夏が来て、パパとママと遊びに出かける ⑤
女性は驚いた様子の後、恥ずかしそうだ。子供であるわたしに泣いた姿を見られたのが嫌だったんだろう。でも泣いている人を放っておくことなんて出来なかった。
「だ、大丈夫よ。子供に酷い姿を見せてしまったわね」
そう口にする女性は、泣き顔も綺麗な人だった。綺麗な水色の髪がキラキラしている。
空のようだ。
泣いていたのもあり、少し服装は乱れているけれどそれでも上品なものを着ているのは分かる。平民ではないだろうなとは思った。
「大丈夫じゃないでしょ。泣いているお姉さんをわたしは放っておけないよ。わたし、子供だけどお話を聞くことぐらいは出来るよ?」
わたしがそう言ったら、女性は泣き出しそうな顔をする。
多分、泣くのを我慢していたんだろうな。わたしは「嫌だったら、のけてね?」といって、お姉さんの頭に手を伸ばして撫でる。
大人相手に頭を撫でるなんて嫌がられるかもしれないと思った。けれど、慰めるために、撫でたいなと思った。
女性の髪はとてもさらさらで、いつまでも撫でたくなるぐらい。わたしもパパやママに頭を撫でられるのが好きだけど、こういう風に楽しい気持ちに二人もなっているんだろうな。
「……た」
「え?」
「……振られたの」
そんな答えが返ってきて驚く。
大人の女性がこれだけ悲しそうに泣いているなら、もっと違う理由かと思っていた。でも誰かに恋をして、その恋が破れて泣いているっていうことはそれだけその人のことが大好きだったんだろうなとは思った。
「そうなんだ……。振られたって、別れようって言われたの?」
そう言いながら、想像してみて胸が苦しくなる。わたしは恋人が出来たことはないけれど、大好きだなと思って、ずっと一緒に居たい人から別れようなんて言われたら凄く悲しい。
家族だったら、ちょっとした衝突があっても結局繋がりがあって、絆はそこで終わりじゃない。それでも恋人同士って元は他人なんだよね。
だから別れることになったら、そのまま一生会わないなんてこともきっとある。
そう考えると、恋をするって凄く力がいることで、それが敗れた時は皆悲しいんだろうな。でも人の心って結局他人がどうにか出来るものでもないから、こうして落ち込む人もきっといる。
うん、わたしがもし恋をした時は、全力でぶつかろう。後から後悔なんてしないように。
何かのきっかけで仲違いするなんてのも嫌かも。別れるなら穏便にの方がきっといい。
わたしの言葉を聞いて、女性はふるふると首を横に振った。
……別れようと言われてないのに振られたってどういうことなんだろう? ちょっとわたしにはよく分からなかった。
「えっと、別れようって言われてないなら、別れていないんじゃないの?」
だってそう言う言葉がなければ、明確には恋人のままな気がする。例えば自然消滅したとしても、互いが別れたと認識していなかったらそのままだろうし。
そうなると目の前の女性はまだ別れていないのでは? なんてそんなことを思ってしまう。
あれなのかな、お姉さんは恋人のことが好きすぎて、別れる別れないなどという話が出る前に何かあって飛び出してしまったってことなのだろうか……。
それだけ好かれているなんてこの人の恋人はとても幸せ者なんだろうなと思った。
だってこれだけ必死になるのは、それだけそこに大きな気持ちがあるからだと思う。どうでもいい相手と別れるかもしれないって、こうして泣いたりなんてしない。
「……そう、かしら」
「何があったの?」
お姉さんに聞いてみる。もしかしたら何らかの誤解があって、こんな状況なのかもしれないと思ったから。
「……私が家に行った時に、親しそうにしている女性が居たの。密着していて、明らかに恋人同士っていう感じで」
「えっと、それで?」
正直、それだけで振られたに直結する意味がよく分からなくて首をかしげてしまう。家に女性を連れ込んでいたのは確かなことみたい。それに親しくしていたことも。
だけどそれは決定的なことではなくて、もしかしたら誤解だってあるかもしれない。
「同じ職場なのだけど……その様子を見て耐えられなくて、休暇届を出して飛び出してしまったの……。すぐに会うのが辛くて。最近、彼との時間がなかなか取れなくて、心が離れて行っている感覚はあって……だから女性と親しくしていたことが決定打で……。このまま職場もやめてしまおうかしら」
「あれ? それはちょっと前の話なの?」
「ええ。そうよ。あれから少し時間が経っているわ。でも思い出したら辛くてっ」
女性はそう言ってさめざめと泣いている。
直近の出来事ではなく、思い出しただけで泣いているって凄く大好きなんだろうなって思った。
でもやっぱり話を聞いていたら、逃げるんじゃなくてちゃんと会話を交わした方が良さそうな気がする。
「その時、恋人さんはどんな反応をしていたの?」
「えっと、焦っていたようには思えるわ。待ってくれと言われたけれど、逃げ出しちゃって」
「うーん、一回話した方がいい気がするなぁ」
改めて振られてしまったらとか色々と考えているのだろうけれど、ちゃんと話した方がいい気がする。




