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8-3 顔に出やすい子

平民層にある酒場では残念会が開かれていた。

五十名になる一行が一度に入れる酒場も宿屋も存在しない。ラガレームとブールジュから同伴している騎士は別々の宿に泊まっている。

この酒場には、閃光の獅子だけが集まっていた。


この地方の料理がテーブルに所狭しと並んでいる、それを酒の肴に今後の検討が話し合われていた。


肉が付いていた骨をかじりながらルーベルガが話す。

「ふぃー、はなっから聞く耳持ってねーじゃねえか。流石は大国の王だよ」


「いやはや参りましたね、あそこまでハッキリと背後を襲うと言い切るとは、説得のしようがありませんよ」

ぶどう酒で喉を潤しながら答えるエダフ。


「どうしますか? このままだと人間同士で戦争になりますよ」

骨付き肉を片手に質問するケイン。


「付け入る隙はあるんですけどね……」

木でできたコップを両手で包み、自信なさげに呟くエダフ。


「ほぅ、勿体振らねえで聞かせてくださいよ」

ルーベルガが話しに食いつく。


「ブールジュとの国交を絶ったのが十年前と言っていました、その頃、リブルバック国は大敗したはずなのですよ」


「へぇそれは初耳だ」


「私は元々この国の出身ですからね、研究のためトラスダンへ移り住んだのです。たしかその頃の話しでしたよ」


「だがラガレームとブールジュ国、どちらも傭兵の募集は無かった筈だが」

首をかしげ過去を思い出そうとする。


「ええ戦いを仕掛けた先が、そのどちらでもない国だからです」


「残るはアスコンカ国だが、それこそ無いだろ? 南西の果ての国だ、もし戦をしたならラガレーム国を横断したことになる」


「ええ相手は、ラガレーム、ブールジュ、リブルバック、この三国の中央に位置する山、そこに住む竜人族ドラゴニュートの国なのです」


「ああ! 話しだけは聞いたことがある。この大陸でその山にしか住まない種族だろ、エルフより希少種じゃないか?」


「人里へ降りた話しは聞きません。この国はそこへ戦をしかけ壊滅、その事実を情報統制し十年間静かに力を蓄えていたのですよ」


「なるほどな、どおりで戦争しなくなったわけだ……読めたぜエダフの旦那。その種族を味方につけるんだろ?」、ニヤリと笑う。


「この国と同等の力を持つ種族なのです、それに生態は謎だらけ……正直言って賭にもならないかと」、そう言ってエダフは深いため息をつく。


スプーンでスープをすくいながらガットが呟く。

「俺達はいつだってダメ元で戦ってきたじゃないか、何を今さら」


「私たちは同盟の使者ですが無理だったと伝えて静観するのも一つの道だと思います」


「それで戦争になって大勢の人が傷つくんですか……」

悲しそうな顔をするハスエル。


「ハスエル……」

何とも言えない複雑な表情のケイン。


「戦争が始まるのを知っているのは世界中で私たちだけ、止めたいと思っている人が大勢いるかも知れない、でもその人たちに知らせる方法が無い、なら私たちが止めないとダメじゃないのかな」


「ハスエル、その通りだと思いますよ、でもね、その止める手立てが無いと――」


「エダフの旦那! その竜人族ドラゴニュートは話し通じるんだろ? ならまずは会って話しをしてみようや」と言いながら、彼の背を軽く叩くルーベルガ。


「もし人間なんて頭からペロッと食べる種族だったら……」と、物騒な予想をするトニエ。


「その時は、ほら、まあ、運が悪かったと」

何のフォローにもならない言葉を発するルーベルガ。


「そんな簡単に……」、さらに深いため息をつくエダフ。


「俺達は傭兵だ、もし戦争になればどこかの国に加わり戦う、そこで死ぬのも、竜人族ドラゴニュートに食われるのも大差ないさ」


ルーベルガの押しに負けたエダフは、

「……わかりました。大勢で行けば相手を刺激します、交渉する最低限の人数で行きましょう」と返事をする。


そして、皆に聞こえないほどの小さな声で、

「犠牲は少ないほうがいいですから……」と呟いた。


―・―・―・―・―・―・―・―・―・―12


検討会の結果から竜人族ドラゴニュートの山へ向かうのは少人数に絞られた。

相手を刺激しないよう閃光の獅子と騎士はサラブリナで留守番となる、よって選抜されたのはトラスダン組とガットのストーカー達だった。


幌馬車が一台、山を登る。

ガットが御者で、その隣にトニエが座っている。

中にはエダフ、ケイン、ハスエル、ソフィー、フェルネが座っていた。


緑の多き山、少しずつ山頂に向かうにつれて木々が減少し、頂上は岩肌が見えている。

リブルバック国が遠征のために切り開いたのだろう、草が生い茂っているが馬車が通れる道が残っていた。


竜人族ドラゴニュートはどのような種族なんですか?」と、ハスエルがエダフに聞いた。


「極端に人間との接触を避けているため、その生態は不明です。噂話の域から出ませんが大陸中の全種族と比べても一二を争う強さだとか。寿命はおよそ人間の三倍、エルフのように成長が止まるのではなく、成長が遅いのが特徴らしいです」


