二十一章 桃玉会議
二十一章 桃玉会議
屋敷は今、すごい緊張感に包まれていた。
月ちゃん、椿さん、紫苑くんそれぞれの視線が私の覆った手に注がれている。
集中……
額から汗がぽたりと一滴落ちた時。
手の中で、桃玉が出来上がったのが分かった。
「出来た〜!」
そっと開いた手の中には三つの桃玉。
「すごいです、ひまりちゃん!」
「やったわねー!」
「すげぇ、本当に三つ一気にできた!」
月ちゃん、椿さん、紫苑くんがそれぞれ褒めてくれた。
すごく嬉しい!
悠璃さんと初めて桃玉を作ってから、コツを掴んだ私は一週間目には二つ一気に作れるようになった。
そしてそれからまた少し経った今日、三つチャレンジを、決行したのだ。
中々に集中力と気力を使うけど、この感じなら後何回かは作れそうだ。
初めて二個チャレンジをした時は、少しだけふらついた。
その反省を活かして、力を無駄に使わずに済むやり方をみんなで考えたのだ。
コスト削減、大事。
「これで結構な数が出来上がったので、後は加工する物としない物に振り分けて、まにまにで販売ですね」
月ちゃんが、敏腕マネージャーみたいに、色々管理して動いてくれている。
いつも助けてくれる月ちゃん。
「結局全部加護ありにしたのね」
私は椿さんに頷いた。
「うん、何か強く思いながらの方が上手く作れるから」
今までのせることのできた加護は、家内安全、恋愛成就、夫婦円満、子宝祈願、安産祈願、そして厄除け。
揃いも揃って元の世界の言い方なのは、仕方ない。
後は、誰かのためを思って作るその人だけのお守り。
初めて悠璃さんに作ったような。
改めて思い起こすと、よくあんなことしたね!? と思ってしまう。
またまた思い出して赤面しそうになった時、紫苑くんが軽く笑った。
「桃玉って最初聞いた時さ、緑玉思い出したわ。ひまりって何でもかんでも玉つけるよな」
「わぁ、懐かしい! あの子あれからどうなったんだろうね」
「自然に還るんだよ」
「そ、そうなんだ……」
二人で緑玉話で盛り上がっていると、月ちゃんがさらっと言った。
「お二人が初めてハイタッチを交わした日ですね」
「「そうそう、あの時……って何で知ってんの!?」」
「そうやってすぐシンクロするの、ずるくないですか? 私だって仲良しなのに」
ぷくっと頬を膨らせて睨む月ちゃん。
耳は垂れてるのに、尻尾はピンとしてる。
「何その拗ね方、可愛い! ……じゃなくて、なんか色々何で? 何だけど!」
月ちゃんは、見てました、と一言。
「玖呂さんと」
「玖呂さんも!? 何してるの、二人とも!」
後で玖呂さんにも話を聞こうと心に決めて、紫苑くんと苦笑いを交わした。
でもさぁ、と椿さんが紫苑くんお手製のお饅頭を食べながら言った。
現世の『塩味饅頭』を、気に入った椿さん。
その日以来、紫苑くんに作ってもらうようにお願いしていた。
もちろんレシピは、月ちゃんに調べてもらって。
「確かにあんたたち、距離感何かバグってない?」
バグって……?
