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おっさんの俺が、処刑寸前の王女を嫁に貰ったがどうすればいい!?  作者: 渓夏 酔月
第二章 レバンタインの宰相

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18.マッチ売りの王女

 わたしは強引に近くにあったブティックの試着室を借りると、夫がカバンに入れて持っていたわたしのドレスに着替えた。


 少々の汚れは、この夜の帳が隠してくれることでしょう。


 わたしは通りの真ん中で堂々と宣言した。


「皆の者! わたしが手ずからマッチを売って差し上げますわ。心してその名誉に浴しなさい!」


 いかにも仕事帰りといった、おじさんが歩いていた。


「そこの黒い帽子の紳士の方、ごめんあそばせ」


 生まれて初めて自分のことを紳士と言われたであろうおじさんは、驚いて足を止めた。


「こんな時間までお仕事でしたの? 大切な家族を養うため、お仕事頑張っていらしたのね。さすがですわ」


「いや……そうなんだ。女房と育ち盛りの子供が三人もいてね」


「頑張り屋のお父様ですのね。マッチはいかがかしら」


「いや……あの……私はタバコを吸わないのでマッチは使わないんだ」


「あら、マッチを使わない方にこそ、マッチは必要ですのよ」


「えっ……ど、どうしてですか?」


「お父様、タバコを吸われる方が、マッチが無いと騒いでいらっしゃるのを目にしたことはなくて?」


「ときどき見かけます」


「そんな時に、タバコを吸わないお父様がマッチを差し出してごらんなさい。何事にも備えがあり、どんなときにも頼りになる男だと思われますわ」


「……」


「それが取引先のお相手だったり、お客様ならどうなるかしら。お父様のことを信用できる男だと思い、今後の商談に利のあることは明らかですわ」


「……確かに」


「お父様のような方にこそ、マッチが必要なのがお分かりになりまして?」


「マッチをひとつ売ってくれ!」


「あら、ひとつでは心もとないですわ。職場にひとつ、手元にひとつ、予備にもうひとつ持ってこそ完璧ですわ」


「三つ、いや、五つもらおう!」


 わたしはフレイヤに耳打ちする。


(マッチはひと箱いくらなの?)


(三百ゼニーです)


「ではお父様、五つで二千五百ゼニーですわ(少し上乗せですわ)」


「これで仕事がうまくいけば安いものだ! ありがとう!」


 黒い帽子の男性は、マッチを大喜びで買っていった。


 既に多くの人が足を止めて、わたしと男性とのやり取りを見ていた。


「さあ、次にマッチが欲しい方はどなたですの!」


 マッチはあっという間に売り切れた。


「バーラさん! ありがとうございます! これで親方に怒られなくて済みます!」


 フレイヤは、涙を流して喜んでいた。


 いままでよっぽどマッチが売れなかったのだろう。


「こんなもの、わたしにかかればこの通りですわ。お礼を言われるほどのことでもなくてよ」


「おい、バーラ。そろそろ寝床を探しに行こうぜ。意外とこういうのって、いいところ取られるの速いんだよ」


 無駄な経験値の高い夫が横から口を出す。


「橋の下なんて怖いわ。まだ山の中のほうがマシよ」


「金がねえんだからしょうがねえじゃねえか。明日からバイトするから我慢してくれよ」


 わたし達の残念な会話を聞いていたフレイヤが、たまりかねて言った。


「よかったら、とても狭いですけどわたしの部屋に泊まりませんか」


 あら、その言葉を待っていたのよ。わざとらしかったかしら。




☆ ☆ ☆




 フレイヤは『ビリケン様教会』という、土着の邪神を祭った教会の物置に住み込んでいた。


 狭い部屋だったがフレイヤの荷物がほとんどないのが幸いして、三人が横になって寝るには十分な広さだった。


「わたし、ここの教会で巫女として働いているんです。巫女と言っても、ほとんどおみくじやお守りを売っているだけですけど」


 隣では、我が夫がもう高鼾をかき始めていた。


「バーラさんは凄いですね。わたしがいくら売っても売れなかったマッチを、あんなに簡単にすべて売ってしまうなんて。凄いです! 尊敬します!」


 フレイヤの話を聞きながら、わたしもそろそろ眠たくなってきた。


「バーラさんだけには打ち明けますね。誰にも言わないでくださいよ。実はわたし、女神なんです。全能神オーディヌスと、大地の女神ダフィーネの二十三番目の娘、フレイヤなんです」


「……そうですの……」


 わたしは眠くて限界だった。


「この世界を誰もが等しく平等な、平和な世界にするために遣わされたのです。でも、失敗ばかりしちゃって。だからわたし、バーラさんを見習おうって決めたんです」


「……それは良い心がけですこと……フレイヤ」


 そう言うと、朝から動き詰めでビールまで飲んだわたしは寝てしまった。


 ビリケン様に仕える女神なんて、いるわけないと思いながら。




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