幕間 身体を奪ったあの子 ⑫
4/14 二話目
学園の入学式が迫っていて、私、ベルラ・クイシュインは緊張してならない。だって、乙女ゲームの舞台に私は足を踏み入れるのだもの。
高等部になってから、乙女ゲームの時間軸は始まる。だから、まだ幾らでも時間はある。それでも不安になってしまうのだ。
――あのゲームでは、ベルラ・クイシュインは悪役令嬢だったから。
私は悪役になりたくもないし、断罪もされたくない。ガトッシ殿下と今後も結婚出来るように全力を尽くさないといけない。
――でももし、強制力が働いたらどうしよう。私が知らないうちに、私が悪役令嬢として広まってしまったり、行動が誤解されたりしてしまったら……。
私は元のベルラ・クイシュインとは違って、人に迷惑なんてかけていないのだから本来ならそんなことが起こり得るはずがないのに。それでももし私が悪い存在のように広まるのならば、きっと強制力が働いているからに他ならないわよね。
少しだけその兆候はあるというか、問題が起こっていないわけじゃない。
私が使い魔契約をしたことで、多くの貴族の子供が使い魔を持とうとした行動でちょっとした悪いことが起こっているらしいって私は聞いてしまったのだ。これまでお父様達が私の耳に入らないようにって気遣いをしてくれていたらしい。
……使い魔が逃げ出す事件がおきたり、使い魔需要が起きたからって無理に魔物を捕まえたり、悪いことを起こしている人は少なからずいるんだとか。信じられないことだわ!!
正直言って凄くショックだった。
私に憧れたからって使い魔を持って、それでお世話が出来なかったりしたんだって聞いたわ。
お世話をきちんと出来ないのならば命を預かるなんてすべきではないもの。流石にそんなことをした貴族の子供のことは軽蔑してしまった。
亡くなってしまった子もいるらしいと聞いて、私はピーコにとって良い契約主であれているなとほっとした。だってピーコはきちんと世話をされて、戦闘以外の時間は自由に過ごせるんだもの。
私は良い契約主を出来ていると思っているし、お兄様達や侍女達だって私は立派だって言ってくださる。それなのにやっぱりピーコって私に懐いてくれないの。そのことが悲しくて、時折周りに相談をする。
ピーコは私の言うことをよく聞いてくれているけれど、どうしてこんなによくしているのに私に懐かないのかしらね。
それにしてもそう、私が使い魔を持った結果、他の貴族の子供が使い魔を持ち、問題が起きていることを私のせいだっていう人もいるの。それって強制力なのかしら。私が乙女ゲームとは違う行動を起こして、ゲームの彼女のような行動をしないようにって必死なのに、それでもそんな悪い噂が立ってしまうなんて……。
「ねぇ、セイデ。もしかしたら乙女ゲームの強制力かもしれないわ。学園入学前にこうなんて入学したらどうなるのかしら……!」
セイデには乙女ゲームのことも話してあるので、不安な気持ちはよく彼女に零している。
「ベルラ様、何も心配する必要はないと思います。それに強制力のようなものではなく、実際に問題が起こっているので、そう言う噂が立ってしまうのはある意味仕方がないかと」
「もうセイデってば、私が悪いっていうの? 私はこれからのフラグを折るためにも戦う力を求めただけだわ」
「いえ、ベルラ様が悪いとは言っておりません。ただ心配するような強制力とは違うと思っております」
「セイデはそう言うけれど……乙女ゲームのベルラ・クイシュインのように、皆に嫌われるなんて嫌だわ! ガトッシ殿下から婚約破棄をされてしまったりするのよ。私は……ガトッシ殿下のことをお慕いしているから、そんなの嫌だわ」
「ベルラ様は本当に、ガトッシ殿下のことがお好きですね」
「当たり前よ。だって前世からずっと大好きだったのだもの! 悪役令嬢であるベルラ・クイシュインになった当初は絶望したけれども、ガトッシ殿下の婚約者になったことは幸いだったわ。それにまだ手遅れになる前だったことも……!! 既にベルラ・クイシュインがやらかした後だったら取り返しがつかなかったもの」
こうして乙女ゲームのことを誰かに語れると、少しずつ不安が解消される。
私はベルラ・クイシュインとして転生したころからずっと、乙女ゲームの時期が来ることが不安で仕方がないのだ。
婚約破棄や国外追放なんてとてもじゃないけれどされたくない!
これまで積み重ねてきたものが強制力なんてふざけたものを理由に全て手放さなければならないなんて冗談じゃない。
ガトッシ殿下のことは誰にも渡したくない。
そのためにも他の乙女ゲームの登場人物たちとも交友を深めているのだ。
もし何らかの強制力が起きた時に、味方になってくれる人が増えるように。何にしても仲が悪いよりは、仲良くしている方がずっといいものね。
私はガトッシ殿下一筋だけれども、他の攻略対象の男性陣もそれはもう素敵に成長しているわ。
皆、とても優しいの。
私が事前にトラウマを回避したりしていたのもあって、性格が一部変わっているけれども悪い方向に行くよりはずっといいものね。
「私は乙女ゲームのベルラ・クイシュインのように誰もに見捨てられる存在なんかにはならないの! そのために、入学してからもよろしくね、セイデ」
「……はい。ベルラ様」
私は一通り、セイデと話してすっきりした。この後はやることがあるので、セイデをおいてその場を後にする。
――私は残されたセイデが、どんな顔をしていたかなんて全く気にもとめていなかった。




