8-5 ラストヒロイン?
リブルバック国の首都サラブリナ、その城内は騒然としていた。
「――ちょ、待て、ぐあっ!」
衛兵が壁に叩きつけられる、だたし命までは落としていない。
通路の至る所に気絶した衛兵が横たわっている。
謁見の間の扉が蹴られ勢いよく開く。
「久しいなリブルバックの王よ、まだ生きてたか……オマエ老けたな」
ずかずかと進入してきたのは竜姫ネディラ。
それと従者の竜人族十名。
「キサマは竜人族の姫! 何しに来た!」
彼らの裏からエダフとガット達が現れる。
前回の謁見では冷静な態度でエダフを威圧していた王が、腰を浮かせ驚いている。
「お主らは……そうか」
「愚王でも理解しただろう? 我ら竜人族はラガレームとブールジュ国の二国同盟に協力する、もし敵対する気ならば我が一族がリブルバック国を灰燼に帰してやろう」
「ぐっ……」、眉間にしわを寄せ怒りを堪えている。
「聞いておるぞ、この者らに言ったそうだな『次に会うときは降伏か戦争の二択だ』と。ならば我も言おう、愚王よキサマに許される返事は絶滅か同盟の二択だとな、クックックック」
竜姫ネディラは楽しそうに王を煽っている。
「王よ、我々はリブルバック国に危害を加えるつもりはありません、どうか二国との同盟、考えては頂けないでしょうか」
エダフは立て膝となり頭を下げてお願いする。
「よく言うわ、竜人族を山から出しただけで十分な害よ、大人しく引き下がったと思えばこのような……。もっと早く潰しておくべきだったわ」
「二択だと言った筈だ、その言葉は絶滅を選択したと受け取って良いのだな」
「いや! わかった同盟受け入れよう。決して竜人族に負ける気は無い! だが疲弊した所を二国に攻められれば滅ぶのは必至……」
「始めからそう申せ、時間の無駄じゃ」
鼻から息をフッと吐き出し雑魚を見る目を王へと向ける竜姫ネディラだった。
「ありがとうございます、王よ」、エダフが再び頭を下げた。
そんなエダフを見ながら、
「買い被りか……。甘く見たわしの落ち度だな。二国には使いを出す、返事があるまでゆっくりと滞在するが良いわ」と言い、力の抜けた王は、玉座に深く腰を落としたのだった。
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リブルバック国の平民層にある酒場で夕食を楽しむ一行。
「しっかし驚いたよ、まさか竜の姫を連れてくるなんてな、流石はエダフさんだ」
ルーベルガはほろ酔い状態だった。
彼の隣に座るエダフも仕事が一段落したので気持ちよく酔っていた。
「いや、これはガットのおかげですよ」
「おうおう聞いたぜ、いつの間にか王になったんだってな」
「オマエら我が王に軽々しく接するでないわ」
テーブルを挟みガットの正面に座る竜姫ネディラ。
「誰が我が王だ、それは断っただろ」
「ガット様の頑固さには困ったものよ……じゃが我は次の手を考えたのじゃ」
「何だよ」
「ガット様と我が、子をつくり王に育てれば良いのじゃ、な、名案じゃろ?」
その話を聞いていた全員がブドウ酒を吹き出す。
ガットを挟んで座っていたソフィーとトニエが立ち上がり、
「何を勝手なこと言ってんのよ!」、
「そうですよ! 後から割り込んできて順番を守りなさいよ!」、と文句を言う。
「ほほぅ、ガット様はモテモテじゃな、強い雄はそうでなくては困る、うむ、改めて見直したぞ! で我は何日後だ?」
また全員がブドウ酒を吹き出す。
「ななな、日にちなんて決まってませんよ!」
耳まで真っ赤にするトニエ。
「何を呑気な娘たちじゃのう、竜人族は成長が遅いでな、のんびりしておると子が生まれる前にガット様の寿命が尽きてしまうわ」
ヤレヤレという顔をする竜姫ネディラ。
「竜人族の生態は謎が多いですが、そもそも人間との間に子を設けるのは可能なのですか?」と、エダフが問う。
「我が山に迷い込んだ人間は意外と多いのじゃ……理由は様々じゃがの。人の娘も竜人の娘も孕めるぞ。生まれてくる子は、どちらの腹からも竜人が生まれた。ハーフにはならぬよ」
