45.招待状
正直俺は考えあぐねていた。これからどうすべきかを。
エフレムがサーマイリー王国と名付けた小さな国は、近隣の集落をいくつも配下に納めて目下急速拡大中らしい。『大聖女』がエフレムと行動を共にしていることと、『大聖女』を神聖視する神聖教会がエフレムを支持していることで、多くの民衆はエフレムを歓迎しているようだ。
このミディアナ王国にすぐにでもエフレムが攻め込んでくるのではないかと、街の住民は戦々恐々としていた。
「あなたのお好きなようになさい。わたしはどこまでもあなたについて行きますわ」
バーラはそう言って、毎日ショッピングや観劇などに出かけている。どうやらエドガー国王のツケにしているらしい。凄まじい女だ。
恐らくバーラは気ままに遊んでいるふりをして、俺にプレッシャーをかけないようにしているのだろう。本当に良く出来た女房だ。
腰の調子もすっかり良くなった俺は、真昼間から酒場に出かけてマルタと飲んでいた。
酒が美味しく飲めるのも、健康あってのことだと心底思った。そんなことを思うようになったとは、俺も年だな。
「兄貴どうするんスか? 気に食わないけどエドガーと手を組んで、エフレムをぶっ殺します? 俺はエドガーのことを嫌いだけど、エフレムはもっと嫌いっス」
酒場の前の通りでは、物資を乗せた馬車が行き交っている。ちょっと前には見られなかった光景だ。エドガーはエフレムと戦うつもりなのだろう。
バーラの話を聞くと、エドガー国王へのツケはすべて通っているらしい。恐らくエドガーのことだ、俺達の動きも逐一報告させているに違いない。ソフィのこととは別に、エフレムと戦うことを想定して、俺達のことを懐柔しておきたいのだろう。
酒場は噂話の宝庫だ。俺が失恋してやけ酒を飲んでいた時に知り合った奴らが、街の噂を教えてくれる。
「エフレム様は裏切者のミラン様を探し出して、カストラ様の仇を討ちたいらしい」
「ミラン様がカストラ国王を暗殺した際に抵抗したエフレム様は、重傷を負って今まで隠れていたらしい」
「大罪人のミラン様はミディアナ王国にいて、エフレム様を返り討ちにする機会をうかがっているらしい」
街の噂話には荒唐無稽なものが多いが、時々真実が混ざっている。その真実は、誰が何のためにその噂を流しているのかを考えることで明らかになる。俺は酒場の面々から聞く噂話に耳を傾けながら、これもルスラン様から教わったことだったなと思い出していた。
それにしても腑に落ちないことが多すぎる。
何故突然エフレムは今更行動を起こしたのか。どうして俺を焚きつけるような情報を流すのか。奴にとって俺はそんなに価値のある男なのだろうか。
俺は何かを見落としている。
考えのピースを埋める情報が欲しい。
そのために今日もわざわざ目立つ大女と一緒に、真昼間から酒場のテラス席で飲んでいる。この前俺が失恋酒を飲んでいる時に知り合った連中も加わって、なかなかの騒がしさだ。
「おお、兄ちゃん失恋から立ち直ったのか! 新しい恋人は……まあでかくて丈夫な方が何かといいこともあるからな! お祝いだ、飲もう!」
いつの間にかマルタは俺の新しい彼女ということになっているようだ。誤解も甚だしい。それを聞いてマルタが喜んでいるのが逆に怖い。
「バーラ姐さんには内緒っスよ!」
そう言ってマルタが俺に酒をなみなみと注ぐ。ちなみにバーラはマルタよりだいぶ年下なのだが、マルタは姐さんと呼んでいた。聞けば何となくだと言う。まあ、バーラには何故かそういう貫禄というか、頼りがいのあるようなところがある。王女様っていうのはこんなものなのだろうか。
大女とテラス席で飲むこと三日目に、とうとう俺が待ち望んでいたものがやって来た。
いつもの席に座ると酒場の主人がやって来て、俺に渡すように頼まれたと言って封筒を差し出した。
中には観劇の招待状が入っていた。
そう、俺はこれを待っていたんだ。
エドガーにセシル様の噂、そしてエフレム。そして真昼間から俺とマルタがここで飲んでいる。あいつなら、必ず向こうから接触してくるはずだと思っていた。




