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馬鹿者どもが夢の跡  作者: もちむぎ


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第二十一章 無いはずのものがある

第二十一章 無いはずのものがある


 焼いた肉の皿が空になる頃、野田が紙を引き寄せた。


「でも、こんなの、調べたら分かるんじゃない?」


 二つの、金、という字の間を指す。


「土地買うなら、町も見るでしょ」


「見ると思う」


 直樹は答えた。


「どこを見るんだろうね」


 久世が資料を探した。


 紙をめくる音が、しばらく続いた。


「前の工場で使っていた物については、調査したって書いてあります」


「何か出た?」


「この報告では、問題ないと」


「じゃあ、きれいだったんだ」


 実が言った。


 久世は日付を確かめた。


「去年の報告です」


 直樹は写真の並んだスマホを見た。


 こちらは、この数週間のものだった。


「調べたあとで、入れたら?」


 久世の手が止まった。


「その報告には、載りません」


 直樹は紙の上へ指を置いた。


「昔の工場が汚したんじゃなくて、今、別のところから持ってきてるんだもんね」


 武藤がノートを開いた。


「今も、来てると思います」


 野田は椅子ではなく、自分の膝へ肘を載せた。


「じゃあ、きれいだった、って紙だけ残ってるのか」


「去年は、ということです」


 久世が言った。


 直樹は一枚の紙を、写真の横へ置いた。


 書類の上では問題がなく、その場所には、別のものが運ばれている。


「今のこと、誰も調べなかったら、分からないままか」


 野田が言った。


 直樹は頷いた。


「見えなくすればね」


     *


 次の日曜日、五人は坂の上にいた。


 今回は昼間だった。


 前の週と違い、工場跡の奥に人がいた。


「休みじゃないの?」


 野田が聞いた。


「看板は、今週も日曜休みでした」


 武藤が答えた。


 重機が動いていた。


 門に近い方ではなく、奥だった。


 直樹はスマホの画面を見た。


 先週撮った写真を拡大し、目の前の景色と比べる。


「あそこの山、なくなってる?」


 武藤が双眼鏡を覗いた。


「少し残ってます」


 直樹が手を出すより先に、野田が身を乗り出した。


「俺も見たい」


「順番に」


 武藤が言った。


 直樹は手を下ろした。


 実が持ってきた小さな敷物を広げた。


「荷物、ここ置けるよ」


 武藤は袋を載せ、双眼鏡を野田へ渡した。


     *


「これ、木じゃない?」


 野田が言った。


「どれ?」


「山の端。長いの。あ、今動いた」


 直樹は裸眼で下を見た。


 重機が腕を上げた。


 土とは形の違うものが、その先から垂れていた。


 野田が双眼鏡を渡す。


 直樹は覗いた。


 割れた板のようなものが、ほかの塊と一緒に引きずられていた。


 白い袋が潰れ、中から何かが広がった。


 粉なのか、細かな破片なのかまでは分からない。


 重機が向きを変えた。


 荷を下ろしたのと同じ、奥の低い場所へ押し込んでいく。


「久世さん」


 直樹は双眼鏡を渡した。


 自分はスマホで動画を撮り始めた。


 画面の中では、小さな重機がゆっくり動いているだけに見えた。


「もっと大きく撮れないのかな」


「動かさない方がいいです」


 武藤が言った。


「どこで何してるか、分からなくなるから」


 直樹はスマホを両手で持ち直した。


 久世が息を吐いた。


「今、土をかけてます」


 直樹も画面越しに見た。


 別の山から運ばれた土が、さっきのものの上へ落ちた。


 一度で、全部は隠れなかった。


 重機は同じ動きを繰り返した。


     *


 実が双眼鏡を受け取ったのは、そのあとだった。


 覗いて、しばらく黙っていた。


「あれ、後で出すの?」


 誰もすぐには答えなかった。


「出すなら、土かけなくていいんじゃないかな」


 野田が言った。


 実は双眼鏡を下ろした。


 もう一度、工場跡を見た。


「そっか」


 武藤が時刻を書いていた。


 久世は見えたものを短く伝え、武藤が聞き返している。


 直樹は撮影を止めた。


 スマホが少し熱くなっていた。


「……埋めてるね」


 直樹が言うと、久世が頷いた。


「はい」


 今回は、その先に、かもしれない、は続かなかった。


     *


 帰りは、五人ともいつもより静かだった。


 怖いものを見た、という感じではなかった。


 説明されていたことと、見たことが、合わなかった。


 その合わない部分が、坂を下りても残っていた。


「これ、誰かに見せたら?」


 野田が言った。


 直樹はスマホを見た。


「動画?」


「うん」


「見て、分かるかな」


 道の端へ寄り、五人で画面を覗いた。


 小さな重機が、土の山の向こうで動いていた。


 何かを押しているのは分かる。


 何を押しているかは、直樹にもよく分からなかった。


「双眼鏡で見た方が、はっきりしてたね」


 実が言った。


 武藤はノートを出した。


「でも、見たことは書いてあるから」


「それも一緒に見せればいいか」


 直樹は頷いた。


 久世が紙を入れた袋へ手を置いた。


「町の窓口に、工事の説明と違うものを見たって、聞いてみますか」


「聞こう」


 直樹が答えた。


 杉浦の会社へ送った文章とは、別のものを作る必要があった。


     *


 部屋で動画を見直していると、テレビに杉浦が映った。


 休日の地域番組だった。


 明るい部屋で、アナウンサーと向かい合っている。


「町に人を呼び戻すためには、まず安心して使える場所が必要です」


 杉浦が言った。


 直樹はスマホから顔を上げた。


「古いものを整理し、新しいものを迎える。そのお手伝いができればと思っています」


 アナウンサーが頷いた。


 野田は床に置いた買い物袋から、菓子を一袋取り出した。


 開ける音がした。


「あの土、整理なのか」


 小さく言った。


 武藤はノートに、日付と、埋めた場所を示す印を書き足した。


 直樹は文章を打ち始めた。


 いつ、どこで、何を見たのか。


 久世が隣で、推測の混ざった一文を指した。


「これは、まだ分からないので」


「じゃあ、ここ消す」


 直樹が直した。


 実はテレビを見ていた。


 杉浦の後ろに飾られた花が、大きく画面へ映った。


 机の上では、野田が開けた菓子の袋が、五人の真ん中へ置かれた。

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