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かくりよ、桜の縁結び  作者: 灯影


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二十六章 会いたい気持ちは同じ

 


「ひま! このチャームどこに置くんだ?」

「えー……っと、あ! あそこの箱!」

「あそこ!? あそこはもう一杯だぞ?」

「うそー! じゃあ、新しい箱で!」


 屋敷の一階の一室で繰り広げられていたのは、来月に迫るお祭りで使うチャーム作り。

 どれだけ用意すれば良いのか手探り過ぎて、会議をした結果「有ればあるほど良い」という結論になった。

 余っても『まにまに』に、卸せるし全く困らないからと。

 その時は、確かにと思ったものの、今は管理地獄で毎日があっという間に終わって行く。

 私はひたすら桃玉チャームを作っているので、今では一度に作れる量が格段に増えていた。

 でもそれだと気持ちが量に追いつかないので、一度に作る量は多くても五つまでにしている。


 夕方、一日のノルマの桃玉を作り終える頃には気力がすり減っているので、必要最低限のお風呂や食事をこなす事で精一杯。


 悠璃さんともゆっくり話す暇もないし、何ならここしばらく触れてもない。

 それがやっぱりしんどい。

 忙しくなる前に、この前のモヤモヤを解消出来たのは、本当に良かったなと思う。

 でないと、きっとここまで集中出来なかったはず。


「玖呂、こっちの箱持ってくからその箱に詰めて」


 少しぼーっとしてた私の耳に突然聞こえた悠璃さんの声。


「お、さすが悠璃! 頼りになるな」

「何か腹立つからやめろ」


 部屋の奥で整理していた私が、扉付近に辿り着く前に悠璃さんは行ってしまった。


 残り香がふわりと香って、余計切ない。


「あぁー、また駄目だった……! せめて、一目……」


 掻き分けたダンボールに埋もれた私は、ばったりとその場に倒れ伏した。


「うわぁ! ひまが遭難したー!」

「玖呂さん……うるさい」

「ひまが月羽みたいな事を……やめてくれ!」

「……玖呂さんばっかりずるい!」


 何が!? と、喚いてる玖呂さん。


「私だって悠璃さんと話したかったのに……何で残り香だけ……そんなの……そんなの……」


 どうしたらいいのかと、おろおろしている玖呂さんに、私は子供みたいに胸の内をぶつけた。


「めちゃくちゃお腹空いてるのに目の前に食べ終わったお皿を置かれてるみたいだよー! いじめだー!」


 うわーん! と、喚く私に、玖呂さんは一瞬目を丸くすると、すぐにお腹を抱えて笑いだした。

 こっちは半分真剣なのに。


「おっ前……例えが下手すぎて……いや、悪い。悠璃も昨日めちゃくちゃ機嫌悪くてさ。何か似たような事言ってたわ」


 むくりと体を起こして、膝立ちでずりずり玖呂さんに詰め寄る私。


「何? 何て言ってたの、悠璃さん」

「えーっと……『ひまりのいた気配じゃなくて、本物が欲しいんだよ!』みたいな事を叫んでたかな」

「……おんなじだ」

「ん?」

「何でもない!」


 私はすっと立ち上がって、元いた管理地獄に戻った。


「顔、赤〜」

「うるさい、玖呂さん!」


 その日の仕分け作業は驚くべきスピードで終わらせた。


 翌日、少し余裕が出来た私は悠璃さんを探した。


 でも全然見つからなくて月ちゃんに聞いたら、他の仕事もあって宵灯ストリートに出掛けたみたいだった。


 ……おしゃべりしたかったなぁ。


 しゅんとする私の背中を月ちゃんの尻尾が撫でてくれた。


「最近の悠璃様、何か企んでそうです」

「企み?」

「何かは分かりませんが、ひまりちゃんと会えないせいで、ネジが何本か飛んで行ったのかもしれません」

「また適当なこと言ってー」

「半分本気です」

「え!? それ大丈夫なの?」

「冗談です」

「ふふ、分かってる」


 月ちゃんのお陰で随分心は軽くなったけど、体は疲れが溜まってて少しだけ怠い気がした。


「ひまりちゃん、お昼寝して下さい」

「う……、相変わらず心読むの上手いね」

「任せて下さい」


 ドヤ顔の月ちゃんに甘えて、少し昼寝をしに部屋に戻った。

 ベッドにばふっと倒れ込むと、お日様の良い匂いがする。

 そのまま、私の意識はふわふわの布団に吸い込まれて行った。



 ——ひまりちゃん。


 泥の様に眠っていた意識が、すっと月ちゃんの声で覚醒した。

 ぼんやりとした視界に映り込む月ちゃんは、少し微笑んでいた。


「ごめん、結構寝てた?」

「全然大丈夫ですよ、ただご飯は食べないといけないので呼びに来ました」

