↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
馬鹿者どもが夢の跡  作者: もちむぎ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
11/39

第十一章 まずは看板

第十一章 まずは看板


 土曜日の午後、直樹が待ち合わせ場所へ着くと、武藤がもういた。


 足元に、見覚えのある迷彩柄の袋があった。


「何持ってきたの」


「双眼鏡」


「おお」


「あと、飲み物」


「そんなに長くいるかな」


「分からないから」


 武藤は袋の口を閉じた。


 直樹は、こういうときには準備がいいんだな、と思った。


 その割に、実戦では五分らしい。


 口に出す前に、実が来た。


「お待たせ」


 片手にレジ袋を提げていた。


「何買ったの」


「パン。お昼、食べてない人いるかなと思って」


「俺、食べた」


 直樹が答えると、実は頷いた。


「じゃあ、あとで」


 自分は何も買ってこなかったことに、直樹はそのとき気付いた。


 財布もスマホもあるので、困ることはなかった。


     *


 久世が来て、四人になった。


 野田からは、家の仕事が終わったら連絡する、とメッセージが来ていた。


「全員じゃなくても、行けばいいよね」


 直樹が言い、四人は工場跡へ向かった。


 休みの日に会うと、作業着ではないことが少し変だった。


 久世のシャツには皺がなく、実の上着は袖が短かった。武藤の靴は、雑誌で説明していたものと似ていた。


 直樹は自分の靴を見た。


 踵が少し減っていた。


 歩いて十五分ほどで、白い仮囲いが見えてきた。


 昼間の工事現場は、思ったより普通だった。


 重機の音がして、門の前には誘導する人がいる。何かの車が入るたび、通行人を止めていた。


「どれが看板?」


 直樹が聞くと、久世は囲いの先を指した。


「あっちです」


 四人で歩いていく。


 完成予想図の隣に、工事の内容や期間を記した板が並んでいた。


 直樹はまず、予想図を見た。


「こんなの、できるんだ」


 広い歩道に、木とベンチが描かれていた。


 実が絵の端を見た。


「花も植えるんだね」


 久世は、その隣の文字を読んでいた。


「今は、整備する段階みたいです」


「建物は?」


「この工事とは、別かもしれません」


 直樹は予想図から、工事の看板へ目を移した。


 書いてあることの半分くらいは、何を意味するのか分からなかった。


 武藤がスマホを出した。


「写真、撮っておけば」


「そうだね」


 直樹も出しかけ、武藤が撮っているのでやめた。


「あとで送って」


 久世は、今週の作業予定を見ていた。


「今日は、土の搬出って」


「外へ出す方?」


 実が聞いた。


「はい」


「日曜は?」


 直樹が指した欄には、休工、と書かれていた。


 武藤がそこも撮った。


「先週と同じです」


 久世が言った。


「じゃあ、日曜の車は何だったんだろうね」


 直樹は門の方へ顔を向けた。


     *


 歩道を戻る途中で、大きな車が一台出てきた。


 四人は誘導員に従って止まった。


 車が曲がる。


 武藤が、少し首を伸ばした。


 通り過ぎると、その背中を目で追った。


「今の、空いてた」


「何が?」


「荷台。空っぽでしたよね」


 直樹は車を見たが、もう後ろしか見えなかった。


「これから土を運ぶんじゃない?」


「外へ出ていきましたけど」


「ああ、そうか」


 実が門の奥を見た。


「さっき、中で下ろしたのかも」


「じゃあ、入れる方の車だ」


 武藤が言った。


 久世は看板の方を振り返った。


「土を出す日でも、別のものは入れると思うので」


「それはそうだよね」


 直樹は頷いた。


 一台見ただけでは、何も分からなかった。


     *


 近くの公園のベンチに座り、武藤の撮った写真を見直した。


 実が袋を開けた。


「パン、いる?」


「何パン?」


 直樹が聞くと、実は中を見せた。


 あんパンと、クリームパンと、惣菜パンが二つあった。


「大山さんはどれ」


「残ったのでいいよ」


 直樹はあんパンを取った。


 武藤がクリームパンへ手を伸ばし、久世は小さく首を振った。


「今は、大丈夫です」


 実が惣菜パンを一つ取り、残りを袋へ戻した。


 直樹はスマホの写真を拡大した。


「業者、いっぱい書いてあるね」


 工事名の下に、会社の名前が並んでいた。


 知らない名前ばかりだった。


「この工事、どのくらい大きいんですかね」


 武藤が聞いた。


 久世が面積の数字を読んだ。


 直樹には、広いのだろうということしか分からなかった。


「トラック、何台くらい来るものなの?」


 久世は少し考えた。


「何を、どれだけ動かすかが分からないと」


「面積だけじゃ駄目か」


「はい。土をどの深さまで動かすかでも違うので」


 武藤が頷いた。


「じゃあ、車を数えるだけじゃ分からない?」


「数えていないと、比べることもできないです」


 久世はそう答えてから、少し俯いた。


「たぶん」


 直樹はあんパンを飲み込んだ。


「じゃあ、まず数えればいいんだ」


 武藤が顔を上げた。


「それなら、できます」


 足元の迷彩柄の袋を引き寄せる。


 直樹は双眼鏡が出てくると思った。


 武藤が出したのは、小さなノートとペンだった。


     *


 野田から電話が来たのは、実が二つ目のパンを食べ始めた頃だった。


「どこ?」


「公園」


「調べるんじゃなかったの?」


「看板見て、休憩してる」


「もう?」


「結構歩いたよ」


 直樹が答えると、野田は公園の名前を聞いた。


 十五分ほどして、自転車で現れた。


「何か分かった?」


「まだ」


 直樹は隣を空けた。


 野田はベンチの前へ自転車を寄せ、スマホの写真を見た。


「あ、ここの会社」


 指で、一つの名前を示した。


「知ってる?」


「うちに機械の部品頼みに来たことある」


「どんな会社?」


「分からない。親父が話してたから」


「何だよ」


「名前見たことあるってだけ」


 野田は写真を戻した。


 実が袋を開いて覗き、空になっているのを見て顔を上げた。


「ごめん。パン、食べちゃった」


「いいよ。俺、食べてきたし」


 野田は四人を見回した。


「これから何するの」


 直樹は工場跡の方を見た。


 白い囲いの上に、重機の腕が少しだけ見えた。


「もうちょっと、車見てみる?」


 武藤がペンの蓋を取った。


「来る前に、書くこと決めた方がいいです」


 ノートを膝に載せる。


 時刻。会社名。入ったか、出たか。


 武藤の字は、思ったより小さく、揃っていた。


「荷台が見えなかったら?」


 実が聞いた。


 武藤は一行書き足した。


「分からない、って書く」


 直樹は頷いた。


「何でも埋めなくていいんだ」


「見てないこと書いても、しょうがないから」


 武藤はそう言って、日付を入れた。


 直樹はそのノートを覗き込み、少し笑った。


「探偵みたい」


「探偵は、あんパン食べてないの?」


 野田が聞いた。


「食べる奴もいるよ」


 直樹はすぐに答えた。


「そういう小説があって」


 五人が立ち上がった。


 直樹は話しながら歩き、四人はそれぞれの荷物を持ってついてきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。