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おっさんの俺が、処刑寸前の王女を嫁に貰ったがどうすればいい!?  作者: 渓夏 酔月
第一章 処刑される王女

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4.バーラ

 最後の日の朝、わたしは自分でもびっくりするほどよく寝て、快適な目覚めだった。


 地下牢の中で最後の朝食を楽しんでいると、典獄がなにやら慌ててやって来た。


「王女様、国王陛下がお呼びです」


 わたしはプチ・パレ(小宮殿)から着の身着のままで連れてこられたままの、薄汚れたドレスだったのが嫌だった。でも、着替えをさせてくれる雰囲気でもなかったので、おとなしく国王の使いとやらについて行くことにした。


 どうせあの気の小さい叔父のことだ。わたしが死後に化けて出てくるのが怖くなって、殺す前に懺悔でもしたいなどと言い出したのだろう。


 王宮の大広間に行くと、もの凄く沢山の人が集まっていた。叔父が大勢の貴族の前で、わたしを断罪でもしようというのだろうか。


 でも、何だか雰囲気が変だ。わたしが大広間に足を踏み入れると、皆が一斉にわたしの方を向く。まるで亡霊でも見るかのようだ。失礼しちゃうわ。わたしが亡霊となってお前達を襲うのは、もう少し後になってからだ。


 わたしの叔父、国王ローゲが縋るような目でわたしを見る。


「バーラよ……聖剣の勇者様が、お前との結婚をお望みだ」


 よく見ると叔父の隣には、引き攣った顔の第一王女アニエスと第二王女デボラがいた。その隣に満面の笑みを湛えたわたしの親友であり、聖剣大司教のベストラが立っていた。


「……聖剣の勇者様って何ですの。いきなり連れてこられて話が良く見えませんわ。叔父様、きちんと説明して頂きたいですわ」


 叔父は蚊の鳴くような声で言った。


「そちらの……聖剣の勇者様が……アニエスでも……デボラでもなく……バーラ、お前をお望みなのだ」


 わたしは状況が理解できない。


「こちらが聖剣の勇者様で~す!」


 そう言ったベストラが指し示す先には、片手に剣をぶら下げた疲れたおっさんがいた。


 おっさんは、おどおどしながらベストラに言った。


「さっきも聞いたけど、結婚しないってのはダメ?」


「聖剣の勇者様はその特典として王女を嫁に出来ま~す! 結婚しなかったら残念ながら勇者様は死刑になりま~す! これは六百年前に出来た聖剣法典に書かれている決まりなので、たとえ国王様といえども覆すことは出来ませ~ん!」


 ベストラはわたしの方を向いて、さらに言った。


「なお、聖剣の勇者様に選ばれた王女様は、どのような罪を犯していたとしても恩赦され、それらの罪は無かったことになりま~す!」


 ベストラが国王の顔をまじまじと見る。


「よいですね、国王陛下!」


「……はい……聖剣の御心のままに……」


 おっさんの顔をベストラが覗き込む。


「勇者様もよいですね」


「……」


「死刑ですよ」


「……わかりました」


 次にベストラが、わたしに顔を近づけて小声で言う。


(助かるなら何でも我慢するって言ったでしょ。あんなのしか用意できなかったのは謝るけど、わたしだって頑張ったんだから)


 さっとわたしから離れたベストラが、両手を広げて大仰に言う。


「さあ、王女バーラよ。聖剣の勇者様と結婚することを誓いますか」


 そう宣った親友に、わたしは胸を張って言ってやった。感謝を込めて。


「ふん。いいわ、結婚して差し上げますわ。聖剣の勇者とやら。この王女バーラを嫁に出来ることを、一生の功(いさおし)となさい」


 聖剣の勇者様というおっさんの、うつむき加減の目は虚ろに泳いでいた。


「早速結婚式を執り行います! 聖なる指輪の交換を!」


 そう言ってベストラは、王家の紋章である、百合と剣が刺繍されたビロードの上に載せられた二つの指輪を差し出した。この指輪は数千年前の聖剣から造られたものらしく、聖剣と同じ淡い琥珀色に輝いていた。


 いくら待ってもおっさんが何もしなかったので、わたしは指輪を自分の指と、おっさんの左手の薬指にはめた。


「おめでとうございます! お二人ともお幸せにね!」


 ベストラの大きな祝福の声につられて、大広間に集まった貴族達がまばらな拍手をした。


 これがわたしの密かに憧れていた、自分の結婚式だった。



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