入学式前、寮に入って、話しかけられる ②
5/2 二話目
わたしは流石に、そんなことを言われると思っていなかった。
アルバーノは、わたしがベルラ・クイシュインだったことを知っている? どうして? そしてなんで、縋るような目でわたしのことを見ているの? その目には一切の悪感情はない。
寧ろ――、わたしがベルラ・クイシュインであることを望んでいるかのようだった。
「すまない。こんな――」
アルバーノはわたしが黙り込んだことで勘違いをしたようだ。悲しそうな顔のアルバーノを見て、わたしは慌てて口を開く。
「覚えているわよ、アルバーノ」
そう言ったら、アルバーノが泣き出しそうな顔をしてわたしはびっくりする。
「本当に、ベルラ様だ……!」
「え、えっと? わたしは確かに……ずっと昔、今よりもうんと小さい頃はそうだったけれど、今は違います。それにどうしてそれを知っているの?」
相手は貴族の息子だからなるべく丁寧にはなさそうと思っていたのだけど、わたしもアルバーノがわたしがベルラ・クイシュインだった頃を知って動揺してしまってちぐはぐになってしまった。
「……っ」
「って、アルバーノ!? な、泣かないで?」
感涙極まった様子で静かに泣きだしてしまったアルバーノを見て、困惑する。年上の男の子に泣かれるなんてなかなかない。
というか、アルバーノって泣くんだ……。昔のことはもうぼんやりとしか覚えていない面もあるけれど、こんな風に泣くとは思っていなかった。
というかわたし、自分がベルラ・クイシュインだったって言ってしまったな。
こういう事情を伝える人は考えないといけないと思っていたのに。でもなんというか、何処までも必死で、泣き出しそうなアルバーノを見ていたら……知らないふりはできなかった。
「えっと、アルバーノ、ほら、涙拭いて?」
わたしはそう言ってポケットに入れていたハンカチを取り出す。アルバーノはわたしよりも二歳年上で、背も高い。背伸びをして、涙をぬぐう。
そしたらアルバーノは驚いた顔のまま、だけど次の瞬間には笑った。
綺麗な笑顔だなぁ。凄く嬉しそう。わたしに会えて嬉しいと思ってくれているのかな。多分、そうだよね。
この涙って、悲しいからのものではないと思うの。寧ろ、わたしと会えたから喜んで泣いたのかな。
わたし、ベルラ・クイシュインだった頃はアルバーノとは交友を持っていたけれどもそこまで仲良しってわけではなかったと思う。それなのに、こんなにわたしに会いたいと思ってくれていたんだな。
そう思うと、少し申し訳ない気持ちになった。
ベルラ・クイシュインだったころのわたしのことなんて、誰も気にしていないと思っていた。あの子のことを特別に思う人たちばかりを、身体を追い出されて漂っていた頃に見続けていたから。
今も、あの子じゃなくて、わたしに会いたがっている人が居るなんて想像もしていなかった。
「アルバーノ、ごめんね? わたしに、会いたがっていたんだよね?」
「……はい。会いたかった、です」
頷かれて、わたしは思わずよしよしと頭を撫でる。はっ、年上の男の子を撫でてしまった!!
わたしははっとするけれど、アルバーノは嫌がっていなかったのでそのまま撫でた。凄くさらさらの髪だった。
「そっか。わたしもアルバーノにまた会えて嬉しい。このまま此処居たら、目立っちゃうかもしれないから、話すのは別の場所でしよう? それと、アルバーノは先輩だから、先輩って呼ぶね? あと敬語の方がやっぱりいいよね。今のわたし、平民だし」
「先輩呼びじゃなくていいです。あと、敬語も嫌です」
「んーとじゃあ……」
呼び捨てはそれはそれで変な感じだよね、となるとも少し呼び捨て以外の方向にしようかな。
「じゃあ、アル君って呼ぶね?」
そう言ったらアル君は頷いた。何だか凄く嬉しそうだなぁ。
こんなにも嬉しそうな表情をしていると、わたしも嬉しくてにこにこしてしまう。
「あとアル君も、わたしには敬語駄目だよ? わたし、平民の下級生だからね? 貴族の息子のアル君がわたしに敬語だとおかしいからね?」
「そうですね……って違う、そうだな」
「うん。それでよろしく。アル君はゆっくりお話を出来る場所知っている? わたしもアル君に聞きたいこととかあるから」
わたしがそう言ったらアル君は頷いて、ゆっくり話せる場所を教えてくれる。
わたしはその場所を聞いて、ちょっとやることをやってから向かうってアル君に言った。
「妹も連れて行っていいか?」
アル君にはそうも言われた。どうやら妹のネネデリアも私に会いたいみたい。それとベルラ様呼びはやめるようにも言っておいた。呼び方はこれから考えるらしい。
学園長の元へ行って、魔法を使う許可をもらう。周りに聞こえないようにして話さなきゃいけないし。それにパパとママに常に手紙を送れるようにしているからさらっと報告を書いた。
それが終えてからわたしはアル君の待つヨネダウス先生の研究室に向かった。




