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おっさんの俺が、処刑寸前の王女を嫁に貰ったがどうすればいい!?  作者: 渓夏 酔月
第二章 レバンタインの宰相

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13.宰相ヒルド・メイプルウッド

 エーデルファウス王国の宰相、ヒルド・メイプルウッドが国王と二人の娘が暗殺されたと聞いた時、すぐに行ったのは皇子ヌートラの安全確保だった。


 幸い、ヌートラ皇子は日頃からの女遊びが幸いして、王宮ではなく女の家にいて難を逃れた。


「しばらくは、王宮内にてご自重してください」


 ヒルドはヌートラ皇子を王宮で最も警備しやすい部屋に入れると、王国騎士団で警固を固めた。


 次にヒルドが行ったのは、ヌートラ皇子の即位を内外に宣言することだった。


 混乱の際に大切なのは国家の安定だ。すぐさま即位を宣言することで、宮廷内外の動揺を抑えた。


 ヒルドは美貌の宰相と言われ、国王ローゲの愛人となることでその地位を得たと思われていた。しかしヒルドにとって、最も大切なものは政治だった。男よりも金よりも三度の飯よりも政治が大好きだった。国王がヒルドに言い寄って来た時も、愛人になった方が政治がしやすそうだと考え、受け入れた。


 国王ローゲがアルーシャ鉱山欲しさにレバンタイン王国に侵攻すると言った時は呆れたが、将軍達には一切攻撃せず、小競り合いに終始しろと伝えた。あのバラデュール公と正面切って戦える能力のある将軍は、エーデルファウスにはいない。


 いずれバラデュール公が出てくれば戦線は押し下げられるので、そうすれば国王ローゲもあきらめるだろう。


 すべてはヒルドの思い通りに進んでいた。


 問題に対処し、先回りして手を打ち、解決する。


 それで国家の命運が決まる。


 政治とはなんと面白いものだろう。


 しかし、国王の暗殺はヒルドにとって想定外だった。何故ならそれで明確な益を得る者が見当たらないからだった。


 暗殺者は『聖剣の勇者』と名乗ったようだが、ヒルドにはあの疲れたおっさんがそんなことをするようには思えなかった。あのおっさんが暗殺を実行するためには、北進中の街道からトンボ帰りし、王宮内に忍び込まなくてはならない。そのようなことをするほど勤勉な感じには見えなかった。 


 そして想定外のことが、もうひとつ起こった。


「王国騎士団長、マイルズ様が国王を殺した『聖剣の勇者』を襲ったところ、返り討ちに合い、『聖剣の勇者』と王女は街道を離れてレバンタイン王国に向けて逃走中です!」


 ヒルドは、マイルズ団長のあまりの思慮の浅さに絶句した。


 おのおっさんが、北進中の街道からトンボ返りで国王を暗殺し、さらにトンボ返りで北進を続けていたなどとどうして思えるのだろうか。


 縄で縛られて放置されていたマイルズ団長が助け出され、カンカンになってヒルドに食って掛かった。


「すぐさま『聖剣の勇者』討伐隊を編成すべきです!」


 どうやらあのおっさん勇者に襲いかかったマイルズ団長の隊は、誰一人死者はいなかったようだ。明らかに殺さないように気を遣っている。そんな奴が国王暗殺などするはずがない。


 マイルズ団長には、皇子の警護に加わるように指示した。


 ヒルドは次の打つ手を考えた。


 限られた手駒で局面を切り抜ける。これも政治の醍醐味だ。


「レバンタイン王国との戦闘はもういい。いずれ国王暗殺の情報が向こうに伝われば、好機とみて講話の話を持ってくるだろう。それよりもバーラ王女の身柄だ。バーラ王女は本来ならこの国の正統な後継者だ。どの国の手に渡っても我が王国への攻撃を正当化できる大義名分になる。レバンタイン王国と対峙している将軍に伝えろ、すぐさま戦線を放棄し、全軍でバーラ王女の身柄を確保せよ。最悪殺しても構わん」


 ヒルドの命令を聞いた将校が、すぐさま部屋を飛び出して行った。


(まあ、間に合わんだろう。でも、賭けてみる価値はある)


 ヒルドは国王が暗殺されて以来、全く寝ていなかった。


 この夜も、独りで宰相執務室に籠って仕事をしていた。仕事をしだすと夢中になって幾晩も寝ないで続けてしまうのは、ヒルドは自分でも悪い癖だと思っている。


 いつもは夜中に仕事をしていると、ローゲ国王がやって来てベッドに引きずり込まれたものだ。今思えばああして強制的に仕事を終了させられるのも、良かったことだったのかもしれない。国王がいなくなった今、際限なく仕事をしてしまいそうな自分がいる。


(国王も、あれでも一応役に立っていたということか)


 誰でも何にでも使い道はある。あとは使いこなす者次第だ。ヒルドがそう考えていると、執務室の扉がそうっと開いた。


「お前が宰相ヒルドだな」


 予想外の若い女の声に、ヒルドは少しだけ眉を動かした。


「お前が『聖剣の勇者』か? どうしてこのようなことをする」


 ヒルドが扉の奥の人影に目を凝らすが、暗くてよく見えない。


「さすがは宰相ヒルド、この国を支える柱だと言われていることはある。既に覚悟はしているようだな」


 人影の奥には倒れている者が数人見える。警固の騎士だろうが、何の物音もしなかった。


「わたしがどうしてこんなことをするかって? 決まっているだろう、わたしは『聖剣の勇者』だ。わたしの行いは、すべて人々を幸福にするためにある」


 ヒルドは自分が殺されることよりも、目の前の書類を中途半端な書きかけで終えることの方が嫌だった。


 少し会話で殺されるまでの時間を引き延ばし、書類を書き終えてしまおうかと考えていた時だった。


「あら、『聖剣の勇者』様。こんなに早くお会い出来て嬉しいわ」


 そう言って、いつの間にか執務室に立っていたのは聖剣教会大司教だった。


「……ベストラ様……どうしてこちらに……」


 ベストラは妖艶な微笑みを浮かべながら、振り返ってヒルドを見た。


「ねえヒルド宰相、取引しない? 助けてあげる代わりにわたしのお願いを聞いてほしいの」


 扉の向こうから苛立った声がする。


「誰だお前は! 邪魔立てする者は殺すぞ!」


 かまわずにベストラはヒルドに聞く。


「ねえ、あなた。もっとお仕事していたいのでしょう?」


 ヒルドはゆっくりと頷いた。


「ああ、わたしはもっと仕事がしたい。助けてくれ」






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