10.小物的セリフ
わたしは不覚にも、ドキドキしてしまった。
殿方にあんな風に押し倒されて、抱きしめられたのは生まれて初めてだった。しかも絨毯の中で密着してしまい、自分の心臓の鼓動を初めてあんなに意識した。
相手があのおっさんだったというのが致命的だ。
ああ、どうしてもう、あんなにイケメンに囲まれていたのに。よりによって抱きしめてくれたのが、何であのおっさんなのよ!
まあ、冷静に考えればわたしの夫なのだけれど。
ベストラが寄越した、イケメン騎士軍団は強かった。
わたし達に襲いかかって来た王国騎士団と、その兵達を蹴散らしてしまった。
おっさん……そう言えばまだ名前を聞いていなかったわね。おっさんが王国騎士団長を捕まえたので皆で尋問すると、国王と王女二人をおっさんが殺したと言って、怒り狂っていた。
何を言っているのだろうか。
正直知り合って間もないが、このおっさんにはそんなことを出来る甲斐性などない。
行く必要もない戦場に向かって、律儀にたいして休みもとらずに行こうとしていたくらいだ。
「何だかよく分からんが、俺は王国から追われる身になったようだ。この先にいる、レバンタイン王国と交戦中の友軍と合流したところで、捕まるのがオチだろう」
おっさんがイケメン騎士達に話している。
心なしか、今回の戦闘を経て、イケメン達がおっさんの言うことを素直に聞くようになっている気がする。
「だが、お前達はとばっちりだ。王都に帰って、聖剣の勇者がいきなり気が狂って暴れだしたので捨ててきました、とでも言っておけ」
イケメン騎士達の沈黙を破って、フランソワが口を開いた。肩まである金髪に栗色の瞳がかっこいい。
「バーラ王女様はどうされるのです」
また騎士達に沈黙が流れる。
「わたしは夫について行きますわ」
わたしは堂々と言ってやった。
「戦場の夫を支えるためにここまで来たのです。王国騎士団から狙われたからといって、それは変わりません」
わたしは嘘をついた。国王やアニエス達が殺されても、末弟のヌートラ皇子がいる。わたしが王宮に帰っても、国王派に殺されるに決まっている。後ろ盾がないわたしには何も出来ない。もうこのおっさんにわたしは全賭けしたのだ。腹はもう王宮を出た時から決まっている。わたしに帰る場所はない。プチ・パレはもう閉鎖してきた。リュシー達には十分なお金を与えて実家などにすべて帰した。
「なら我々聖騎士団も従います。大司教様から、何があってもバーラ王女様と聖剣の勇者様を守るようにと仰せつかっております」
あら、ベストラったら、意外と人望があるのね。しかもこんなイケメン達から。ちょっと嫉妬するわ。
「これからいかがするおつもりです、勇者様」
もうひとりのおっさん、グレゴリー聖騎士団長様が我が夫に聞く。
「う~ん、まあ、こういう時の正攻法で行けば、敵の敵は味方。レバンタイン王国に行くのが正しいんだろうなあ」
「さすがは聖剣の勇者様、肝が据わっておりますな。このグレゴリー、勇者様に惚れましたぞ」
「……はあ……そりゃありがとうよ」
「しかし、レバンタイン王国軍は先日から、あの恐ろしい男が指揮をとり、それ以来我が王国は連戦連敗。大きく戦線は押し込まれております。この状況で助けを求めても、あの男が受け入れてくれるかどうか疑問です」
「フハハハハハ! 自分達の立場を思い知ったか!」
突然の大笑いにわたしはびっくりしてしまった。縄でぐるぐる巻きに縛られていた王国騎士団長が、急に笑い出したのだ。
「ヒャッハー! 貴様達の行く先には死しかない。あの冷徹非情な『閃光』のバラデュール公が、我々に代わってお前達を成敗してくれることだろう!」
わたしはあまりにも典型的な小物悪役的なセリフに、つい吹き出してしまった。




