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かくりよ、桜の縁結び  作者: 灯影


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十三章 芽吹



 あれから三日間、何の変化もなかった。

 瞳の色はすでに薄い琥珀に桜色が混じっていているけど、髪や力には何の兆候もない。


 だけど、四日目の朝――


 目を覚ますと、髪の真ん中あたりまでほんのり淡い桜色が差しているのに気づいた。

 手でそっと触れると、昨日までとは違う柔らかさと温かさがあった。


 ……やっと、始まったんだ。


 小さな変化に胸がざわつき、体が勝手に緊張する。

 窓から差し込む光にそっと髪をかざすと、淡い桜色がゆらりと揺れ、朝の空気がほんの少しだけ甘く香った。


「……わぁ……」


 思わず小さく声を漏らす。自分の変化を、目に見えて実感した瞬間だった。


「鏡!」


 大きな姿見で自分を映すと、何とも言えない気持ちになった。


 瞳は琥珀をベースに桜色が混じっていて、光がゆらめく不思議な色味をしている。


 よくみると、光の加減でごく薄く、透き通って見えることもある。


「……」


 そっと鏡越しに自分の目に触れる。


「……怖くはないかな」


 安堵ともつかぬ息を吐き出した時――


「おはようございます、ひまりちゃん」


 いつもの様に月ちゃんが迎えにきてくれた。

 ぱたぱたと月ちゃんに近づく。


「あのね、月ちゃん。髪がまたちょっと変わったの」


 自分の髪を一房摘んで見えやすい様に持ち上げた。

 桜の香りが淡く漂う。

 ぴくと動く耳。


 月ちゃんは、本当ですね、と目を細めた。


「とても綺麗です、ひまりちゃん」

「……ありがとう」


 私の戸惑いを月ちゃんは見抜く。


「戸惑うのは当然です。慣れ親しんだ容姿が変わるのですから」


 月ちゃんの尻尾が下向きに揺れた。


 ……心配してくれてるんだな


「……よし! 大丈夫! 私は私!」


 言葉にすると少し気持ちが前向きになる。


「髪の色も、少しずつ力が出てきている証拠です。焦らず、少しずつ慣れていきましょう」

「そうだね。心配かけてごめんね」

「……それが友達だと思ってます」


 耳がぴんと立った。

 顔にあんまり出ないけど、照れてる月ちゃん可愛い!



 ***



 朝食の準備を終えて、配膳をしていると玖呂さんが帰ってきた。

 蒼路さんを調べに行ってから、帰宅時間がまばらで、帰ってこない日もあった。

 玖呂さん曰く『あいつめちゃくちゃ慎重なやつで探るのが、まー面倒くさいんだよ』との事。

 でもそれもそろそろ終わりそうらしい。


「おかえなさい、玖呂さん」

「お、また少し変化してんな」


 ただいまの代わりに頭をぽんされる。

 私は、玖呂さんのぽんが好きなのだ。

 大きな手がとっても安心できて、本当のお兄ちゃんみたいで、嬉しくなるから。


 ご機嫌になった私は、へら、と笑って髪を見せた。


「朝にはもうここまで変わってたんです」

「綺麗じゃないか! 髪が全部変わったらとんでもない美人になるんじゃないかー?」

「な! 玖呂さん!」


 もー! と、私は玖呂さんのがっしりした体を叩く。


「……朝から何見せられてんの」

「悠璃さん! お、おはようございます」

 

 気怠げに髪をかき上げる悠璃さんの色気にくらくらしそう。


 だけど、なんか不機嫌に見える。


「おはよう、ひまり」


 そう言って笑う悠璃さんはもういつも通りで。

 気のせいかもしれない。


「邪魔」


 おう! と手を上げた玖呂さんを、悠璃さんは軽く足蹴にした。


「玖呂さん限定で機嫌が悪いみたいですね」


 月ちゃんの耳と尻尾がちょこちょこ動いていて、面白がっているみたい。


 二人はまだ何やらじゃれ合っていた。

 玖呂さんが悠璃さんの首に腕を回してニヤニヤして、それを悠璃さんが尻尾でばしばし叩いている。


 ふさふさ尻尾を玖呂さんが振り払おうと失敗した。

 悠璃さんはそれを見て笑っている。


 前は私がその尻尾で遊んでたのに。


 ふっと漂う桜の香りがして、空気が動いた気がした。


「……ずるい」


 自分の口から零れた言葉に、月ちゃんの耳がぴくりと動いた。

 その反応ではじめて、自分が何を言ったのか理解して――思わずあとずさる。


「あ! ……え? ごめん何でもない!」


 私はそのまま小走りで逃亡した。


 だから知らなかった。


 その時私の周りで淡い桜の花びらが重そうに舞っていたことに。


 月ちゃんだけがそれを見ていた。



 なになになに!?

 私どうしちゃったの!


 壁にごん、と頭ごともたれる。

 胸がぎゅっと苦しくて、鼓動が耳にうるさいくらい響く。

 自分でも何か分からない気持ちが、先走っている感じがする。


 向こうでは、月ちゃんが私を呼んでいた。

 でも――今すぐは無理。


「せめて、顔を戻さないと!」


 胸に響く鼓動に耳を塞いだ。

 それでも、その音は止まってくれなかった。


 

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