入学式前、寮に入って、話しかけられる ③
アル君はヨネダウス先生という方の研究室でお手伝いをしているらしい。いつでも使っていい許可ももらっているんだって。
凄く優秀なんだろうな、凄い。
昔のアル君ってどうだったかな。昔過ぎてそこまで覚えていない。アル君とその妹であるネネデリアとは少なからず交友はあったけれど、此処まで探していてくれていたとは全く思ってもいなかった。
わたし、魂で漂っていた間に、あの子の方が良かったという家族や使用人の声ばかりを聞いてきていた。だから誰もわたしのことを気にしていないだんだろうなって勝手に思っていた。
ちょっと恥ずかしい。
だってそれってわたしの思い込みでしかなかったんだもん。身体から追い出されて、パパに出会うまでの間のこと、思ったよりもわたしにとって気にしてしまっていたのかもって反省した。
わたし、アル君とネネデリアに会いに行こうと思えば行けたのに、行かなかったから。
しろうとはしなかったことは申し訳ないって本当に思った。それにしても今の時期って、まだ学園が本格的に始まる前だけど、生徒達が完全にいないわけではない。
その人たちはちらちらわたしを見ていたりもする。やっぱりわたしが可愛いからかな?
そんなことを考えながら、わたしは研究室をノックした。扉が開いたと同時に
「ベルラさ――」
「ちょっと待て。いきなり、飛びつくな」
可愛らしい少女の声が聞こえてくる。そしてアル君に抑えられていた。もしかして、わたし飛びつかれようとしていた?
明るい茶髪の、肩ぐらいまで伸びたふんわりとした髪の少女――ネネデリアはわたしよりも少し小柄だ。わたしと目が合うとキラキラした目を向けられる。
可愛いなぁと思って、わたしもにこにこしてしまう。
「ベルラ様、すまない。ネネデリアはあなたに会えてはしゃいでいる。とりあえず中へ」
アル君から申し訳なさそうな顔でそう言われる。
わたしは言われるがままに中に入った。それからアル君とネネデリアに許可をもらって、魔法を使う。
この場の情報が外には漏れないようにしておいた。魔法を使うわたしをアル君は感心した様子で、ネネデリアはにこにこしながら見ていた。この二人って、性格あまり似ていないけれど仲良しなんだな。
こういう仲が良い兄妹を見ていると、自然と笑顔になっちゃうね。
先生の研究室、本人は居なくてもアル君は鍵をもらっているので使って問題ないらしい。
奥の方に話をするための部屋があったので、そこに腰かける。ネネデリアは私の隣に座りたがっていたけれど、アル君に止められ、その隣に座っていた。ネネデリアは「もうっ、アル兄様ってば!」と可愛らしく文句を言っていた。
「改めまして、ベルラ様! またお会いできてうれしいです! ネネデリア・オーカスですわ! ベルラ様と一緒に学園生活が送れるなんて、幸福です!」
「ええっと? ありがとう。ネネデリア、わたしのことはベルラじゃなくて、ベルレナって呼んでね。アル君もだよ。それと敬語もなしで。わたし、平民として此処にいるから」
あまりにも嬉しそうな様子のネネデリアに戸惑う。かと思えば、わたしの言葉を聞いて、ネネデリアはぎろりっとアル君を睨みつけた。
「なーんーで!! アル兄様だけ、アル君呼びされているの? ずるーい!! 私だってベルラ様からあだ名で呼ばれたいー!!」
そう言いながらアル君を揺さぶるネネデリア。思わずその様子を見ていて笑っちゃう。
「ふふっ、ネネデリア。じゃあ、ネネちゃんって呼ばせてもらってもいい?」
「もちろん!! えっと、じゃあ、ベルラ様は今、ベルレナって名前だからベルちゃんって呼んでもいい??」
ネネデリア――ネネちゃんはそう言って、わたしの方へと視線を向ける。満面の笑みだ。本当に心からわたしのことを大切に思ってくれていることが分かる。こうやって好かれるのは嬉しい限りね。
「うん、いいよ」
「やったー!! ほら、アル兄様羨ましいでしょ?」
ドヤ顔でアル君を見るネネちゃん。アル君は呆れたような顔をネネちゃんに向けてから私の方を見る。
「俺も、ベルと呼んでも?」
ちゃん付けは流石に恥ずかしかったのだろう。そう言いながらわたしの方を見るアル君にわたしは大きく頷いた。
アル君も嬉しそうにしている。うん、結構アル君ってやっぱり分かりやすいのかも。
「ところでなんでわたしのことを探していたの? 会いたいって思っていてくれていることは嬉しいけれど、わたしたちそこまで交流があったわけじゃないよね?」
わたしは一先ず疑問を口にする。
「それは……ベルが、見たことないぐらい綺麗だったから」
ん? なんか突然、予想外の言葉を言われたよ? 不思議に思ってアル君を見ているとつけられる。
「俺は……昔から人の魂とか、感情とか見えたんだ。ベルはベルラ・クイシュインとして生きていた頃から、真っすぐで何色にも染まらない色だった」
うん? 口説かれている? と一瞬思った。
「そして、今のベルは……その強烈な赤が鳴りを潜めてはいるけれど、凄く綺麗で、ずっと見ていたくなる。濁った色の人は沢山いるから、見ていてほっとする」
いや、違いそう。アル君、恥ずかしがるとかそういうことは一切なくて、多分、本音を口にしているだけだろうな。
「アル兄様だけ見えるのずるいよね! もう、でも見ているだけでベルちゃんは凄く綺麗だよね。わたし、ベルラ様だった頃のベルちゃんがね、真っすぐではっきりしていてかっこいいなって思っていたの。だからね、あの人がベルちゃんとは全然違う振る舞いしてて嫌だなって思ったの。それでアル兄様から中身が違うと言われてベルちゃんに会いたいなって思っていたの」
ネネちゃんはそう言って嬉しそうに笑っている。
「そうなんだ。ありがとう、ネネちゃん」
「ベルちゃん可愛い!!」
わたしが笑うと、ネネちゃんは笑っている。
それから、ネネちゃんは付け加えるように続けた。
「それとね、私もベルちゃんと同じ目にあったの」
ネネちゃんの言葉にわたしは目を見開いた。




