これは海を目指す戦い(その三)
それは二重の意味で衝撃だった。
どちらも『海なし県』ではない。
ゆえに、事前調査を一切しなかった。まさかのダークホース登場だ。
さらに、茨城県と鹿児島県は「一瞬で」首位に立った。
通常はあり得ない。『フロンティア・オークション』はボタン連打による入札だ。
しかも、千分の一秒まで計測可能だという。
だから、最初の早押し勝負で、栃木県「だけ」が一番乗りになった。千分の一秒まで一致するのは、それほど厳しいのだ。
なのに、画面上の入札履歴を見る限りだと、あの二県は「同時に」首位に立ったのである。
入札は各都道府県ごとのため、「茨城県」と「鹿児島県」とは別々になるはず。
事実、パソコン画面に映っている馬は、たしかに二頭だ。二県で一頭ではない。
何が起きているのかわからずに、グンマ県知事は沈黙した。
先ほどまで激しく競り合っていた三県も、今は足を止めている。予想外の伏兵出現に、少なからず動揺しているようだ。
一方で、茨城県と鹿児島県も足を止めている。『2000ポンディー』から前に進もうとはしない。
この『フロンティア・オークション』において、落札者が決まるケースは、主に次の二つだ。
一つめは、「誰も追加の入札を行わずに、一分間が経過した」場合。この場合は、その時点で首位に立っていた者が落札する。
二つめは、「ある入札者が十分間、首位を維持した」場合。この場合も当然、首位の者が落札する。
前者のルールがあるため、このまま画面を見ているだけで一分経過、というのが一番まずい。
しかし、茨城県と鹿児島県がどうして? しかも、二県同時にだと?
「ひょっとしてですが・・・・・・」
秘書が自信なさげに言ってくる。
「いや、でも・・・・・・考えすぎかも」
何か思い当たることがあるらしい。
「気になることがあるなら、今すぐ言って欲しいんだが」
「ひょっとしてですが、あの二県って、どちらも宇宙センターがありますよね?」
それでグンマ県知事もピンとくる。
前に館林市を訪れて、『分福茶釜』伝説で知られる茂林寺を参拝した。あのあとに視察で寄ったプラネタリウムで、そんな話を聞いた気がする。茨城県の「つくば市」にある宇宙センターと、鹿児島県の「種子島」にある宇宙センター。
「なるほど。あり得ない話ではないな。そのことが関係しているのかも」
もしそうなら、宇宙開発の過程で培った技術を、使ったのかもしれない。脅威のハイテクノロジーだ。それで「二県同時」という状況が、実現したのではないか?
グンマ県知事はひとまず、『1ポンディー』を追加しておく。茨城県と鹿児島県の落札を阻止するためだ。
あの二県が参戦してきたとなると、オークションに出品されているのは、宇宙開発において重要な島なのか?
だとすると、面倒なことになりそうだ。茨城県と鹿児島県、そう簡単には引き下がらないだろうし・・・・・・。
ここで栃木県も『1ポンディー』を追加した。それでいい。誰かが入札している限り、『一分間ルール』での落札を封じることができる。
とはいえ、『十分間ルール』のことを考えると、このままの状態を続けるわけにもいかない。あの二県に代わって、誰かが首位に立たなければ・・・・・・。
グンマ県知事は入札ボタンを押す。今回も『1ポンディー』だ。もう少し様子を見る。
数十秒後、栃木県も動いた。追加の『1ポンディー』。
今のところ、茨城県と鹿児島県は動かない。『2000ポンディー』で止まったままだ。
だが、ずっと止まっているとは限らない。今は首位にいるから、動く理由がないだけだ。
この状況、追いかける側としては、ギリギリまで待つわけにもいかない。
たとえば、残り一分になって仕掛けても、それに合わせて相手も動き出す。
そうなると、一分間のボタン連打勝負だ。
今の内にもっと差を詰めておかないと、こちらが追いつくことができずに、あの二県の逃げ切りが成功してしまう。
この局面、できることなら、まず他の県に動いて欲しかった。
茨城県と鹿児島県がどう反応するのか、先に見ておきたい。脅威のハイテクノロジーを、使い続けるのかどうか。
それによって、こちらの対応も変わってくる。
グンマ県知事は入札ボタンを押した。今回も『1ポンディー』だ。自分から仕掛ける決心は、まだつかない。
茨城県と鹿児島県が首位に立って、すでに五分が経過している。
その直後だ。突然、パソコンにメールが届く。
「この忙しい時に」
メールを送ってきた相手を見るなり、グンマ県知事は息を呑んだ。




