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7-1 無駄な努力

魔王軍の占領から解放されたオルレーゾに穏やかな雰囲気が訪れていた。

奪還から二日経過しても魔王軍に反撃を企む様子はなく、とりあえずの落ち着きを見せていた。


城壁の内側と町の家屋の間には二十メートルほどの空間が設けてある。これは城壁を越えて飛来する矢などが届く範囲であり、また戦闘時に兵士が移動する通路でもあった。

オルレーゾの南東に敷いていた陣はすべてこの空間に移動し仮設テントが立ち並んでいた。

ルーベルガ率いる閃光の獅子もテント内でごろ寝をしながら招集されるまでの一時ひとときを過ごしていた。


そこへ、小人族ホビツのフェルネが訪れ、

「ガット話がある」と、彼を呼んだ。


「なんだ?」

ガットも他の傭兵と同じように荷物の袋を枕にしながら余暇を持て余していた所だった。


「オレはオマエに助けられた、だから恩返しがしたいんだ」


「……またか」

ため息をもらしながら体も起こさずに、ぼそりと呟く。


少し首をかしげ、

「何がまたなんだ? まあいいや、何かして欲しいことを言え」と、構わずに話を続ける。


彼は手の平をヒラヒラと振りながら、

「静かにしてくれ、Uターンしてくれ、そのまま好きなところへ行ってくれ」と、追い返す。


「オマエ……オレを馬鹿にしているのか?」

片方の眉毛の端が上がり不機嫌そうな顔になる。


「して欲しい願いを素直に言ったのに、なぜ怒る」


「そんな願いは無効だ! もっとオマエの喜ぶ事がしたいんだ」

彼を指差しし、その腕をブンブンと振っている。


「いや、だから、今の願いで喜ぶぞ?」


「クソッ……、あくまでオレを遠ざけるんだな、うー」

振っていた腕は止まったが握り拳はプルプルと震えていた。


そこへ、見慣れない男の集団が訪れ、

「よお兄ちゃん、閃光の獅子って知らないか?」と、質問してきた。


「オレは女だ!」、振り返りざま、大声でその男達を威嚇するフェルネ。


「なんだよ、おっかねえな」


「閃光の獅子なら、その辺にいる。――ルーベルガさん。閃光の獅子に話しがあるらしい」


彼らに説明をしようと体を起こしたガットは、ちょうど良いタイミングで通りかかるルーベルガを見つけ声をかけた。


「なんだぁー」、ガットに呼ばれたルーベルガが近寄ってくる。


「あんたが閃光の獅子の団長かい? 俺らをあんたの傭兵団へ入れてくれないか」


「入団希望者か、いままで単独だったのか?」


「いや、先の戦闘で団長を亡くしちまってな、新しい団長になりたい奴はいないが傭兵を辞めたい奴もいなくてね、それなら他の団に入ろうって話しになったのよ」


「なるほどな。俺の団は報酬を均等に分ける、助け合って生き延びるためだ。だから弱い奴はいらない。そう言う理由だから入団試験を受けてもらう」


「ああ当然だな。どんな試験だい?」


「単純よ、模擬戦して強さを見せてくれりゃいい」

ニヤリと笑い両腕で招くように、かかってこいというポーズを取る。


「ルーベルガさんって言ったか、オレもその入団試験を受けさせてくれ」

話を聞いていたフェルネが横から口を挟む。


「おぅ? オマエはガットにやられたチビか」


「チビって言うな!」、今にも噛みつきそうな顔をするフェルネ。


「ガッハッハ、オマエ入団試験不合格な」

声は笑っているが、表情は真顔のルーベルガ。


「な!」、口をポカンと開き、次の言葉が出ないフェルネ。


「当たり前だろ? 団長に逆らう奴なんているかよ」

手をひらひらと揺らし、どこかへ行けというジェスチャーをする。


