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おっさんの俺が、処刑寸前の王女を嫁に貰ったがどうすればいい!?  作者: 渓夏 酔月
第一章 処刑される王女

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7.あなたはだあれ?

「国王はそうとう警戒しているわね」


 わたしの寝室の窓から外を見て、ベストラがそう言った。


 プチ・パレ(小宮殿)の周りの街灯が、国王の兵士達を照らしている。門では、ベストラが連れて来てくれた武装神官達が警固してくれている。


 お風呂から出てさっぱりしたわたしは、自分のベッドに横になった。


 昨晩は地下牢で寝たせいか、ことのほかベッドが気持ちよく感じる。これが味わえるのなら、たまには牢獄で寝てみるのも悪くはないわね。


 下に目をやると、絨毯の上でおっさんが熟睡していた。


 何でも昨日はほとんど寝ていなかったようだ。


 ベストラに言わせると、今晩は初夜にあたるはずだから、夫婦で別々の部屋で寝るのは怪しまれるらしい。それでおっさんをわたしの寝室に入れたのだが、同じベッドに寝るなど死んでも嫌だったので床に寝かしたのだ。


 おっさんの疲れ切った寝顔を見て、そう言えばこれが憧れの結婚初夜だったと気づいてわたしは愕然とした。


「とりあえず今日の処刑は回避したけど、国王は絶対あなたの命を狙ってくるわよ」


 そう言ってベストラは、窓のカーテンを閉めた。


 寝室のドアがノックされる。ノックの仕方でリュシーだと分かる。


「リュシー、いいわよ」


「新婚初夜の寝室に失礼しますね、お嬢様……げっ!」


 サンドウィッチと飲み物を持ってきてくれたリュシーは、床に寝ている我が新郎を見てはしたない叫び声を上げた。


「このおっさん……いえ、旦那様は、聖剣の勇者様とお聞きしました。聖剣の勇者様と言えばこの国どころかアルスべールすべてを守ってくださるお方と聞いております……聞いております……が、だいぶ私のイメージと違うような……」


「そうね。聖剣の勇者様のお話は小さい時から絵本で読んでいるけれど、そこに描かれていたのは若いイケメンだったわね。そこのところどうなっているのよ、聖剣教会大司教様」


 ベストラは、サンドウィッチにぱくつきながら言った。


「聖剣教会からは聖剣の勇者様がイケメンともブサイクとも何とも言っていないわ。まあ、案外こういうものかもね」


 お行儀の悪いのはベストラに影響されたことにして、わたしもサンドウィッチをベッドに腰掛けながら食べる。


「どうせわたしを助けるために、ベストラがそこらへんでヒマそうにしていたこのおっさんに、あなたが引っこ抜いた聖剣を無理やり持たせたのでしょう?」


「それがね、違うのよ」


 ベストラは、床に転がるおっさんを見て言った。


「わたしも最初、バーラが言ったようなことをしようと思っていたの。それで鑿と金槌を買ってきて、聖剣の刺さっている岩を破壊してやろうと思ったのよ。それが全然硬くて岩に引っかき傷くらいはついたけど、ほんの少し削ることすら出来なかったわ」


 リュシーもベストラの言うことを、興味津々に聞いている。


「それでもバーラを助けたくて朝まで頑張ってみたけど、岩も剣もいくら鑿で削ろうとしても削れないのよ。おかげでわたしの手は血豆だらけよ」


 そう言ってベストラは、血豆だらけの手のひらを見せてくれた。


 こんなにわたしのために頑張ってくれたなんて、持つべきものは親友だと思った。感謝しかない。


「もうやけくそになったわたしは、まだ早朝で誰もいない教会の外に出てみたわ。そうしたらこのおっさんが酔っぱらって目の前をふらふら歩いていたのよ。わたしはもう何でもいいやと思って、このおっさんを教会の中に引き入れて、聖剣を抜かしてみたの。そうしたらあら不思議、どれだけやっても抜けなかった聖剣が、スルっと抜けちゃったのよ」


「ベストラがいろいろと鑿で叩いたりして、抜けやすくなっていたのではなくて?」


「違うわよ、バーラ。だって鑿で打とうが金槌で打とうがびくともしなかったのよ。こんな偶然あるかしら」


 わたしとベストラは、ふたたび床に寝転がるおっさんを見た。とてもじゃないが、絵本の聖剣の勇者様とは似ても似つかなかった。


「あのう、お嬢様。ひとつお聞きしてもよろしいでしょうか?」


 リュシーが遠慮がちにわたしに聞いてくる。


「ところで旦那様は、お名前は何と言うのでしょうか?」


 リュシーに言われて、わたしは自分の結婚した相手の名前も知らなかったことに気づいた。ただ、『おっさん』としか思っていなかった。


 よく考えてみれば、夫の名前を知ろうともせず、新婚初夜に床に寝かせるなんて、わたしは相当な悪妻なのかもしれない。いちおう命の恩人なのに。




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