絶望と希望と
同時刻、栃木県庁。
栃木県知事はパソコン画面に向かって、『フロンティア・オークション』を戦っていた。
首位は東京だ。その動きは止まったものの、すでに『9000万ドルドル』に達している。
残念ながら、そんな予算は栃木にない。
それでも「棄権」しない理由は一つだ。
今なおグンマが走り続けている。絶望的な差があるのに、『1万ドルドル』ずつの連打をして、必死に先頭を追いかけていた。
この行動、やけくその可能性もあるが、
(ひょっとしたら・・・・・・)
栃木県知事は考える。
(グンマの予算は『9000万ドルドル』以上?)
その可能性はあった。グンマが過去に色々と財テクをしていたのは知っている。前回の『フロンティア・オークション』でも、あの埼玉県と激しく競り合っていた。
それに昨日、栃木県内の古物商から連絡があったのだ。「掘り出し物が急にいくつも、闇市場に出てきた」と。
そこで急遽、専門家チームを編制した。それらの掘り出し物を調査してもらったところ、どれも「本物」の可能性が高いらしい。そして、「『グンマ』か『新潟』で見つかったものではないか?」ということだった。
栃木県内で確認できただけでも、『500万ドルドル』は稼いでいる。もしも、これがグンマ県の仕業で、他の都道府県でも同じように、掘り出し物を売りさばいていたら・・・・・・。
(元の予算と合わせれば、『9000万ドルドル』を超えていてもおかしくない)
なおもパソコン画面上では、グンマが走り続けている。
その必死な姿を、今は応援したい。
といっても、自分にできることは限られている。
栃木県知事は入札ボタンを押した。『1ドルドル』だ。これをさっきから続けている。
前回の『フロンティア・オークション』と同様、今回も『一分間ルール』が存在する。「誰も新たな入札を行わずに、一分間が経過した」場合、その時点で東京の落札が決まってしまう。
それを阻止するのだ。こうして『1ドルドル』を入札していれば、グンマが途中で休憩することが可能。
しかし、正直言って、休んでいる時間はないと思う。今回のオークションにも、『十分間ルール』が存在する。「ある入札者が十分間、首位を維持した」場合だ。
これによる勝利条件を、東京が満たしかけている。あと数分の内に、グンマは先頭に追いつき、追い越さなければならない。
そんな厳しい状況ではあっても、グンマを応援したかった。
だから、自分は『1ドルドル』の入札を続けている。
そして、先ほどから栃木県庁の周囲が騒がしくなっていた。
いや、たぶん県庁の近くにとどまらない。
栃木県民のみなさんが叫んでいる。グンマを応援しているのだ。
栃木もグンマも「海なし県」。これまで海を手に入れようと、何度も戦ってきた間柄だ。
だから、知っている。どれだけ海が欲しいのかを。
だからこそ、絶対に勝って欲しい。それがたとえ、地球の海ではなく、月面の海だとしても。
今やグンマは、「海なし県」の最後の希望だ。
おそらく栃木県民のみなさんもわかっている。今回の『フロンティア・オークション』、栃木では東京に勝てない。勝てる可能性があるとすれば、グンマだけだ。
だから、全力で応援する。この声はきっと、グンマ県に届いているはず。
(がんばって!)
このオークションの結果が、最終的にどうなるのかはわからない。
ただ、これが終わったあとで、グンマ県知事に打ち明けたいことがある。
実は前回のオークションの直後から、密かに準備していた。
栃木とグンマと埼玉と山梨と長野で、「南の島へ視察旅行に行こう」という計画だ。「海なし県」の親睦会。
すでに「旅のしおり」はほとんど完成している。有名マンガ家さんに頼んで、表紙の絵も描いてもらった。あとは各県に視察旅行のことを伝えて、スケジュールを調整するだけだ。
ここで、パソコン画面上に異変が起こる。
(グンマが・・・・・・止まった・・・・・・?)
栃木県知事は少なからず動揺する。
首位の東京がいるのは、はるか先だ。まだ追いついていない。
なのに、グンマが足を止めた。
その事実が意味するものは当然・・・・・・。
栃木県知事は唇を噛みながら、『1ドルドル』の入札ボタンを押す。
やはり厳しかったか。『9000万ドルドル』というのは、簡単な金額ではない。それに、今のまま走り続けたとしても、制限時間内に東京に追いつくのは絶望的だった。
(でも・・・・・・)
グンマはまだ「棄権」していない。白旗を揚げたわけではないのだ。
そして、ここまで全力で走り続けてきた。他の県が次々と「棄権」する中でも、孤独に前へと進んできた。
だったら、自分は継続するだけだ。『1ドルドル』の入札を繰り返すことで、『一分間ルール』による東京の勝利を阻止する。グンマが本当にあきらめた、それを確認するまでは。
(今はちょっとだけ休憩しているのかもしれないし・・・・・・)
栃木県庁の周囲がざわついている。その分、グンマを応援する声が徐々に小さくなっていく。
やはり無理なのか。やはり東京には勝てないのか。
その事実を受け入れるためには、もう少し時間が必要らしい。
栃木県知事は小さくため息をつくと、『1ドルドル』を入札する。
その直後だった。
グンマが再び走り出したのだ。
しかも、驚異的なスピードで。
栃木県知事は目を丸くする。
これまでとは速さの次元が違っていた。何が起きているのか、正確なことはわからない。
(でも、このスピードなら・・・・・・)
多少の希望的観測を含んでいるとは思うけれど、
(制限時間内に、ぎりぎり追いつけるかもしれない!)
絶望の中に、一筋の光が差し込んできた。奇跡へとつながる糸が、宇宙から地上に垂れてきている。
栃木県庁の周囲からも歓声が上がっていた。
グンマ再動。限界突破の速さで猛追中。
はたして、グンマは東京に追いつけるのか。
これは月の海を目指す戦い。
オークションは最終局面に突入した。




