オークション前日(その二)
同時刻、東京都知事は都庁の会議室にいた。
白衣姿の男たちもいて、一台の機械を調整している。
「あんなこと、二度はごめんですよ」
東京都知事は不満を口にした。
前回の『フロンティア・オークション』の少し前に、都議会から要請があった。ある最新機械の性能実験について。ぜひとも『フロンティア・オークション』で試したい、と。
で、前回のオークション、あんな惨劇になった。
今やインターネット上には、『東京ラスボスくん』という冷酷そうな美少年キャラクターや、『東京ラスボスちゃん』という凶悪そうな美少女キャラクター、それらのイラストが大量に公開されている。
さらには、その進化形態まで登場しているとか。
ネット上で活動中の絵師さんたち、がんばりすぎだ。少しは手加減、ヘルプミー。
しかも、都内の小学校や中学校では、「海は渡さん! 絶対にな!」といった感じのセリフが流行っているそうだ。どういう場面で使っているのやら・・・・・・はぁ。
そんな状況なのに、明日のオークションでは、あの機械の再実験を行う。
東京都が独自に調査したところ、少なくとも三〇を超える都道府県が参加するようだ。「月に一番近い都道府県」になるというのは、それほど魅力的らしい。もちろん、東京都も参加する。
「この機械を使えば、確実に勝てるんですね?」
都知事が確認すると、
「大きな問題が発生しない限り、東京都が必ず勝ちます」
白衣の男たちは自信満々だ。
そうだろうな、と都知事は思う。この機械の「すさまじさ」は、前回のオークションで見ている。本当に圧勝だった。他県にものすごい絶望を与えるくらいの。
「この機械の連打速度に、生身の人間はついてくることができません」
白衣の男たちの言葉に、都知事はうなずく。先日の資料にも同じことが書いてあった。普通に使えば楽勝だろう。
ただし、それでは性能実験にならない。前回の反省点でもある。
だから、明日のオークションでは、次のハンデをつけることになっていた。
「この機械は『1ドルドル』ずつしか連打しません」
と白衣の男たち。
それでも勝てるという。
前回のオークションでは、『10000ポンディー』ずつ連打する設定にしていた。で、その時点で首位争いをしていた埼玉県とグンマ県を、瞬殺している。
でも、『1ドルドル』ずつなら、いくら超高速の連打といっても、さすがに前回のような「むごいこと」にはならないだろう。
そう考えて、再実験を許可したのだ。
白衣の男たちが言う。
「この機械に対抗できるとしたら、茨城県と鹿児島県くらいでしょうか。あの二県には、宇宙センターがあります。そこの機械を使えば、良い勝負が可能でしょう」
ですね、と都知事はうなずく。先日の資料にも同じことが書いてあった。
前回の『フロンティア・オークション』、茨城県と鹿児島県は「一瞬で」首位に立った。あれは明らかに、人間の連打速度によるものではない。東京と同様、何らかの機械を使っている。
「ただし」
白衣の男たちは油断しない。
もしも、あの二県と競り合う展開になったら、その時点で『1ドルドル』ずつの連打ではなく、『10000ドルドル』ずつの連打に設定し直すという。
「そうなれば、あとは予算の勝負です」
しかも、茨城県と鹿児島県は現在、地球に接近中の隕石、その予想進路を計算している。明日の『フロンティア・オークション』、あの二県は全力を出すことができないはず。
「したがって、東京都の勝ちは揺るぎません」
白衣の男たちが断言した。
都知事は思う。勝つのはいいが、その勝ち方は穏便であって欲しい。
なお、用心のために、
「この機械をインターネットにつなぐのは、オークションの開始直前にします」
白衣の男たちが言う。
オークションに参加するためには、インターネットへの接続が必要だ。
しかし、ネットを経由して、どんな「悪い虫」が入り込むかわからない。その危険性を最小限にするため、開始直前に接続する。
とはいえ、それは小さな小さな不安材料にすぎない。東京都庁のインターネットにはもともと、超強力な防衛システムが構築されている。「悪い虫」が入り込もうとしたところで、すべて駆逐されるだろう。
白衣の男たちの説明に、
「なるほど」
都知事は大きくうなずいた。
オークション当日は、この機械を起動させたら、あとは見ているだけでいい。
それで、東京都は月面の土地を獲得できるのだ。「静かの海(その一部)」を。
そこでふと、グンマ県知事の言葉を思い出してしまう。
――海を持っている者に、海を持っていない者の気持ちはわからない。
(そうかもしれませんね)
明日のオークション、グンマ県も参加してくるだろう。
そして、またもや敗北することになる・・・・・・。
都知事はため息をついた。
この機械の存在もあるが、そもそも予算からして違う。
おそらくグンマが出せるのは、最大でも『7000万ドルドル』。
それに対して、東京都の予算は・・・・・・。




