12.キャンプ
俺達は街道を離れ、森の中を通って戦場を大きく迂回し、レバンタイン王国を目指していた。いくら敵の敵は味方とは言っても、相手がどう出るかは分からない。理想的にはエーデルファウス王国側にも、レバンタイン王国側にも察知されることなく国境を通過したい。
それにしても困ったものだ。
この聖剣教会聖騎士団とかいうお坊ちゃんイケメン騎士様達は、剣の腕はそこそこなものの、軍隊としての実戦経験がまるでなかった。索敵ひとつ満足に出来ない。
そのおかげで行軍が思うように進まない。
おまけにこの前は、野営に際して一番大きな天幕を俺と王女に勧めてきたうえに、天幕に大きな聖剣教会の旗まで立てやがった。
これじゃ敵に標的を教えているようなものだ。
俺はその天幕をフランソワに譲ると、狭い兵士用の天幕の一つに、王女様と一緒に寝ることにした。あの旗付きの派手な天幕は、囮としては上出来だろう。
「寝込みを襲ったら承知しませんわ」
王女がニヤニヤしながら俺に言う。
「そんなことするわけねえだろ」
「でも、この前はいきなり抱き着かれましたわ。何をされるか分かりませんわ」
そう言われると、確かにこの前は抱き着くような感じになった。
「まあ、そうは言ってもわたしはあなたの妻ですから、そのくらいのことは許して差し上げますわ」
「ああ、ありがとよ。心優しい女房で助かったよ」
「それにしてもどさくさに紛れて、こんな狭い天幕でわたしと一緒に寝たいだなんて。若いイケメン騎士様達に嫉妬するのもいい加減になさいませ。いい年してみっともないですわ」
俺は言い争いでは、この王女に対して勝ち目がないと悟った。
「そういえば旦那様、あなたのお名前を聞いていなかったわね。教えてくださる?」
この王女は俺の名前も知らなかったのか。
仮にも夫婦だというのに、結婚後に自己紹介をすることになるとは我ながら滑稽だ。
「ポールだ。ポール・ボウだ」
「……思いっきり偽名ね。あなたはいったい何者ですの?」
「しがない田舎の水晶採りさ」
「水晶採りって馬に乗れて、王国騎士団長を剣で圧倒出来るものなの? グレゴリー様が言っていたわ、あなたはただ者じゃないって」
「まあな。町内会の護衛で王都に来たと思ったら、こうして王国から追われているなんてただ者じゃねえだろうな」
「ねえ、レバンタイン王国に無事に入れたらどうするの?」
「そうだなあ。そこで騎士団の連中とはおさらばして、西に向かうか。西のコリアンテ王国には水晶がいっぱいあるっていうから、そこで水晶採りでもするかなあ」
「わたしはどうするのよ」
「……王女様なんだろ、他の王国に親戚の一つや二ついねえのかよ」
「そんなものいないわ。もともとうちは公爵家なのよ」
「じゃあどうするんだよ」
「わたしが聞いているのよ。きちんと答えなさい!」
そう言って、王女はほっぺたをふくらませたが、あまり本気で怒ってはいないようだった。
「わたしね、もうエーデルファウスでは死を待つしかない生活だったのよ。父からもらったプチ・パレだって、いずれ取り上げられるのは分かっていたわ。だったら、潔く死んでやろうと思っていたの」
そんな話をする王女は笑っていた。
「でもね、最近とっても面白いのよ。騎士団に襲われて殺されそうになったり、守ってもらったり。森の中をさ迷って、こんな風にキャンプするなんてワクワクしちゃうわ」
「キャンプじゃねえよ。呑気なもんだな王女様。いつ敵襲があるか分からないんだぞ」
俺はあまりの能天気さに、開いた口がふさがらなかった。
「敵襲なんて、ワクワクしちゃう。わたしね、ポール。今生きていて一番楽しいかもしれませんわ。自分が生きているって実感しているっていうか、自分はこんなに生きていたかったんだって知ってびっくりしているの」
なんか、王女様、顔が近くなってきているんですけど……。
「だからね、あなたはそんなつもりはなかったのかもしれないけれど、一応感謝しておこうと思って。あの時わたしの名前を呼んで、助けてくれてありがとう」
俺は気恥ずかしくなって、王女に背を向けた。
「まだ助かっちゃいねえよ。必死の脱出行の最中だ。礼ならちゃんと助かったら言ってくれ」
「わたしにも水晶採り、出来るかしら?」
「出来るわけねえだろ。結構な力仕事だし、採れた水晶担いで山を登ったり降りたりしなきゃいけねえんだぞ。王女様に出来るわけねえ」
「だったらポール、あなたがたくさん採ってくればいいですわ。わたしがこの美貌で高値で売りさばいて差し上げます」
もう俺は目をつぶって寝ることにした。
でも少しだけ、そんな穏やかな日々が訪れるなら、それも悪くはないと思った。
12話にしてやっと主人公の名前(偽名ですが……)が出てきました。
良かったら、少しでいいので評価していただけると励みになります!