「ん、そうだね〜……よし! 起きた」


 私はぐーっと背伸びをしてベッドから出ると、身支度を整えて月ちゃんと居間に向かった。

 でもそこに、居て欲しい姿はなかった。


「お二人とも別件で少し出てます」

「……そっかぁ」

「ひまりちゃん」


 そっと私の手を握った月ちゃん。

 温かくて柔らかい手に癒される。


「今日は流星群です。屋敷の屋根からよく見えますよ」

「え、すごい! 流星群?」

「はい。廊下の窓から出られるので後で教えてあげますね。良い気分転換になるはずです」


 心配、かけちゃったんだな。


「ごめんね? 私の事でみんな忙しくてバタバタしてるのに、当の本人がこんなんじゃ駄目だよね」


 自分で言って、すっと染み込んだ。

 そうだ。駄目だよ、私。

 やりたい事やって、やらせてもらって今が有るのに。


 私はぎゅっと目を閉じると、両手で勢いよく頬を叩いた――筈だった。


「いけません、ひまりちゃん。絶対痛いし、腫れます」

「でも、何か儀式的なの欲しくて。気持ち切り替えの!」

「では少しお待ちください」


 どこかに消えた月ちゃんを待つ事数分。

 両手でしっかりと握りしめているのはコップだろうか。

 中身が見えないまま、月ちゃんは目の前に立つとそのグラスを私に差し出した。


「これをどうぞ。飲み物です」

「自分で飲み物っていうの、なんか逆に怖い……」


 ゆらゆら揺れる液体。

 ……いや、何か色おかしくない?


「月ちゃん……この飲み物、虹色だよ……?」

「はい。ぐいっとどうぞ」

「……飲み物、だよね?」

「まごう事なき飲み物です」


 ……大丈夫、飲み物って月ちゃん言ってるし……いけ、私!


 震える手に檄を飛ばして一気に飲み干す。


「ぶわぁぁぁ!」


 体が、全身が、震える。


「す、す、す、すっ…………ぱぁぁぁ!」


 めっ……ちゃくちゃ酸っぱい!

 何? 何だろう、全身を貫く酸っぱさ!


 震えか悪寒か分からない何かが体を走り抜けている。


「そろそろ落ち着きますよ」

「ふ、震えが! ……ん……あれ?」


 止まらなかった震えが止んで、頭もすごくスッキリしてる。

 何なら体も心もすごく軽い。


「ま……魔法だ!」

「月羽特製、秘伝のドリンクです」


 にやり顔で言い切る月ちゃんに、若干の不安を感じたのは秘密だ。


 身も心もリフレッシュして食べたご飯は、とても美味しくて体に染み渡った。

 紫苑くん様々だった。


 露天風呂に浸かる頃には、空が夜に差し掛かっていて、橙や紫、金や藍色が織りなす光のカーテンを広げていた。

 淡く光る星が、あちこちに見え出した。


「……流星群だっけ」


 悠璃さんと見たかったなぁ。

 何となくしんみりしてしまう頭を振って、湯の中に沈みこんだ。


「ぷはっ! ふー、だめだめ! 折角リフレッシュしてるんだからマイナス思考は消して!」


 ざばっと頭を湯から出した私は、目の前の何かを消すみたいに、大袈裟に腕を動かした。

 こうやって体を動かすと、少しマイナスな自分が消える気がする。

 そんな自己暗示と、流星群を見る約束を思い出しながら、私は湯から上がった。


 脱衣所に戻ると部屋から持ってきていた部屋着が、月ちゃんセレクトに変わっていて、服の上にメモがあった。


『気分が安らぐお香を焚きしめました』


 たった一文。

 それだけで私の涙腺は崩壊した。

 メモをぎゅっと胸に抱く。


「ほんとに……月ちゃん……」


 ……大好き。ありがとう。


 月ちゃんの優しさに包まれて、お風呂を出ると月ちゃんが待っていてくれた。


「月ちゃん! お香ありがとう」

「いいえ、私に出来るのはそれくらいなので。しっかりと温まりましたか?」

「うん! 気持ちよかった」

「それは良かったです」


 月ちゃんは満足そうに頷いた。


「じゃあ、案内しますね。ついて来て下さい」


 月ちゃんが立ち止まったのは、二階の大きな窓の前だった。

 もう窓というよりは、扉に近い。


 月ちゃんが木製の小さな取手をカチリと回すと、大きな窓がずぁーっと開いた。


「ここから屋根に出られます。気をつけて下さいね」


 なぜか月ちゃんは窓の横に立ったまま。


「月ちゃん行かないの? 一緒に見ようよ」


 私が手を伸ばすと、手を握る代わりにショールを手渡された。


「夜風は冷たいですからね」


 さ、どうぞ、と月ちゃんに促されて私は大きな窓を一人、くぐった。


 夜風が頬を撫でる。


 見上げた空には、今にも星が零れ落ちそうなほどの星々が瞬いていた。

 

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