最近は月ちゃんの影響で現世の言葉がどんどん広まっている。
この前なんてみんなでゾンビドラマを見て――『ありえない!』と耳を押さえたり、尻尾を丸めたりで、すごく可愛かった。
でも一番怖いのは人間だと結論付けてたけど。
月ちゃんと玖呂さんは、それ以来配信サービスがお気に入りになって、悠璃さんに大型テレビをねだっていた。
隠世ネット恐るべし。
「何かこいつって生き別れた双子か? て、感じがするんだよなぁ」
座卓に頬杖をついてこっちを見る紫苑くん。
「あ! わかる! なんか昔家族だったのかなって」
それそれ! とまたもや盛り上がる私達に、椿さんが呆れたように言った。
「そこに恋愛感情はないの?」
「「全く!」」
「……またハモりましたね」
「まぁ、でも悠璃様が拗ねない程度の距離感は考えなさいよ?」
私は飲みかけていたお茶をぶっ! と吹き出した。
「うわぁ! ちょ、何でこっち向いて吹くんだよ!」
「ご、ごめん! 桃玉に掛かると思って!」
あわあわと、紫苑くんを布巾で拭いて謝る私に、椿さんが苦笑い。
「ま、この二人相手なら悠璃様が大人にならないとダメかもね〜」
「いや、あの、悠璃さんとはまだそんな……」
口籠る私に三人が、まだ!? と、食い付いた。
「あーんな、甘い空気二人で出してんのにまだ何にもなってないわけ!?」
「すごいな悠璃様」
「悠璃様、肝心な所でヘタレですね」
……何かすごい言われよう。
「確かに花びらと桃玉を交わしたし、何となく甘い空気になる時もあったけど、でも、でも、言葉を交わしたりとか何かはっきりしたものがあるわけじゃなくて――」
「長ぇよ! 息吸え!」
「は! ご、ごめん」
深呼吸して落ちつこう……
「まぁ、ある意味悠璃様も初心者みたいなもんだしねぇ」
……え?
「そうなの!?」
本当に? 悠璃さんだよ?
「あたしも全部知ってるわけじゃないけど、玖呂がそう言ってたから確かだと思うわよ?」
「全部遊びって事か?」
「紫苑くん、言い方……!」
「あ、ごめん、悪気はない」
微妙な空気感になった所で、一旦桃玉の話に戻すことにした。
今日は桃玉について話し合う日なのだ。
「この桃玉をどうするかよね」
「アクセサリーとして身につけれる様に加工する物と、小さな巾着に入れる物と二種類で一応考えてて」
「あたし裁縫得意だから巾着作るわよ」
このくらいでいい? と、手でサイズ感を示す椿さんに、私はいっぱい頷いた。
「ありがとう椿さん! でも量も多いし、私も作るよ」
少し考える素振りの椿さん。
「そうねぇ……もっと量が必要になったら既製品か、オーダーした方がいいかもね」
……そっか、私みたいな素人が作った物だとちょっと問題あるかも。
「そう……だね、一度見に行ってみようかな」
「それなら試作品を作って持っていきましょう。幾つか当てはあります」
なら袋はそれで決まりだな、といつの間にか書記の立ち位置で紫苑くんが記録している。
「後は加工かな」
「そうねぇ、正直幅広すぎて多くても三種類くらいにした方がいいと思うわ」
「であれば、何にでも使える様にペンダントトップと、チャームにしてしまえば良いかと」
確かに桃玉全部が同じ大きさじゃないもんなぁ。
ペンダントトップくらいの大きなサイズの物から、ワンポイント向けのチャームサイズの物まで、色々あるからその方がいいかもしれない。
「悠璃様は貰った桃玉、どうしてるのかしら」
椿さんの言葉に、文字通り私の体はぎくりと動いた。
「あ、えーと……」
「悠璃様は耳飾りに付けてますね」
「あら? 私まだ見てないわ!」
「へ〜、自分で加工したのかな」
それぞれが感想を述べる。
悠璃さんはあの後いつの間にか、耳飾りに付けていた。
実はそれで加工を思い付いたのだ。
あれを見るたび気恥ずかしくて、何だかムズムズする感覚を覚えた。
時たまさりげなく触れているのを見ると、わぁ〜……っ! て、なる。
ここで椿さんが立ち上がった。
「さて、じゃあ今日の会議はこれでおしまい!」
「お披露目は一ヶ月後が妥当ですね」
「はい、頑張ります!」
後はもう、行動あるのみだ。




