オークション前日(その四)
深夜の東京都。
品川駅の近くにある高層ビル、そこのワインバーに二人の男がいた。
神奈川県知事と千葉県知事だ。どちらも今夜は秘書を連れてきていない。
すでにバーの閉店時間を過ぎている。
二人の他に客の姿はなかった。バーの主人に頼んで、たまにこうして秘密の会談に使わせてもらっているのだ。
二人は国産のワインを飲みながら、それぞれが入手してきた情報を交換し合う。
月の土地をかけた『フロンティア・オークション』。
本日、日本よりも先に、アメリカとフランスで競りが行われた。
その激しい戦いを制したのは、
「アメリカはテキサス州だった」
鮑の煮貝を食べながら、神奈川県知事がつぶやく。
「フランスはパリを擁する州だった」
信州サーモンを食べながら、千葉県知事がつぶやく。
アメリカの方は「海のある州」で、フランスの方は「海のない州」だ。これを日本に当てはめるなら、「海なし県」と「海あり県」、どちらが勝ってもおかしくない。
そう言いたいところだが、現実は非情だ。アメリカにおいてもフランスにおいても、最終局面で競り合っていたのは、強力な経済基盤を持つ州ばかりだった。つまり、重要なのは潤沢な予算であって、海の有無は無関係。
で、実際に勝利したのは、その中でもトップクラスの予算を用意していたと思われる州だ。
おそらく日本でも、同様の展開になる。
だとすると、最後に勝つのは、やはり東京都か。その予算は『1億ドルドル』と圧倒的だ。札束が物を言うオークションにおいて、最大最強の都道府県である。
神奈川県知事と千葉県知事が把握している限りでは、同規模の予算を用意している都道府県は、他に存在しない。
二人の男は同時にため息をつくと、
「しかも、やばい秘密兵器を使う気だしな」
「あんな物は、ほとんど反則だろ」
脅威の連打速度を誇る機械だ。人の指による連打では、あれと戦っても勝ち目はない。
何か有効な対策を考えて、それを実行しなければ、他の都道府県は確実に負ける。東京大勝利だ。
あの秘密兵器の存在を、二人の県知事はそれぞれ、県内の企業からのタレコミによって、先に知ることができた。
この情報、たぶん他の県知事たちは知らないはずだ。彼らは当日に絶望を目にすることになる・・・・・・。
神奈川県知事と千葉県知事は再びため息をつくと、しばらく無言で酒を飲んだ。鮑の煮貝と信州サーモンをおかわりする。
やがてグラスと酒瓶、そして料理も空になった。
そんなタイミングで、二人同時に口にする。
「明日は共闘しないか?」
言った直後に、互いに驚く。まさか相手も、自分と同じことを考えていたとは。
しかし、それなら話は早い。
二人の男は笑顔になると、空のグラスで乾杯した。