「へぇー珍しい種族だねー」、ソフィーが呟く。


「アンタの方がよっぽと珍しいよデカ女」と、フェルネがツッコミを入れる。


「そお言うアンタもねチビ娘」


そんな二人の小競り合いなど気にも留めないトニエが干し肉を千切って、

「はい、あーん」と、ガットに食べさせている。


「おいそこ! なにイチャイチャしてるんだ!」と、キレるフェルネ。


「はい、イチャイチャしてますよー。竜人ドラゴニュートにパクッと食べられるかも知れませんからね。いは残さないようにしないと」


振り返り、悪戯いたずらっぽく笑みを浮かべるトニエ、その意図を察したのかソフィーもガットに近づき餌付けを開始する。


「そうよねー、いは残しちゃダメよねー」


「ぐぎぎ……」、耳を真っ赤にしながら耐えるフェルネ。


「アンタもする?」と、挑発するソフィー。


「やらねーよ!」、ぷいっと反対を向いてしまった。


そんな彼女を見てソフィーとトニエがクスクス笑う。


い……」、ケインが独り言を呟く。


ヤレヤレという顔をしながら馬車を先へ進めるガットだった。


―・―・―・―・―・―・―・―・―・―13


本棚に綺麗に並ぶ本、重くて丈夫そうな机、その造りから書斎もしくは執務室と考えられる。

高そうな調度品、刺繍ししゅうがあしらわれたカーテン等から、高貴な人物が所有する一室と思われる。


ドアが軽くノックされ入室を許された男が、

「アルベリク様、例の王子とおぼしき男の情報が入りました」と、告げる。


アルベリクと呼ばれた男、金髪のショートヘア、ブルーの瞳、年齢はまだ三十前だろう。

椅子にゆったりと座りながら報告を聞く。


「モンフォワでの戦闘に参加したようです」


「オルレーゾの次はモンフォワか……なかなか楽しませてくれる。して今は?」


「リブルバック国の首都サラブリナへ向かったとの報告です」


「ほう、よく動くな……移動の理由は? 確か傭兵だったな、行き先は戦地ではあるまい?」


「申し訳ありません、そこまでは掴んでおりません」


「オルレーゾ……モンフォワ……同盟の使者か?」


「まさか、一介の傭兵がそのような」


「一応は王族の端くれ、潜在能力が高くても不思議ではない」


「いかがなさいますか?」


「餌を撒いておくか。……モンブローに潜伏している者がいたな」

そう言うと羽ペンを取り書類を書き始めた。


モンブローはアルトリッヒ大陸の南西に位置するアスコンカ国の首都である。

報告した男は書かれた書類を受け取ると部屋を後にしたのだった。


―・―・―・―・―・―・―・―・―・―14


のんびりと山を登る一行。

快適な気温でゆっくりと揺れる馬車の中は揺り籠のようであり、ウトウトと寝ている人も数名いた。


暫く進むとガットは手綱を引き馬車を停止させた。


「休憩ですか?」と、トニエがガットに聞く。


「囲まれた。……皆、周囲を警戒してくれ。――どうやら殺意は無いみたいだが……」


起きていた人が寝ている人に声をかけ起こす。


「私が出ましょう」と、エダフが馬車を降り、

竜人族ドラゴニュートにお話があって参りました、こちらに敵意はありません、どうか姿を見せては貰えませんか」と大声で、まだ見えぬ姿の者に声をかけた。


時折吹く風の音と、遠くで鳴く鳥の声だけが聞こえる。


「反応、ありませんね……」、ケインが呟く。


「降りてくる」、ガットが皆に告げた。


わさっと上から風圧が来ると地面の砂が舞い上がる。

羽ばたきながら十人以上の竜人ドラゴニュートが降下し、あっという間に馬車が囲まれた。


初めて見る種族に馬車の一行は驚きを隠せなかった。


統一された特徴は背中に生えた蝙蝠こうもりのような大きな翼と、翡翠ひすい色をした瞳と体毛だけだった。

角が生えている者、尻尾が生えている者、他にも鱗や牙、獣のような手足など特徴は人によって様々であった。

体長は人間と同じである。

それぞれの手には身長の倍ぐらいの長さがある槍が握られていた。


「人間よ、何しに来た」、その内の一人が話しかけてきた。


「お願いがあって参りました、どうか代表のかたとお話させて頂けませんか?」


「少し待て確認する」


馬車を囲んでいた一人が飛び立つと、一瞬のうちに遠くへ離れて行き見えなくなった。

半刻ほど睨み合いが続いた後、先ほど飛び立った者が帰ってくる。


そして、

「王が会うそうだ、ついてこい」と告げた。


―・―・―・―・―・―・―・―・―・―15


馬車で進めるのは途中までだった。

恐らく十年前に行われた戦の跡だろう、おびだたしいほどの錆びた甲冑と白骨がそこら中に散在していた。

