26.聖女の宴
七月十八日の宴には、俺とバーラ、それにフレイヤがギュンター達と一緒に行くことになった。今回は手打ちの宴だろうし、俺はマディアとやらがセシル様かどうかを見て確かめるだけでいい。簡単なお仕事のはずだった。
バーラというのは華があるせいか、こんなところでも挨拶させてくれとボスどもが寄って来て取り囲まれている。それを苦ともせずに談笑している様は、さすがに社交界慣れしていると言うべきだろう。
それとは対照的に、テーブルの上の皿に乗った肉料理を、欠食児童さながら猛烈な勢いでフレイヤが食べまくっていた。
「こんなお料理、なかなか食べられませんからね!」
確かにこの建物の外の世界からは想像できないほど、中は優雅で贅沢な空間だった。飢えに苦しむ住民の住む中で、民衆が選んだ聖女主催の宴は限りなく贅沢だ。
俺はこんな奴が、セシル様であってほしくないと思い始めていた。いや、正確にはセシル様だったら俺は、どれほどのショックを受けてしまうのだろうかと恐怖していた。
会場の前の方にいる葬式に来たような顔をしている面々が、今回マディアの軍門に降るという組織の奴らなのだろう。そいつら以外は陽気なものだ。これで抗争らしい抗争もなくなるのだという、安堵の気持ちがこっちにも伝わってくる。
それにしてもこの会場は気に食わねえ。そもそも出入り口が前方の一か所しかねえ。それにもともと体育館か何かの建物だったからだろうか、壁には上の方に窓があるだけだ。出入り口を塞がれたら容易に逃げられねえことが、俺を警戒させる。
「よお、ギュンター。この会場はいつも使っているのか」
「ああ旦那。マディア様主催の宴は大概ここだ。何か気になることでもあったか」
「いや、何でもない。念のためだ、お前、少し壁際にいろ」
「……何か感じるってわけか。旦那が言うならそうしておくぜ」
俺はバーラにも耳打ちして、壁際の場所に立つように言った。
「わたしに壁の華なんて似合いませんわ」
ちょっと不満そうにしていたが、バーラはおとなしく言うことを聞いてくれた。
まるでバーラが壁際に立ったのが合図のように、壁の高いところにある窓ガラスが割れて、いくつもの包みが会場に投げ込まれた。
俺は料理を食い漁るフレイヤの手を引っぱり、机を倒してバーラとギュンターを伏せさせる。
「お料理が~!」
そう叫ぶフレイヤの声をかき消すように、爆発音が会場に響き渡った。
俺が机から顔を出すと、そこにはさっきまでの優雅な宴会と打って変わり、バラバラになった人の体が料理と一緒に飛び散り、凄惨な光景が硝煙の霞とともに広がっていた。
血の海の中に人の肉片が散らばっている様は、俺に昔のことを思い出させて反吐が出そうだった。
前方の出入り口から完全武装の兵士達が入ってくる。そいつらが僅かに生き残っていた奴らを片っ端から斬り殺す。もう誰も抵抗する意欲はなく、ただの殺戮だった。
兵士達に続いて、金髪に碧い瞳をした小柄な若い女が入って来た。傍らにはフードをかぶった大女が大剣を腰にぶら下げてついていた。
確かに金髪に碧い瞳、セシル様と同じだ。
俺は祈るような気持ちでその女を見る。硝煙が落ち着くにつれ、はっきりと見える。違う、セシル様じゃない。俺は心底ほっとした。
俺は静かに聖剣を引き抜いた。
あの偽セシル様の隣の大女は強い。雰囲気で分かる。
ただの薄らデカい奴とは違う、虎のようなネコ科の敏捷性を持ち合わせた猛獣の雰囲気がプンプンしやがる。
俺はあの大女をどう足止めしてバーラ達を逃がすか考える。どうやら大女をぶっ飛ばすしかなさそうだ。
兵士達が俺達に気づいてやってくる。
ギュンターが床の上で震えている。俺が兵士達を迎え撃とうと机から出たその時だった。
「もうおやめなさい、マディア。あなたは何をやっているの!」
倒れた机から顔を出して、フレイヤがそう叫んでいた。
偽セシル様が茫然としながら言った。
「……女神フレイヤ様……どうしてここに……」