「なるほど、そうすると分類上は獣人なのですね……興味深い」
「今晩にでもどうじゃ? ん? ん?」、再びガットに迫る竜姫。
「断る! 俺は先に休ませてもらう」
これ以上、この場にいると何を言われるかわかったものではないと感じたガットは、早々と酒場を後にしたのだった。
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夜の町を城へ向かって歩くガット。
王都だけあって夜でも家の明かりが道を照らしていた。
ガットは誰も尾行していないか注意深く意識を集中させている。
「それで……王子は竜姫の誘いを断り、リブルバックの王女に手を出すのか……」、腰に差してある爺が話しかけてくる。
「人聞きの悪いことを言うなよ」
「違うのか?」
「……間違えては無いが」
「王子はアレか、追うのは好きじゃが追われるのは苦手かのう?」
「……ああ確かにそうかも。押しの強い女性は苦手なようだ」
「不憫な娘たちじゃのう」
鉤縄を使い、平民層と富裕層の間にある城壁をよじ登る。
スニーキングミッションを何度も繰り返したことでガットの潜入スキルも上達していた。
富裕層ではガットの質素な姿は目立つ。屋根の上を静かに移動して行く。
城を囲む城壁前に到着したガット。
城壁の周りは掘りになっており水で満たされている、門は跳ね橋で上がっている状態だった。
「これは無理じゃろう、引き返すか?」と、爺が言う。
「いや、困難なほど燃えるね」と、笑っている。
「こんな所は子供じゃのう」
ガットは人目につかない路地裏へ入ると召喚扉を開く。
暗黒の渦から幻馬が現れると睡眠の霧を発生させた。
霧が充満したのを見計らい幻馬を渦の中へ戻すと、霧の効果が消える前に鉤縄を使い、城壁を越えたのだった。
「また一部屋ずつ見て回るのか?」
「いや、前回は先に全員寝かせたのが敗因だった、今回は先に居場所を聞くよ」
懐から黒い布を取り出すと顔に巻き覆面にする。いわゆる忍者かむりだ。
城の周囲を偵察し開いている窓を見つけると人の気配が無いのを確認して潜入した。
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恐らく使用人の部屋だろう、明かりは灯っているが宿主がいない。
ガットが入り口の扉に近づくと、部屋の外から向かってくる気配を感じた。
壁に張り付き気配を消す。
扉が開きメイドが部屋に入ってきた。
ガットは背後から忍び寄り口を押さえる。
しかし、手首を掴まれると、そのまま前に投げ飛ばされた。
受け身を取り振り返る。
何事と面を食らうガットに機関銃のような連続攻撃が繰り出される。
正拳突きのように急所を狙ってくる手刀。
スカートによって出所が見え難い蹴りが、横から上から不規則な軌道を描き襲ってくる。
おっとりとした幼い顔のメイドが無表情のまま苛烈な攻撃でガットを圧倒する。
「【加速】っ!」
「【加速】……」
ガットとメイドがほぼ同時に呟いた。
同じ祝福持ちに初めて遭遇する二人。
驚く暇もなく両者の攻撃は加速しづつけている。
拮抗する両者の身体能力、致命傷を与えることができず持久戦にもつれこんだ。
無酸素運動が続けられる。そこからは我慢比べであった。
「くはっ!」
暫く続いた攻防戦に決着の時が訪れた。
酸欠状態の末、先にスタミナが切れたのはメイドであった。
耐えきれず息を吸い込んだ所をガットの掌底打ちが彼女のみぞおちに当たる。
胸を押さえて前のめりに倒れ込むメイド。
ガットも限界ギリギリである。
素早く彼女に近寄ると覆面を外し唇を奪う。
辛うじて洗脳したが、そのまま彼も意識を失ってしまった。
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窓から朝の日差しが入り部屋を明るく照らしている。
外では鳥がチュンチュンと鳴いていた。
ガットは衣服を直し窓から部屋を出る。
「王子よ……」
「……言うな」
王女の籠絡作戦は失敗に終わった。
まあ、翌日の再チャレンジで成功させたのだが。