物言わぬ遺体が竜人族ドラゴニュートの強さを強調し、連行される一行に恐怖を与えていた。


獣道を徒歩で数刻登ると少し開けた場所へ出た。

そこには岩を切り抜いて作ったのだろう、綺麗な岩のブロックで組み上げられた家が建ち並んでいた。

ここまで城壁や砦など防衛施設は一切無かった、恐らく守らなくても良いと言う絶対の自信があるのだろう。


町の中を進むと一番奥に一際大きな屋敷が見えてきた。

一行はその屋敷へと連行される。


案内された部屋は謁見の間だろう、山頂の種族とは思えないほど綺麗な刺繍で飾られた織物が部屋を飾っている。力だけではなく手先も器用という証だった。


正面に玉座があり竜人族ドラゴニュートの女性が座っていた。


他の竜人族ドラゴニュートと同じく翡翠ひすい色の瞳と少しウエーブのかかった髪が肩まで伸びていた。

翼が生えているため、背中が大きく開いた真っ赤なドレスを着ている。

見た目の年齢は十六歳ぐらいだろうが、エダフの話しでは三倍の寿命らしいので五十年は生きていることになる。

メリハリのハッキリした目鼻立ちをしたキツイ顔の美人であった。

骨格もしっかりとしており守られる女性というより守ってくれそうな女性だった。


「オマエらか我に面会を求めたのは」


「はい、私はエダフと申します、竜人族ドラゴニュートの皆様にお願いがあって参りました」


特に座れと言われなかったので全員立ったままである。


「願い……とな。申してみよ」

女王が少し顎をあげ見下すような目線をエダフに向ける。


「昨今、魔王軍が侵略の手を広げラガレームとブールジュ国が被害にあっております。このままですと二国は滅んでしまいます。そこでリブルバック国へ協力要請に出向いたのですが断られました。もし可能であれば竜人族ドラゴニュートの力を借り、リブルバック国を説得できないかと考えております」


「なるほどのう……で、我が力を貸すとどのような見返りが得られるのだ?」


「魔王軍は強大です、もし西の二国が滅べばこの国も無事では済まないかと、人間と協力することでこの国を守れ――」


女王はエダフが言い終わる前に、

「ハッハッハッハ、面白い事を言うわ。無事では済まぬ? この我の国が、か? それ以上愚弄ぐろうすると殺すぞ」と、警告を発した。


「なぜその――」


エダフが言い終わる前に彼の目の前にガットの腕が目隠しをする形で止まっていた。

そして、腕を貫通してナイフの切っ先がエダフの目の前で停止している。

女王が自分の脇にあった小テーブルから果物ナイフを投げたのだった。


「ほーぅ、なかなかの反応速度よ」、ニヤリと笑う女王。


ガットはナイフを抜き床へ転がす。

ハスエルが急いで治療した。

エダフは気後れし発言できなくなっていた。


「これ以上の交渉は無駄か?」、ガットが女王を睨みながら聞く。


「元より交渉する気など無いわ、俗世の騒乱など我が竜人族ドラゴニュートの関心にも登らぬわ、勝手に地図でも塗り替えて遊んでいるがよい」


「ならば、なぜ呼び寄せた」


「神聖な我が山に登り汚したのだ、その報いを受けさせようと思うてな」


「何を――」


人の発言を遮るのが好きな女王だ、ガットが言い終わる前に話し始める。

「我が言うことは決定事項だ、反論など無駄ぞ。――ただ殺すのも余興としてはつまらぬ。……そうじゃ生き延びる機会を与えよう、我はなんと慈悲深いのだ、感謝して良いぞ」


クックックとあざ笑い、愉快そうな目を彼らに向けている。

何を言ってもどうせ遮ると思ったのだろう、ガットは何も言わなくなった。


「我が山の頂上に神竜が住んでおる、その鱗を取ってこい。一人ずつだ」


「ああ、取ってやるさ、そこで待ってろ」


「ガット……」、トニエが心配そうな目で彼を見る。


「これ以上何か言うとさらに状況が悪くなる気がする、俺が行って何とかする。皆は待っていてくれ。――それとトニエ、切れ味が増加する魔法あったよな、アレお願いできるか」


「私のできることなら何だってするわ」


トニエはククリナイフを受け取ると呪文を唱え始める。


「プロッディ・カフィコウ・テレフティオス・ェクリィクシィ・シィフォス……」


詠唱中、剣が薄ぼんやりと光を放ち、唱え終えると同時に光は消えた。


「この魔法は最初の一撃だけ五倍の貫通力を引き出しますが、その反動で剣が折れます使用には十分注意してくださいね」


「ありがとう」


「ねぇ無理はしてない?」


トニエの頭をなでるガット。


「約束したろ、俺の手が届く範囲にいれば守ると」


案内の男に連れられてガットがその場を後にする。

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