十六章 初めての女子会
十六章 初めての女子会
屋敷に戻ると紫苑くんと、椿さんがいた。
月ちゃんが、さっきまでの事を簡潔に説明すると、椿さんが『食事の後はお風呂で女子会よ!』と言って紫苑くんに、月見酒ならぬ月見あてを頼んでいた。
そして、楽しい食事も無事終わり――あ、その間も私は悠璃さんの視線からこそこそ逃げ回っていた――初めての女子会を始めたのだった。
「あ〜! あったまるわぁ……やっぱりお屋敷の露天は最高ね」
岩風呂の淵に両肘を置いて、ゆったりと椿さんは寛いでいる。
「そうですね。本当に今日は腹立たしかったので、ようやく落ち着けます」
「月ちゃん、そんなにあの人の事嫌いなの?」
「はい、間違いなく大嫌いです」
「あたしも嫌いよ」
「椿さんも知ってるんですね」
「知り合いたくもなかったけど。昔、悠璃様がロックオンされてたからね」
ロックオン。
悠璃さんは本当に相手にしてなかったのかな。
「まぁ、あいつの話は、嫌いか、大嫌いかしか、話が広がらないからやめましょ」
わぁ、嫌いしかない!
同情心が湧かなくもないけど、月ちゃんを何度も子狐って馬鹿にしたのは許せないから、しない事にした。
「子狐って、最高に可愛いもん」
私の言葉に、月ちゃんの耳がぴくぴく動いた。
ふっと微笑んだ月ちゃんは、ありがとうございます、と言って口元まで湯船に沈んだ。
「あ、でもあれよ? あいつ性別関係ないからひまりちゃん本当に気をつけないと」
「気をつけるってどういう……」
「あいつの毒牙に色んな意味で喰われちゃうってこと」
……色んな意味でって、こわー!
すすすっと月ちゃんが隣にきた。
「私はひまりちゃんの友人兼護衛ですので、必ずお守りします」
力強い宣言に顔が綻ぶ。
「で、ひまりちゃん」
「はい?」
「ずっと気になってたんだけど、あなた妖化だいぶ進んだわね」
そろそろ完全に妖化しそうだけど……、と顎に手をやって椿さんは自分の思考に耽った。
「そうですね、あの怒涛の荒ぶれによって一気に変わったのが、今の落ち着いた気分によって定着している最中ではないでしょうか」
「……怒涛の荒ぶれ!」
……月ちゃん、説明の仕方。
私は恥ずかしくなって少しだけお湯に顔を沈めた。
「見たかったなぁ、その荒ぶれと言う名のやきも――」
「わぁー!!」
私は慌てて椿さんの口を塞ぎに行った。
お陰で二人仲良くお湯に沈んだ——
「……仲良しで羨ましいです」
ぶはぁっと二人で顔を出すと、目が合って同時に吹き出した。
「あなた、全力で口塞ぎに来たでしょー!」
「す、すいません、加減間違えちゃって」
「許してあげるから、その代わりあたしにも敬語なしがいいわ。姉のポジション狙ってるの」
……私、すごい恵まれてるなぁ。
「……ありがとう、椿さん」
「さて、でさっきの荒ぶれの話聞かせてよ」
「それは私がお話ししましょう」
ぱしゃっと音を立てて勢い良く手を上げる月ちゃん。
耳がもうぴこぴこ動きまくってて、すごく悪い顔になってる!
でも無表情。
「いい、いい、月ちゃん! だめ!」
必死に止めても結果は変わなかった。
もう見てられないくらいの再現度の高さで話をする月ちゃん。
もはや演劇の域だった。
「あの悠璃様がね〜」
私はその間――にやにやする椿さんは、やっぱり紫苑くんと似てるな――とか関係ない事をひたすら考えてその場を耐えた。
最後には私が必死に誤魔化していた事まで全部見抜かれて――恥ずかしすぎて泣いた。
「これすごい美味しい!」
お湯の中ではしゃぎ過ぎてのぼせそうになった私たち。
少し冷静になろうと、岩風呂の淵に座って足湯状態。
紫苑くんが作ってくれた“あて”を美味しく頂いていた。
「こうやって見ると、髪はもうほぼ変化終わったんじゃない?」
毛先を持ち上げて眺めると、確かに朝とは比べ物にならないくらいの色と艶がある。
「香りもあの枝垂れ桜と変わらない優雅さですよ」
「……待って。私、優雅とは程遠いからその言い方恥ずかしいよ」
「上品かつ爽やかで甘過ぎないのが素敵です。ひまりちゃんそのものですね」
「だから、やめてー!」
「……少し長くなってるわね」
「あ、やっぱり……髪まで伸びるなんて」
背中の上あたりの髪が真ん中辺りまで伸びていた。
「潜在的な力が強いのね。それを補うために伸びたのかも」
「そうですね、それは説得力があります。力は髪に宿ると言うのは昔の話ですけど、あながち馬鹿には出来ませんし」
「髪の毛を供物にしたりね?」
髪の毛を供物って……ぞっとする。
「あなたの髪は綺麗から気を付けないとね」
「……」
言葉にならない怖さが、ほてった体を急激に冷やしていくようだった。
「まぁ、そんなに心配しなくても大丈夫よ!」
ぱしんと、軽めに私の背中を椿さんが叩いた。
「なんたって悠璃様と玖呂がいるんだから!」
誇らしげに言う椿さん。
「私も守ります」
胸を張る月ちゃん。
尻尾が凛と上を向いた。
「じゃあ、あたしは応援でもしようかしら」
ふふん、と艶っぽく微笑む椿さんを、月ちゃんが冷たい目で見てる。
「役立たず決定ですね」
「ちょ、ひど! 冗談よ!」
ばしゃん! と、誰ともなく足でしぶきを掛け合う。
ぱしゃぱしゃと水の音と一緒に、笑い声が湯気の中に響いた。
のぼせるくらいあったかくて、幸せで。
――私の初めての女子会の夜は、最高だった。




