第3話 帰れない夜——プロジェクトリーダーの仕事
《計画加速期 / 個人日記》
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〔役員会 後の個人メモ/ 深夜・帰宅前〕
| 項目 | 記録 |
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| 役員の言葉 | 「第一次試験の前倒しを検討しろ。他国が先に完成させれば、意味がない」 |
| 私の返答 | 「検討します」と言った。 |
| 本当のこと | 恵子が「まだ早い」と言っているのを、知っている。恵子が「まだ早い」と言う理由の、全てを知っているわけではないことも、知っている。 |
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今日も帰りが遅かった。
晴斗はもう寝ていた。
夕奈と夕莉の部屋の前を通った時、音がしなかった。
静かすぎた。ドアの前で、少し立ち止まった。
何も聞こえない時の方が、私は余計なことを考える。
恵子だけが起きていた。何も言わなかった。私も言わなかった。
晴斗が先週、「最近お父さん、怖い」と言っているのを聞いた。
誰に言っていたのか、聞こえなかった。
夕奈か、夕莉か、あるいは独り言か。
夕奈に言っていたとしたら——と考えた。
夕奈はその言葉を、どう受け取るか。
「怖い」という感情を、あの子はどう処理するのか。
私は知っているようで、知らない。
知っているつもりでいることと、知っていることは——違う。
夕莉に言っていたとしたら——とも考えた。
夕莉は、人の感情の揺らぎを察知する。
それはあの子の性質だと、私は知っている。
「怖い」という感情の変化を、夕莉はおそらく捉えている。
捉えて、記録しているかもしれない——数字か、記号で。
私はそれを「鋭い子だ」と思ってきた。
今夜初めて、「鋭さ」が何から来ているのかを、考えるのが怖かった。
* * *
「怖い」という言葉が、頭から離れない。
怖い父親になるために、鏡淵に来たわけではない。
家族を守るために来た。
でも今の私は——
家族を守っているのか、家族を守るという名目で何かを続けているのか、分からな くなってきた。
「家族のために仕事をする」という言葉が、
いつの間にか——
「仕事のために家族を後回しにする」になっていた。
気づいていた。
気づいていて、止められなかった。
止められない理由は、一つではない。
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> 走り書き(別の日付)
今度の役員会に、行けるかどうか分からない。
「行けるかどうか」という言い方が、すでに嘘だ。
「行きたくない」が正しい。
あの場で何かを「止めるべきだ」と言う力が、もう私には残っていない気がする。
恵子には、まだある。
恵子の言葉の方が、正しい。
分かっていて、私は重さを——どこかに置いてきてしまった。
どこに置いたのか、もう分からない。
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> 走り書き
今夜、恵子の目が少し遠かった。
距離が、じわじわと広がっている。
恵子が私から離れていくのか、私が恵子から離れていくのか——
どちらが先か、もう分からない。
~~明日、話そう~~
明後日、話そう。




