一番乗りは
グンマ県知事は県庁で緊張していた。
パソコン画面では、数字が減り続けている。
これがゼロになった時、『フロンティア・オークション』が始まるのだ。前回は敗れたものの、今回こそは必ず。
昨日、『グンマのポセイドン』からビデオメッセージが届いた。
ビデオに映っていたのは、七人の県知事たちだ。かつて【『グンマ県に本気で海を』プロジェクト】を指揮した県知事たち。
なんでも、グンマ県内に眠っていたお宝を見つけたそうで、それをすでに換金したという。「月の海を買うために使って欲しい」と、県に寄付してきた金額は、なんと『3000万ドルドル』だ!
もともと用意していた『7000万ドルドル』と合わせると、グンマの予算は『1億ドルドル』になる。さすがの東京都も、この金額は用意していないはず。勝ったも同然だ。
しかし、グンマ県知事はかえって不安になっていた。
たしかに、オークションは札束の乗せ合いだ。札束をより高く積める者が、欲しいものを手に入れる。
そういう側面がある一方で、金額面以外での駆け引きも存在する。それが勝敗を左右することだって、オークションにはあるのだ。
この予算で負けるはずがない。だからこそ逆に、プレッシャーになっていた。
これで負けたら、無能どころの話ではない。たぶん辞任だけでは済まないだろう。グンマ県からの永久追放は当然として、他にも色々と・・・・・・。
前に高崎市で買ってきた「だるま」を丁寧に磨いたり、県民のみなさんからの署名(三〇〇万人分)を見たりして、県知事はどうにか緊張をほぐそうとする。
グンマ県庁の別室では現在、県民からの応援FAXが大量に届いているそうだ。
グンマの歴史的瞬間を目にしようと、県民の多くが今回のオークションに注目している。『フロンティア・オークション』では、各都道府県が競り合っている様子を、インターネットで見ることができるのだ。
応援FAXの多くには、「おかめきけ」と書いてあるらしい。
県知事が就任演説で、感極まって叫んだ言葉。自然と口から出たもので、特に深い意味を込めたつもりはなかった。
けれども今や、「グンマ団結の合言葉」になっている。
(おかめきけ・・・・・・)
そうやって、気持ちを奮い立たせようとする。
でも、やはり不安が・・・・・・。
その時だった。
「おかめきけ!」
秘書が突然、叫んだのだ。
そのあと、笑顔になって告げてくる。
「もしも、今回のオークションで負けて、海が手に入らなくても」
そこで少し間をとると、
「それはそれで、いつものグンマです。何も変わらないですよ。今日も明日も、同じグンマがあるだけです。気楽にいきましょう。グンマ県民は我慢強いですから」
そして再び叫ぶ。
「おかめきけ!」
県知事は心の中で感謝した。
でも、それを口に出すのは照れくさかったので、同じ言葉を返すことにする。
「おかめきけ!」
不安が完全に消えたわけではないものの、かなり小さくなっている。
「あと、『あれ』を忘れていますよ」
秘書に言われて思い出す。
そうだ。『グンマのポセイドン』から『秘密兵器』が届いていたのだ。
県知事は机の引き出しから、小さな器具を取り出した。急いで指に装着する。
これをつけていると、長時間にわたって連打し続けても、指が痛くなりにくいのだ。
なぜなら、あの『無敵スイカ』と同じく、最高級の衝撃吸収素材『クッションゲル・GUNMA』が内蔵されている。その耐久性は折り紙つきだ。
なお、『クッションゲル・GUNMA』の正体は、県内産の最高級コンニャクから特殊な成分を抽出して、さらに特別な加工を施したものだ。コンニャクの一大生産地だからこそ開発できた、奇跡のスーパー素材である。
その開発には、グンマでさえあれほど苦労したのだから、他の都道府県では絶対にまねができない。
(そうだ。グンマには、この『秘密兵器』がある)
さあ、準備は整った。
「おかめきけ!」
県知事が気合いを入れると、
「おかめきけ!」
秘書も続く。
一分後、パソコン画面の数字がゼロになった。
直後に画面が切り替わる。アニメーションで描かれた競馬場だ。
前回とは違って、近未来の競馬場のようだ。今の競馬場よりも、さらにハイテク化されている。
そして、競馬場の上には美しい星空が広がっていた。
グンマの山々で見た星空を思い出す県知事。
ファンファーレが流れる中、オークションの開始が告げられる。
それを聞くなり、県知事は慌てて入札ボタンを押した。
これは『フロンティア・オークション』特有のルールで、最初だけは早押し勝負だ。
要するに、一番乗り争いである。運営が言うには、オークションを盛り上げるための演出なんだとか。
とはいえ、今回は自分でも出遅れたのがわかる。一番乗りは無理だろう。
はたして、一番乗りになるのは、どこの都道府県なのか。
次の瞬間、画面上に一頭のサラブレッドが飛び出してくる。
「どこの都道府県だ?」
グンマ県知事が質問すると、秘書が答える。
「これは」
月の海を目指す戦い、一番乗りは鳥取県!




