グンマの海はきっと
猛追するグンマ。
この時、グンマ県庁では、
「もう駄目かと思ったよ」
グンマ県知事が秘書に言う。
その指に装着した器具は、完全に壊れていた。
これが、先ほどグンマが停止した理由だ。
この秘密兵器には、あの『無敵スイカ』と同じく、最高級の衝撃吸収素材『クッションゲル・GUNMA』が内蔵されている。
これをつけていると、長時間にわたって連打し続けても、指が痛くなりにくいのだ。
しかし、それでも限界は来た。
もともと予想はしていた。
あの『無敵スイカ』も、せいぜい二百回が限度だ。それ以上の『スイカ割り』には耐えることができなかった。いくら『クッションゲル・GUNMA』でも限界はある。
ここまでの連打で、グンマ県知事の指は皮が破れて、血がにじみ出ていた。すでに痛みはなくなっている。あるのは激しい痺れだけだ。
しかも、東京都がいるのはかなり先で、『十分間ルール』も存在する。
この秘密兵器が断末魔の叫びを上げて壊れた時、グンマ県知事は本気であきらめかけた。やはり海は手に入らないのか。
けれども、パソコン画面上を今、一頭の馬が猛スピードで疾走している。
その様子を見ながら、グンマ県知事はしみじみとつぶやいた。
「鳥取県知事には、本当に感謝だな」
「まさか、こんな裏技があったなんて、知りませんでしたよ」
本気であきらめかけた時にちょうど、グンマ県庁の電話が鳴ったのだ。それは鳥取県知事からのもので、この裏技を教えてくれた。
入札ボタンを連打し続けなくてもいい。ずっとボタンを押しっぱなしにしていても、連打としてカウントされる。
鳥取県知事はこれを偶然発見したことで、今回の『フロンティア・オークション』、一番乗りを達成したらしい。
この裏技で、グンマは息を吹き返した。
「東京に追いつけると思うか?」
「もう少し様子を見ないことには何とも」
グンマ県知事と秘書はパソコン画面を凝視する。
首位の東京都は『9000万ドルドル』を過ぎた地点で止まっていた。
今のところ、動く気配はない。すでに勝利を確信しているのだろうか。それとも、予算オーバーとか?
でも、理由はどうあれ、今は動かないで欲しかった。ここで動かれたら、絶望しかない。
パソコン画面上では、グンマの入札金額がものすごい勢いで上がっている。
このペースを続けたなら・・・・・・。
「たぶん追いつけるとは思いますが、かなり際どいですね」
秘書が口にする。グンマ県知事も同意見だ。
ぎりぎりで追いつけるか。
または、ぎりぎりで追いつけないか。
どちらにせよ、たぶん一秒未満の勝負になる。
星空の下、近未来の競馬場を、グンマは全力で走り続けていた。
県庁の外からは、応援する声が聞こえている。
これは空耳じゃない。北からも、東からも、西からも、南からも。おそらく、グンマ県民だけでなく、他の県の人たちも応援してくれている。
首位との差は着実に縮まっていた。
一方で、制限時間も減っていく。残りは、およそ一分だ。
入札ボタンに指を乗せたまま、グンマ県知事はひたすら祈る。
グンマ県には悲願がある。どうにかして、海が欲しい。
長きにわたる挑戦の歴史があった。【『グンマ県に本気で海を』プロジェクト】は、すでに第八次を数えている。前回の『フロンティア・オークション』でも勝てなかった。
これは海を目指す戦い。
今回の『フロンティア・オークション』では、絶対に勝ちたい。
それがたとえ、地球の海ではなく、月面の海だとしても。
(グンマの海はきっと、青い空の向こうにある!)
先頭が見えた。東京都だ。前回のオークションで敗れた相手。
しかし、ここで残り十秒のカウントダウンが始まる。
それでも走る。グンマは走る。
必死の激走で、先頭を目指す。
残りカウントが「1」になった。
グンマ県知事は息を呑む。
視界がゆっくりになった。まるで映像のコマ送りでも見ているかのように、馬がゆっくりと脚を動かしている。
東京との差はあと少しだ。
それがどんどんと縮まっていき・・・
そして、タイムアップ
だが、その直前にグンマは、東京を抜き去っていた!
ぎりぎりで間に合ったのだ。画面上のカウントダウンが消えている。
ここでグンマが逆転した。今回のオークションで初めて、首位に立ったのだ。
絶望的に思えた距離、それを追いついての大逆転に、県庁の外からは大歓声が上がっている。
しかし、まだオークションは終わっていない。
最大最強の相手は健在なのだ。
こっちの予算は『1億ドルドル』。それ以上の予算を相手が用意しているのなら・・・・・・。
次の瞬間、東京都が動く。
グンマ県知事は思わず言葉を失った。
自分の目を疑う。
信じられないことに、東京都の馬が白旗を揚げているのだ。
さらに少し遅れて、栃木県も「棄権」する。
残っているのはグンマのみ。
ということは・・・・・・。
これにて、今回の『フロンティア・オークション』は終了だ。
グンマ県知事は顔を下に向けて、特大の喜びを噛みしめる。
ついに、ついに成し遂げたのだ。
グンマ県、月面の海を買う!




