」
「何を言う! お前が国王陛下と、第一、第二王女殿下を殺害したからだろう!」
その騎士は、俺を心底憎しみを込めた目で睨んでいた。
「何を言っている。俺はずっとこの街道を進んでいたぞ」
「隠しても無駄だ! 傍にいた侍従が、王を殺害した者が『聖剣の勇者』と名乗ったのを聞いている」
それ、絶対俺じゃない。
そもそも国王を暗殺しておいて、自分から名乗る奴がいるだろうか。
またしても何者かに嵌められている。
この俺が、こうもたびたび嵌められているのは気に食わない。俺は嵌めるのは好きだが、嵌められるのは大嫌いだ。




