3.聖剣教会
地下牢からの帰り道、聖剣大司教ベストラは市場で鑿と金槌を買ってきた。ダイヤモンドをも穿つという、目玉が飛び出るような高価な鑿だ。
『本日臨時休業』
そう書かれた看板を聖剣教会の入り口に掛けると、ベストラは早速買って来た鑿と金槌を取り出した。
(六百年も誰も抜けなかった聖剣を、明日の昼までに抜かなきゃいけないんだから非常手段よ。聖剣の神様ごめんなさい)
ベストラはひとり、教会に閉じこもった。
☆ ☆ ☆
俺はニールの奴が家に来た時に、悪い予感しかしなかった。
「ポールさん、頼むよ。ダジルがぎっくり腰になっちまったんだ」
夜中にやって来たニールが言うには、明日からの町内会旅行の護衛をやるはずだったダジルがぎっくり腰で行けなくなった。代わりに俺に行って欲しいとのことだった。
「あんた、水晶を売りに王都へはちょくちょく行っているじゃないか。最近物騒だし、じいさんばあさんだけじゃ心配なんだ。頼むよ、ダジルの奴がポールさんに頼めって言うんだ」
俺はダジルの奴から借りがあった。
先日造ってもらった水晶採りに使う、鏨の代金をまだ支払っていなかった。
「当然、あんたの旅行代金は町内会で持つよ。小遣いだって支払ってもいい。王都でタダ酒飲んできなよ」
タダ酒に引っかかったのが運の尽きだった。
結局俺は町内会旅行の付き添いで、じいさんばあさん達と一緒に王都に行くことになった。
王都での夜、やけに色気づいたじいさんとばあさん連中を放っておいて、俺は久々に王都で飲むことにした。他人の金で飲む酒は旨い。久しぶりに懐が暖かくなった俺は、朝までへべれけになって酔っぱらった。
朝方、酒場のおねえちゃんに起こされた。俺はまだ朝早い王都を、じいさんばあさん達の待つ宿へと千鳥足で歩いていた。
「ねえ、お兄さん。よかったらヌイていかない?」
そう言って微笑んでいたのは、紫色の慎み深い聖衣の上からでもはっきりと分かる、凄く胸と尻のでかい美人の女だった。それもただの美人じゃない、何かこう、男心をくすぐる妖艶な美女だった。
「……あの……あまりお金持っていないんですけど……」
「うふふ、何をヤボなことを言っているの。さあ、入って入って。わたしと一緒に良いことしましょう」
俺は美女に誘われるがまま、酔っぱらった頭でふらふらと建物の中に入って行った。
「さあ、ヌイて頂戴!」
俺はベルトを緩めて、ズボンを降ろそうとした。
「何やっているのよ。ヌクのはこれよ!」
そう言われて周りを見ると、白い建物の壁には剣がモチーフにされた十字架がかかっていた。どうやらここは教会のようだ。美女の指し示す先を見ると、岩の上に淡い琥珀色をした剣が刺さっていた。
「さあ、あなたも聖剣抜きにチャレンジよ。抜いて頂戴!」
何となく思い出した。
これは王都を訪れる観光客に人気の、聖剣抜きチャレンジだ。
何でも何百年か前の勇者が刺した聖剣で、抜いた者は勇者となり、世界を救うらしい。一回千ゼニーで誰でも聖剣抜きにチャレンジ出来るとかで、これを目当てに訪れる観光客が多く、教会は儲かって仕方がないという話だ。
俺は財布を見た。
二百四十ゼニーしか入っていなかった。
絶対に酔っぱらって寝ているうちに、あの店のおねえちゃんに盗られたに違いない。
「……二百四十ゼニーしかありません……」
「あっ、今日はラッキーデーだったわ。お兄さん、今日はタダでチャレンジできる日よ。良かったわね~。ツイているわよ、お兄さん!」
俺はタダという言葉に滅法弱かった。
つい嬉しくなって、岩に刺さった聖剣の柄を握る。柄は多くの人がチェレンジしているせいか、薄汚れていた。
聖剣はいとも簡単に抜けた。
「おめでとうございます~!」
そう言って美女は、福引で当てた時に鳴らすような鐘を鳴らした。
どういう仕掛けになっているのか、すぐにこの教会の大鐘楼の鐘が、リンゴンと王都中に鳴り響いた。
「聖剣の勇者様の爆誕です~!」
美女はそう言って俺に抱きついてきた。聖衣を通して爆乳の柔らかい感覚が伝わってくる。
どぎまぎしている俺の耳元で、美女はこう囁いた。
「聖剣の勇者様、これからはこの聖剣教会が……いえ、このわたし、聖剣教会大司教ベストラ・アントニウスがあなたをお守りします。どうしても困った、何とかしてほしい時は『バーラ』と叫んでください。それが聖剣教会の聖なる合言葉です」
そう言って美女は、さらに胸を俺に押し付けてきた。
俺は夢見心地で頷いていた。




