幕間 悠璃 勘
縁側にごろりと寝転んで、夜空に浮かぶ月を見る。
「相変わらずでかい月だね」
紅葉の季――人の世で言う秋――は月が空を支配する様に大きく輝く。
きっと彼女には異様に映るだろう。
気付いただろうか、今まで自分がいた世界との違和感に。
今の季節には金木犀がそこかしこで咲き乱れる。
だから良く香るのは金木犀。
それなのに彼女の周りだけは違う香りが漂っている。
あの香りは桜だと月羽は言った。
そうだ、俺もそう思う。
あの時、出会ったあの瞬間に風が運んできた香り。
今の季節には金木犀が咲き乱れる。
それなのに彼女の周りだけは違う香りが漂っている。
あの時、出会った瞬間に風が運んできた香り。
月羽は桜だと言った。
「でも勝手に踏み込むのはちょっとなぁ……」
呟いた声は風に消える。
あの子が良い子なのはもう分かっている。
名前の件でも、俺はわざと意地悪な言い方を選んだ。
けれど彼女は迷いもなく名前を差し出した。
その信頼がまっすぐ伝わってきて、あの瞬間に本当の意味で彼女を受け入れようと思った。
きっと玖呂もそうだろう。空気が幾分か和らいでいたから。
――あの日、桜の香りを纏って現れた彼女。
風に揺れる髪越しの視線が、心に楔を打ち込む。
その感触だけが、今も鮮やかに残っている。
楔の正体が何なのか――今はまだ知らなくていい。
明日、あの子が目を覚ましたら、この話をしても良いかもしれない。
この世界の違和感を、彼女に受け止めてほしいと思っていた。
彼女がこの変化をどう受け止めるか、不安は少しだけある。
それでも信じてみたい――今度はこちらの番だ。
胸の奥のざわめきだけが、月明かりの中で長く残る。
「……俺の勘は当たるんだよね〜」
そう呟いて空を見上げる。
紅葉の季の終わりを告げる風が吹いた。
その風は、どこか春の匂いがした。




