表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鏡淵の調律 外伝 宗一の日記  作者: ちとせ鶫


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/8

第5話 恵子と話せなかった夜——夫婦の距離

《事故翌日・深夜 / 家族の記録》


     * * *


 恵子と話そうとした。

 「境界を押すことの危険性について、もう一度整理したい」と言おうとした。

 技術者として話そうとした。

 それが間違いだったと、話し始めた瞬間に分かった。


     * * *


> 恵子は言った。

>

> 「境界は通過するものじゃない。

>  そのことは、最初から分かっていた。

>  あなたも、分かっていたはずでしょう」


     * * *


 私は「科学的根拠がない」と言いかけた。

 言いかけて、やめた。


 恵子の顔が、少し変わった。

「やめてくれてよかった」という顔ではなかった。

「やめる必要もなかった」という顔だった。


     * * *


—— 記録


     * * *


 長い沈黙があった。

 恵子は台所に行って、湯を沸かした。

 お茶を二つ持ってきて、私の前に置いた。

 何も言わなかった。私も言わなかった。


 恵子が言っていたことは、正しかった。

 正しかったが——認めることができなかった。

 認めれば、計画が間違いだったと認めることになる。 

 計画が間違いなら、私がここに家族を連れてきた理由が消える。

 その怖さが、恵子の言葉を遮断していた。


     * * *


> 余白・別日付


 恵子の「安全な通過プロトコル」の研究について、私は詳しく聞いていなかった。

 聞かなかった理由を、今も説明できない。

 聞けば「なぜ今まで聞かなかったのか」と、自分に問われる気がしたのかもしれない。


 夫婦の距離が、広がっていた。

 技術の話をしている間は、距離が見えなかった。

 技術の話をやめた瞬間、距離だけが残った。


 お茶が、冷めた。


     * * *

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