24.犯罪者組織
俺がフロントに行くと、ホテルの主人が散々書類を探し回った挙句、バラデュール公爵からの伝言など届いていないことが分かった。
ホテルの部屋に戻ると、腰を抜かしたフレイヤがいた。
「ミ、ミランさん……バーラさんが誘拐されちゃいました……こ、これを……」
フレイヤが俺に見せたのは、誘拐犯が遺した紙切れだった。
『令嬢を返してほしければ二千万ゼニーを用意して、明日までに西通り派出所まで来い』
身代金の受け取り場所が、治安を守るべき派出所とは恐れ入った。
こんなことになることは分かってはいたが、俺は自分が焦っていることを自覚した。
俺はすぐさまフロントに降りて行った。
「ひ、独りにしないでくださいよ~!」
フレイヤが俺にくっついてくる。
フロントにはニヤけた顔のホテルの主人がいた。
「おやおや、着いて早々血相を変えてどうされましたか?」
ついぶった斬りたくなったが、俺は努めて冷静に言った。
「うちの令嬢が誘拐された。鍵を壊された形跡はなかった。お前グルだろ。親玉は誰だ、令嬢はどこにいる? さっさと吐いた方が身のためだぞ」
俺はユーグからもらった鞘に入れた、聖剣の柄に手をかける。
「グルだなんてとんでもない。うちは誠実をモットーに仕事をしております。ここは魔都デーフィエンテ、残念ながら誘拐など日常茶飯事でございます。心からご同情申し上げます」
そう言う主人の後ろの部屋から、いかにもならず者っぽい奴らが十人ほど出てきた。いずれも帯剣している。
「おい、おっさん。ここで油を売っている暇はないぜ。早く金を用意しないと大切なお嬢様のお腹がぽっこり膨れちゃうかもしれないぜ。ヒャハハハ!」
ならず者達が声をあげて笑う。
俺の後ろでフレイヤが怯えている。俺は何となく、フレイヤの前で人を殺してはいけないような気がした。なのでフロントの大机を聖剣で叩き斬ってやった。ナマクラな聖剣でも、しっかりと振ればこのくらいのことは出来る。
低い音を立てて机が崩れ落ちる。
「おい、これでも俺は紳士的にやっているんだ。親玉のところへ連れて行け。死にたいのか」
優しく俺が忠告しているというのに、ならず者達が抜刀した。
こんな時にこの聖剣は役に立つ。刃がナマクラなので、よっぽどこちらが斬ろうと思って斬らない限り、骨折か打撲傷で済む。そうは言っても肉厚の刃だ、酷く痛いだろう。
俺は瞬時にならず者達を床に転がすと、聖剣の切っ先を主人の喉元に当てて言った。
「ほうら、俺は優しいだろう。五体満足なうちにはやくゲロったらどうだ? 俺の堪忍袋の緒はガラス細工並みだぜ」
「分かりました! 申し訳ありません! ご案内します。この地区を取り仕切っているギュンターという男が親玉です!」
もう少し苦労するかと思ったが、主人はあっさりと降参した。
主人は俺を貧民窟の奥深くに案内した。この辺りじゃ比較的マシな建物の入り口を指差して、あそこがギュンターとかいう親玉のアジトだと言った。
「おい、ちゃんと最後まで案内しろ!」
俺はそう言うと、半泣きの主人に扉を開けさせ、中に突き入れた。
「ギュンター様! 敵です! 敵襲です! こいつを殺してください!」
主人はそう叫んだかと思うと、斬り殺されていた。
その時の人影の動きで、内部の構造や敵の程度を把握する。俺は滑り込むように建物に入ると、一気に敵をなぎ倒した。打撲や骨折というのは口封じには弱い。床に転がった男が、大声で叫ぶ。
「敵襲だ! 気をつけろ! 手練れ……あうっ」
俺はそいつを踏んづけると、フレイヤを引っ張って中に入って行く。敵をぶっ飛ばしながら進むと、そのギュンターとかいう親玉は、この建物の最上階にいた。
「旦那! ちょっと待ってくれ! あんたが強いということはよく分かった。しかもまだ本気を出していないということも。降参だ! 降参します!」
物分かりが良い親玉でよかった。こういうこだわりのないところが、この魔都で生き残る秘訣でもあるのだろう。
「令嬢に手を出していないだろうな。かすり傷でもあれば、ひとつに付き十発殴ってやるから覚悟しろ」
「旦那なんかに十発も殴られたら死んじまうよ! 令嬢に手荒なことはしちゃいねえ。俺の女にしようと思って、奥で丁重にくつろいでもらっているところでさあ」
そう言ってギュンターが奥の部屋の扉を開けた。そこには、この荒んだ魔都の中とは思えないほどの豪華な部屋のソファに腰掛け、バーラが優雅に紅茶を楽しんでいた。
「あら、あなた。思っていたより早かったわね。やれば出来るじゃないの」




