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かくりよ、桜の縁結び  作者: 灯影


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八章 変わる狐、変わる桜② カフェ編



 翌日の朝、ご飯を軽く食べて直ぐに出発した。


 『かふぇまにまに』


 白い板にキラキラした黒字でそう書かれている。

 まだ開店前なので、閉と書かれた札がぶら下がって風に揺れていた。


 京都の町屋カフェを連想させる外観で、入口の扉は重厚な木で出来ていた。  

 扉には大きな丸いガラス窓があり、そこを通った光は虹色に足元を照らしていた。


「素敵すぎます!」


 うわぁ、うわぁと、繰り返す私に笑いながら悠璃さんはドアを開けた。

 中から明るい声が聞こえてくる。


「おはようございます、悠璃様」

「おはようですわ、悠璃様」

「おはよう、二人とも。ちょっといいー?」


 先入った悠璃さんに手招きをされて、少し緊張しながら中へと入った。


 ……珈琲とお菓子の、いい匂い!


 壁際にはあやかし職人の手作りらしい陶器カップが、色とりどりに並んでいる。

 窓から見える庭は、苔と小さな灯籠が朝光に照らされていた。


 景色に見惚れていると、とても艶やかな女性が、お盆を抱えてやって来た。

 目の前でお辞儀をする彼女は、肩までのゆるふわ髪が軽く弾んで、金色のきらめきが揺れた。


「お初にお目にかかりますわ」


 ……今『にっこり』って聞こえた気する。


「……初めまして! ひ、ひまり、と申します」


 私がお辞儀を返すと、彼女は、うふふと笑った。


「椿ですわ、ひまわりさん。どうぞご贔屓に」

「えと、ひまり、です」


 あら、と笑う声もゆったりとした仕草も、破壊力がすごい。


 それで、と彼女が手で指したのはカウンター。


「あれは、弟の紫苑です」


 キッチンからカウンター越しに目礼してくれたので、私も会釈で返した。


「ではあちらの席で良いかしら? 悠璃様」


 返事を待たずに歩き出す椿さん。

 歩くたびに軋む床の音が、耳に心地よい。

 先を歩く彼女は、悠璃さんより歳上に見えるけど、二十五歳くらいだろうか? ほんのり獅子っぽい耳と、もふっとした巻き尻尾を持っていた。


 私はあやかしの皆を、実年齢じゃなくて見ため年齢で勝手に当て嵌めていた。


 だって実際は、みんな三桁とか行ってるみたいだし……


 案内された席は窓際で、光が虹色に差し込んで、まるでテーブルクロスの様に際立っていた。


 席について各々注文をする。

 私はチーズケーキと、珈琲にした。


 ここはキッチンから近いので、作業している紫苑さんがよく見える。

 四人分の注文を一人で捌いていて、とても手際がいい。


 紫苑さんは、椿さんとはまた違ったツンとした耳で、尻尾は同じ。

 髪型は短めの金髪で、悠璃さんの甘めで中性的な見た目に比べて、全体的に男性的だった。


「出来たよ」


 カウンター越しにキッチンから声が掛かった。

 紫苑さんが配膳カウンターに私達四人分を置いていくたびに、珈琲のいい香りが増していった。


 椿さんが慣れた手つきで全てをお盆に乗せて、持って来てくれる


 玖呂さんは私と同じ。

 月ちゃんはぜんざいに珈琲。

 悠璃さんは珈琲だけ。

 仲良く皆で『いただきます』をする。


 珈琲カップがそれぞれ違っていて面白い。

 私のは、藍色で飲み口は広め。

 ゴツゴツしていてイカつかった。

 月ちゃんのも私と似た形で、色違いの朱色だ。

 二人で見比べて楽しんでると玖呂さんが、「これさぁ……」と、切り出した。


「どういう基準で毎回選んでんだろうな。俺の時、大概このカップなんだけど」


 玖呂さんのは、白くてツルツル。

 少しくびれのあるデザイン。


 ……なんか、


「女体ですね」


 口にしちゃうのが月ちゃんだ。



