入学式前、寮に入って、話しかけられる ⑤
「魂のままで?」
「そうだよ。わたしね、二年も魂のまま漂ってたんだ」
別に隠すことでもないのでそう答えておく。わたしの言葉を聞いてアル君とネネちゃんは表情を変える。
「ベルちゃん、そうだったの?」
「……俺が、会いに行っていれば良かったかもな」
痛ましげな表情のネネちゃんと、悔やむようなアル君。
確かにアル君がパパと同じように魂が見えるのならばわたしが魂のままの状態でも見つけてくれたかも? でもあれかな、アル君って生きている人のことが見えるだけ? そのあたりって分からないよね。
それにわたしはパパに会わなかったら、こうしてホムンクルスの身体をもらうことも出来なかったわけだもん。
流石のアル君もホムンクルスの身体を作るなんて出来ないだろうしね。
やっぱりパパって凄いよね。わたしの自慢のパパ。わたしはパパに出会えたからこそ、此処にいるんだ。
「あのね、ネネちゃん、アル君。わたしは今、凄く幸せだから、過去のことは気にしなくていいんだよ。確かにパパがわたしを見つけてくれるまでは色んなことを考えたけれども、パパがね、わたしに沢山のことを与えてくれたからもういいんだよ」
きっと二人とも、わたしが消えかけていたって知ったら怒りそうだなと思って言わなかった。
わたしはベルラ・クイシュインとして生きるあの子に対して、悪感情とかは何もない。
だってわたしが身体から追い出されたのは想定外のことだったけれども、それはあの子にとってもそうだったはずだから。
思い返してみると、あの子はわたしの身体に入った当初凄く驚いていたしね。あの頃は何でって気持ちでいっぱいだったけれども、きっと苦労はしていたはず。
「……そう。やっぱりベルちゃんって眩しいね」
「ベルはそういう心意気だからこそ、綺麗なままなんだろうな」
ネネちゃんとアル君にそう言われる。
何だか二人とも、熱っぽい瞳でわたしのことを見ている。ちょっと照れくさい。そこまで言われるほどじゃないと思うんだけどな。
「えっとね、わたしね、そんな風に言われるほど凄くはないからね? 二人ともわたしのことを凄いって綺麗だって、そう言う目で見るけどそういうのじゃないからね? わたしは二人が思っているような存在じゃないとは思うし……。後からネネちゃんとアル君に期待外れだったって思われたら凄く悲しくなるからね?」
うん、二人ともわたしに会いたいって思ってくれていたことは嬉しいし、わたしのことを大好きでいてくれているのは嬉しいよ。
でもね、なんか視線が凄くキラキラしてて、わたしが凄い人みたいな感じに見えるんだよ。
あんまりそういう視線を向けられ続けたら、わたしが実際よりも凄い存在なんだって自惚れそうになるよ!! そんな勘違いするのって結構危ういんだよ?
ベルラ・クイシュインとして生きていた頃のわたしって、無敵だったんだよね。お父様もお母様も、周りの大人たちもわたしのやることを受け入れてくれていて。我儘だからって、大人しくなったあの子の方がいいってそう思われるなんて考えてもなかったもん!
あまりにも二人がわたしのことを大好きって視線向けてくると、何だかその時の状態みたいになりそうだよねなんて考えた。
「私はベルちゃんがベルちゃんであるなら何でもいいから、期待外れなんて思わないよ。寧ろベルちゃんは……幼い私が憧れたベルちゃんのままだよ。というか、もっと素敵になっていると思うもん」
「俺もネネデリアと同意だ。昔のベルよりも、今のベルの魂の方が綺麗だ。そもそもベルが俺達の予想外の行動したとしてもそれはそれだろう。勝手に期待して失望する方が悪い」
ネネちゃんとアル君はばっさりとそう言う。
何だかネネちゃんって凄く可愛い見た目なのにはっきり言うなぁ。それにアル君も思いっきりが良いというかなんというか、少し嫌そうな表情なのを見るにアル君って結構勝手に期待されて失望とかされているのかな?
「ネネちゃんもアル君もありがとう」
それにしてもアル君、どういうことで嫌な思いしているんだろうか? 何かあった時に相談してもらえるようにはしたいな。
「そういえば二人は、ベルラ・クイシュインとして生きているあの子とは関わっているの?」
そう何気なく聞いた。
だってあの子も、アル君たちも同じ貴族だしね。どうなんだろうな? と思って聞いただけだった。
「……必要最低限だけ。こんなことをいったらベルちゃんを困らせてしまうかもしれないけれど、私はあの子のこと、好きじゃないから」
「俺も苦手だ。大人が無理して子供のふりをしていて、歪で、見ていて気持ち悪い……」
そんなことを二人に言われて、わたしは驚いた。
わたしが魂で漂っていた頃のあの子は、周りの人たち皆に好かれていたんだけどな。勝手にわたしはあの子は皆に好かれていると思っていた。
うん、本当に勝手にわたしより皆、あの子の方がいいんだろうなって思っていた。
……もしかしたら、わたし、拗ねてたのかな。やっぱりちょっと考えると恥ずかしいかも。




