31.ルスラン・サーマイリー
「君の剣は剣術というより戦術だね。おもしろいよ」
俺は自分を訪ねて来てくれた、初めて見る王族に舞い上がった。
ルスラン様は、俺達の安宿にたった一人でふらっと来てくれた。
「お給料は大して払えないし、屋敷の雑用もしてもらうことになるけど、よかったら僕の騎士団に入ってはくれないかな?」
俺は師匠と抱き合って大喜びしたよ。
それ以来俺は、ルスラン様のお屋敷に住み込みで仕えることになったんだ。
俺は住み込んでみて驚いた。第三皇子と言えば王位継承順位第三位のはずだ。どんな騎士団を従えているのかと思ったら、たった二人しかいなかった。しかも一人はグスタフという六十歳くらいの爺様で、もう一人はめったに顔を出さなかった。
やることと言えばほとんどが屋敷の雑用だった。掃除洗濯に買い出しに料理。それに加えて皇子のお使いなど、目まぐるしく忙しい毎日だった。そこで俺に家事全般を叩き込んでくれたのが、一緒に住み込みで働いていたメイドのエミリーだ。本当に世話になった。
そして少しでも暇を見つけると、俺は剣術の稽古をした。俺の『浮き技』を『嵌め技』だと断じた奴らを許せなかったのさ。
驚いたのはグスタフという爺さんだ。最初はまるで歯が立たなかった。俺は最初、王都の騎士はこんなに年をとっても強いのかと愕然とした。後になって思えばグスタフが特別だった。
グスタフには弓も習った。グスタフは弓の名人だった。当時弓はあまり騎士達から人気が無かった。遠くから攻撃するのは卑怯だと思われていたのさ。俺が教えてくれと言うと、喜んでグスタフは教えてくれたよ。いい爺さんだった。
そして時々ふらっとやってくる騎士団員のもう一人が、クレメンティーヌ・ベルナルディだ。当時彼女はセルベス公国騎士団長も兼ねていた。今ではセルベス大公様と結婚して、セルベス王国の王妃様のはずだ。
美人な上にめちゃくちゃ強かった。クレメンティーヌ姐さんは『雷槍』のクレメンティーヌと呼ばれて二つ名持ちの槍の名人だった。二つ名っていうのは王国が認めた武術の達人に与えられる称号だ。ああ、俺か、俺はもらってねえよ、悪いか。
クレメンティーヌ姐さんには当初槍じゃなくて、剣でも全く敵わなかった。本当に美しくて強くて、セルベス大公様はぞっこんだったな。俺にまでどうしたらクレメンティーヌ姐さんに気に入られるか聞いてきた位だ。そんな話はどうでもいいって? 分かったよ。
そんなことをやりながらも、地方で反乱などが起こると、ルスラン様は俺を戦場に連れて行ってくれた。ルスラン様は戦術の天才だった。王国軍の軍師はいつだってルスラン様が務めていた。俺はそれについて回って戦術の基礎を叩きこまれたものだったよ。
たった三人だった俺達の騎士団も、ルスラン様が変わり者を拾ってきたりでちょっとずつ増えていった。その時の後輩がユーグであり、マルタだ。俺だけうだつが上がらないって? 悪かったな。
確かユーグが入った頃には俺も腕を上げ、もう剣ならクレメンティーヌ姐さんに負けなくなっていた。槍を姐さんに持たしても、三本のうち二本は取れるようになっていた。
強くなった俺を見て、姐さんはもう第三皇子騎士団の騎士としてどこに出しても恥ずかしくないだろうと、いろいろな所に出稽古に連れて行ってくれた。姐さんはどこに行っても大人気だったから、出稽古先には困らなかったよ。そこで出会った一人が、この前話が出ていたエドガー・マーリントンだ。今はミディアナ王国の国王だっけ? 笑っちゃうぜ。
エドガーの奴は当時第二皇子騎士団にいた。第二皇子自体は病弱でほとんど屋敷のベッドの上にいたけれど、騎士団はなかなか強かった。エドガーとは一緒に反乱軍の鎮圧にも行った。どこかの戦場……ウエスティヌーの戦いだったかな、俺があいつを助けてやったことがあって以来、エドガーはちょくちょく俺とつるんで遊ぶようになった。うちのお屋敷の夕食にも図々しく顔を出していたっけな。
ルスラン様のお屋敷では、夕食は基本的に毎日みんなで揃って食べるのが習わしだった。ルスラン様がそういうのが好きだったのさ。ルスラン様に奥様のベルティーユ様、それにセシルお嬢様。その時セシルお嬢様は五歳くらいだったかな。とても愛らしくてかわいくて優しくて美しくて笑顔がかわいくて走り回る様も愛らしくて……もうそれ位にしろって? まあとってもかわいくて、屋敷のみんなのアイドルだったよ。
今思えばあの頃が一番楽しかったなあ。
そんな楽しかった日々も、ルスラン様の御父上であるオリヴィエ・サーマイリー陛下の崩御で終わりを告げたんだ。




