↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
馬鹿者どもが夢の跡  作者: もちむぎ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
14/39

第十四章 テレビの中の人

第十四章 テレビの中の人


 月曜日、直樹が部屋の扉を開けると、野田はまずドアノブを見た。


 軽く動かし、頷く。


「緩んでない」


「毎回やるの、それ」


「気になるから」


 直樹は靴を脱いだ。


 実が後ろから入り、いつもより丁寧に扉を閉めた。


 武藤は袋を机の横へ置き、久世は鞄から紙を出した。


「印刷してきました」


「何を?」


「工事のこと。町のホームページにあったので」


 直樹は机の雑誌を寄せた。


 紙が三枚並んだ。


 完成予想図と、事業の紹介と、工事のお知らせだった。


「よく見つけたね」


「看板の工事名で調べたら、出ました」


 直樹は一枚目を持った。


 看板でも見た、木とベンチの絵があった。


「これ、何ができるの?」


「最初は企業向けの用地を整える計画だったみたいです。ほかの使い方も、検討中と」


「まだ決まってないんだ」


「はい。今は、そのための土地を整備している段階で」


 野田が紙へ顔を寄せた。


「じゃあ、これ、建物の図じゃないの?」


「将来のイメージ、と書いてあります」


 久世が小さな文字を指した。


「便利な言葉だね」


 直樹が言った。


     *


 武藤がノートを開いた。


 久世は別の紙を一枚出した。


 日付と時間、入った車の数が、表になっていた。


「同じ一時間で、昼が八台。土曜の夜が十七台。日曜の昼はゼロで、夜が十三台」


「夜の方が働いてるね」


 野田が言った。


「中の人、昼寝てるのかな」


 実が紙を見ていた。


「そうかもね」


 直樹は工事のお知らせを持ち上げた。


「でも、これだと昼の工事だよ」


 久世が頷いた。


「夜に材料を入れる日もあるかもしれないです。でも、日曜は休工のお知らせが出ています」


「急に仕事が入った?」


 武藤が聞いた。


「その可能性はあります」


 久世は表へ目を戻した。


「まだ、これだけだと」


「毎回それだね」


 直樹が言うと、久世の指が止まった。


 武藤がノートを少し引き寄せた。


「じゃあ、次に何を見ればいいかって話じゃないですか」


 直樹は武藤を見た。


 武藤はノートの端を撫でていた。


「せっかく数えたんだし」


「うん」


 実が頷いた。


「前より、分かったこと増えたよね」


 直樹は表をもう一度見た。


 何も分からない、と言われている気がしていた。


 だが、夜に車が来ることも、日曜にも入ることも、先週までは知らなかった。


「……じゃあ、足りないところを考えよう」


 直樹が言うと、久世は止めていた指を動かした。


「工事で、何をどれだけ動かす予定なのか。それが分かれば、数字を比べられるかもしれません」


「どこに書いてあるの?」


「探してるんですけど、紹介のページには、そこまでは」


 久世はスマホを出した。


 野田が床へ手を伸ばし、テレビのリモコンを取った。


     *


 テレビでは、地元の祭りの準備を紹介していた。


 大きな太鼓と、提灯の列が映った。


 実は一度画面を見て、それから机へ目を戻した。


「工事してる人に聞いたら、教えてくれるかな」


「何を?」


 直樹が聞いた。


「何運んでるんですかって」


 四人は少し黙った。


「……それも、そうか」


 野田が言った。


 武藤はノートへ目を落とした。


「忙しいときに聞いたら、怒られないかな」


「仕事中じゃないときなら?」


 直樹が答えた。


「休憩とか」


「知らない人に、いきなり?」


「いきなりじゃなかったら、いつ聞くの」


 武藤は直樹を見た。


「三浦さんが聞くなら、いいですけど」


「いいよ。会えたら聞いてみる」


 久世は黙ってスマホを操作していた。


 直樹は印刷された紙を裏返した。


 会社名の下に、住所があった。


「この会社に聞いてもいいのか」


「どの会社?」


 野田が覗き込む。


「事業主。工事を頼んでる方でしょ」


 久世が顔を上げた。


「それ、施工の会社とは別です」


「うん。こっちなら、全部知ってそう」


 直樹は会社名をスマホに打ち込んだ。


 同じ名前のホームページが、すぐに出てきた。


     *


 最初のページには、町を空から撮った写真があった。


 その下に、地域の未来を拓く、という文字が並んでいた。


 直樹は画面を送った。


 建設、土地開発、不動産。


 途中で、さっき久世が出したものと同じ完成予想図が現れた。


「あ、ここだ」


 記事を開く。


 再開発の説明と、現場で撮った写真があった。


 作業着姿の男たちの真ん中に、一人だけスーツを着た男が立っていた。


 直樹は写真を拡大した。


「この人、見たことある」


 野田がスマホを覗いた。


「誰?」


「ほら、テレビの」


 会社紹介のページへ戻る。


 代表者の挨拶があった。


 杉浦隆造。


 写真の男が、ネクタイを締めて笑っていた。


「杉浦さん?」


 武藤が言った。


「あの、大きい家の?」


「家は知らないけど」


「池があるところ」


 実が顔を上げた。


「鯉、いるよね」


 直樹は代表者の挨拶を読んだ。


 町の発展に尽くすこと。


 地域との信頼を大切にすること。


 テレビで聞いたようなことが書いてあった。


「工事の会社の方じゃなくて、ここの計画を進めてる人なんだ」


 直樹は四人へスマホを向けた。


 テレビから拍手が聞こえた。


 五人が何となく顔を向けた。


 祭りの映像は終わり、町の団体へ車椅子を寄贈する式典が映っていた。


 画面の中で、杉浦隆造が頭を下げていた。


『杉浦さんは、長年にわたり地域への支援を続けていて――』


「あ、ほら」


 直樹が言った。


「この人」


 野田はテレビとスマホを交互に見た。


「ほんとだ」


 画面の杉浦は、誰かと握手をしていた。


「思ったより、大きいとこに繋がったね」


 武藤が言った。


 直樹は頷いた。


 近所の工事を少し見に行っただけのつもりだった。


 その先に、食堂のテレビで見た男がいた。


「でも、まだ何も分からないね」


 野田が言った。


「そうだね」


 直樹はスマホを自分へ戻した。


 代表者の挨拶の下には、会社の沿革へ進むリンクがあった。


 押してみた。


 久世は机の上の紙を揃え、武藤は会社名をノートへ書き足した。


 テレビでは次の話題が始まった。


 野田が音量を少し下げた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。