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鏡淵の調律 外伝 宗一の日記  作者: ちとせ鶫


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第6話 夕奈の夢——家族に落ちた影

 《七海家データ照合後 / 家族の記録》


     * * *


 七海家の血脈データが、Δs値と同期している。

 恵子がそのデータを私に見せた時、私は「有用なデータだ」と思った。


 一秒後に、自分が何を思ったかに気づいた。

 「有用なデータ」——それは、人の体の変化を、計画の材料として見た、ということだ。


     * * *


 その夜、夕奈が夢の話をした。

 「向こうから声が来る夢を見た」と、ぽつりと言った。

 誰に言ったのかも、私に気づいていたのかも、分からなかった。

 朝食の席で、晴斗の方を見ながら言っていた。


 「向こうから声が来る」——

 七海家のデータの「揺らぎへの同期」と、同じことではないか。

 私はその考えが頭に浮かんだ瞬間、また「データ」として処理しようとした。


 夕奈の夢を。

 この家族の、夢を。


 ——処理しようとして、躊躇った。


 「同期する」というのは、夕奈の性質だ。

 境界が揺れると、向こうからの何かを感じ取る——それは設計の通りだ。

 夕奈が「向こうから声が来る」と言うとき、

 それは夢ではなく、反応だ。

 私は、その反応を誘発する仕事を、続けていた。

 「データ」として処理しようとした。

 できなかった——今夜は、できなかった。


     * * *


 晴斗が、夕奈の隣に座った。

 何も言わなかった。ただ、隣に座った。


 私には、それができなかった。

 どこに座ればいいか、分からなかった。

 プロジェクトリーダーとして家族の食卓に座っていた。

 父として座る場所を、失いかけていた。


     * * *


—— 記録


     * * *


> 深夜の走り書き(文字が少し乱れている)


 岳人さんに「娘は大丈夫ですか」と聞かれた。

 恵子が答えられなかった。

 私も、答えられなかった。

 答えられないということが、答えだった。


 私は家族を守るためにここに来た。

 だが——私の仕事が、家族を揺らしている。

 その事実から、もう目を逸らせない。:::

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