「おいしー!!」


 甘すぎないギリギリのラインを攻めたチーズケーキは、あやかしの世界では薄くないのだろうか。


「このストリートは、人の文化に興味があるあやかしが多く集まるから、受けるんだよ」


 顔に出てたのだろうか。

 何となく恥ずかしくなる。

 そしてふと、思った事を口にした。


「そういえば屋敷のご飯も薄味でしたよね。私には合ってたのでとても美味しかったですけど」

「……俺の好みがちょっと人よりなのかもね〜?」


 悠璃さんは飲んでいた丸みのあるカップを置いた。

 彼のその仕草と『間』に何かを感じたけど、私は考えない様にした。 

 触れられたくない事だって、きっと沢山ある筈だ。


 私はケーキと一緒に、その何かを飲み込んだ。


「あの、もう一つだけ質問があるんですけど良いですか?」

「なんでもいいぞ、ひま」


 ……ひま? 暇?


「玖呂さん、それセクハラです」

「月羽……お前俺に最近厳しくないか……?」


 ちょっと笑ってしまった。


「俺も何か呼び方差別化したかっただけだよ! その方が手っ取り早く距離感縮むだろうが」


 そう言う事なら!


「いいですよ、ひまでも、ひまちゃんでも。呼ばれ慣れてないので恥ずかしいですけど」


 ふふっと笑うと、


「じゃあ、玖呂は以降、呼び捨て禁止な」


 涼しい顔で告げた悠璃さんの尻尾は、左右にゆらゆらしている。

 玖呂さんで遊んでるなぁ。

 私はまた笑った。


「茶番はさておき、質問って?」

「はい、あの……悠璃さんと皆さんの関係性が気になって。その『様』付けとか。もしかして悠璃さんて実はものすごく偉かったり、神様だったり……します?」


 この質問すら不敬なりそうで、どんどん尻すぼみになっていった。


 一瞬の沈黙。


 でもすぐに玖呂さんが豪快に笑った。


「こんな悪ガキが神様とか、ありえないから! でもまぁ、偉くなくはないかもな」

「……なくはない、ならやっぱり偉い方?」

「俺は偉くなんかないよ、ただ妖狐としての上位にいるだけ。月羽、椿、紫苑は俺の眷属だから勝手に『様』をつけて呼んでるけど」


 あやかしとは思えないほど、優雅に珈琲を飲んでいる。

 でも尻尾はゆらゆら揺れていた。


「私達は悠璃様の眷属としてのケジメでそう呼んでいます」

「眷属っていうのは、『仕える』っていう事?」


 一般的には、と頷く月ちゃん。


「私は『繋がり』を求めて眷属となりました。悠璃様は私達に主人として何かを強いる事はありません」


 月ちゃんは一旦言葉を切ると、彼女なりの笑顔で言った。


「私達は家族のような繋がりを求めたのです」

「家族……」

「私も、椿さん達も、信じるに値する人が悠璃様以外いなかった」


 ……それは今の私だ


「気付いたら居ついていて、勝手に眷属として振る舞ってたんだよ」


 ピンと立つ月ちゃんの尻尾と対照的に、悠璃さんの尻尾はおかしそうに揺れていた。

 玖呂さんが私をちょいちょいと、手招きをして、お互い向かいの席からテーブルに身を乗り出す。


「あんな事言ってるけど、最終的に受け入れてちゃんと眷属としての絆を結んでやったんだよ」


 近づいた私の耳元で、楽しそうにそう言った。

 悠璃さんはそんな玖呂さんの襟元を、グイーッと後ろに引っ張って睨んだ。


「どれに怒ってんだ〜?」

「ニヤニヤすんな。黙れ、ハゲ。離れろ、この黒カラス」

「天狗だ! あと断じてハゲてねぇ!」


 ……何だろう。


 悠璃さんって玖呂さんが一緒だと子供っぽくなってちょっと可愛い。

 玖呂さんは眷属じゃないみたいだけど、きっとそれ以上の繋がりが二人にはあるんだろう。

 そんな二人を、私はほっこりした気分で眺めていた。


 ……いいなぁ。

 私も、あんな『繋がり』が欲しい。

 そう思えるほどに、私はここで未来を夢見ていた。



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