これは海を目指す戦い(その四)
茨城県と鹿児島県!
今首位に立っている相手なので、グンマ県知事は表情を硬くした。
相手視点で考えるなら、グンマ県と栃木県が『1ポンディー』ずつの入札を続けている。あれがなければ、『一分間ルール』で落札できていた。
そんな状況での、いきなりのメールだ。
何かの策略か?
警戒せずにはいられない。たとえば、このメールには、厄介なコンピュータウイルスが仕掛けられているとか。
すると突然、メールが開いた。自分は何のボタンも押していない。
メールの文面は真っ白だ。その代わりに、自動でアニメーションが再生される。
やばいと思った。パソコンを強制シャットダウンさせるかどうかで、一瞬だけ迷う。
しかし、それはできない。
それは同時に、今回のオークションからのシャットダウンも意味する。海を獲得するチャンスを、むざむざ捨てることになる。
憎悪を込めた視線を、グンマ県知事はパソコン画面に向けた。
そこには、アニメーションの美少女が二人。
なぜか彼女たちは揉み手をしている。どちらも名札をつけていて、右が「いばらき」で、左が「かごしま」だ。二人とも黄色い安全ヘルメットをかぶり、黒い作業服を着ている。
「ご迷惑をおかけしております。私たちはちょっと目立ちたかっただけで、本気で落札するつもりはありません。早く追い抜いてもらえると、助かるのですが」
この発言を信じるべきか、否か。
他の県に追い抜かれた時点で、今回のオークションから「棄権」すると、二人は言っている。
そのあと美少女たちはヘルメットを脱いで、軽快なダンスを披露した。
それが済むと、アニメーションが終わる。パソコンが元の画面に戻った。メールが開いてから、ここまで三十秒だ。
グンマ県知事は入札ボタンを押す。とりあえず、今回も『1ポンディー』だ。
彼女たちの発言は気になる。
しかし、今のメール、時間稼ぎの可能性も・・・・・・。
残り時間を考えると、そろそろ差を詰めておいた方がいいかもしれない。
そこで、オークションに動きがある。
一頭の馬が走り出した。山梨県だ。
これに対して、首位にいる二頭は、まったく動かない。
みるみる内に差が詰まっていく。
そして、抜いた! 山梨県が先頭に立つ!
その直後、茨城県と鹿児島県の二頭が同時に、白旗を揚げた。「棄権」の合図だ。今回のオークションにおいて、これ以降の入札はできない。
さっきのメール、両県の言っていたことは本当だった。
グンマ県知事は考える。
(あのメール、グンマにだけではなく、他の県にも送っていたな)
で、山梨県が動いた。
やれやれという顔で秘書が言う。
「『フロンティア・オークション』には、一般の視聴者が大勢いるので、こういう『スポット参戦』が、たまにあるんですよね」
いわゆる瞬間最大風速。瞬間的に目立つことができればいいだけで、基本的に落札は狙っていない。たとえ短い時間でも首位に立つことで、地元の視聴者が大いに盛り上がるのだとか。
「なるほど、ファンサービスみたいな感じか」
オークションの運営側も、「競り合いに変化がつきやすくなる♪」と、このような『スポット参戦』を黙認しているらしい。
「何かの実験も兼ねていた、そんな可能性もありますけどね。あの二県には宇宙センターがあることですし」
「先頭に一瞬で、『二県同時』に出現したしな」
秘書が言うように、宇宙開発に使う超高性能コンピュータで、何かのテストをしたのかもしれない。
そんなハイテクノロジーを使ってくる相手に対して、こちらは指でのボタン連打だ。あのまま二県がオークションへの参加を継続していたなら、厳しい戦いを強いられていただろう。さっさと「棄権」してくれて、本当に良かった。
「グンマ県知事の名で茨城県と鹿児島県に、グンマ名産の『こんにゃく詰め合わせセット』を送っておいてくれ」
「今すぐにですか?」
「いや、オークションのあとで頼むよ」
さまざまな可能性を考えると、あの二県とは良い関係を築いておきたい。
茨城県と鹿児島県は「海あり県」だ。もしも今回のオークションで、グンマが負けるようなことがあれば・・・・・・。
さて、ここから仕切り直しといこう。
パソコン画面に目をやると、逃げる山梨県を、栃木県と長野県が追っていた。
どこもまだ十分に余力を残している。もうしばらくは、この三県による首位争いが続きそうだ。
だったら、今の内に・・・・・・。