「ぐっ……」

目線を下に落とし、なにかに必死に耐えている。

周囲の者はなぜこの娘が苦悩に満ちた表情をしているのか理解できなかった。


「チビでいいです」、押し殺した小さな声でフェルネが呟く。


「あ?」、明らかに不機嫌な声をもらずルーベルガ。


「チビでいいです!」

ルーベルガを睨みながら大声で叫んだ。


「クックック、いいな、オマエ面白いよ。……よし! このチビと勝負して善戦した奴だけ入団を許可する。チビも同じだー本気でやれー」


練習用の模造刀がフェルネと対戦者に渡され戦闘が開始された。

首都シュルド前で行われていた模擬戦と同じように、フェルネはその速度を生かし対戦者を翻弄ほんろうしている。

小さな身長とスレンダーな体型は、大きな男達の足下をかけまわる子ネズミを連想させた。


右へ左へと動き回る彼女を目で追えなくなった対戦者はだいたい大ぶりの攻撃をしかけ自ら隙を作る。

そこを見逃さないフェルネは対戦者の腕を攻撃し剣を地に落とすのだった。


「そこまでだー、ほら次の奴行けー」


フェルネは休憩なしで次々と男達の相手をさせられた。

入団希望の約二十名との戦闘が小一時間程度で終わる。


「よーし、おまえと……おまえ、あと――」


ルーベルガが挑戦者を指差しながら合格者を選ぶ。そして、

「チビも合格だ。いい働きだ、これから期待してるぜ」と、笑顔で告げた。


全身から汗を流し、息も絶え絶えでフェルネは、

「ガット、ハァハァ、これでオマエについて行けるぞ、ハァハァ」と、勝利宣言を彼に告げる。


「何か勘違いしているが、俺は閃光の獅子の団員じゃないぞ?」

無表情でさらっと答えた。


「え?」、鳩が豆鉄砲を食ったような顔とは、まさに今の彼女を説明するにちょうど良い表現だった。


「なんだぁー? 短気なにいちゃんに付いてきたくて入団希望したのかよ……無駄だったな」


フェルネは気を失いその場に突っ伏して倒れたのだった。


―・―・―・―・―・―・―・―・―・―


オルレーゾ奪還から七日、何度か偵察隊が組まれ周囲を探索したが魔王軍は確認できずにいた。

作戦本部は傭兵達との契約を一旦解除すると決めた。報酬の額は下がるが待機兵として残る者は継続して契約する運びとなる。


ルーベルガ率いる閃光の獅子は別報酬が貰えるという話しになり首都シュルドへ向かうことにした。

出発の日、オルレーゾの作戦本部では別れの挨拶が行われていた。


軍師のサラディオが、

「ルーベルガさんケインさん、改めて礼を言わせてほしい。君らの働きでオルレーゾは救われた、本当にありがとう」と、告げると手を出し彼らと強く握手する。


「俺らはほんの少し力をお貸ししただけです、お役に立てたのなら嬉しいです」

ケインが握手した手を熱く握り返す。


騎士団長のディナルドも、

「私からも礼を言わせてくれ。貴君らは難関に立ち向かい見事な成果を勝ち得たのだ、その功績は称えられて良い筈である。私から王へ今回の経緯を手紙にしたため既に送付してある。王城では首を長くし貴君らを待っているだろう。この書面を門番に渡せば謁見できるので必ず立ち寄って欲しい」と、告げると手を出し彼らと握手した。


「旨い飯が待ってるんだろ? 必ず寄らせて貰うさ」、笑顔で答えるルーベルガ。


「私たちはまだオルレーゾの復興と魔王軍の再来に備えなければなりません、同行することはかないませんが、どうか道中お気を付けて」

サラディオが別れを惜しむ。


「ああ、そっちもな。生きていたらまた会おう」


ルーベルガは軽く手を振りながらオルレーゾの作戦本部を後にしたのだった。


―・―・―・―・―・―・―・―・―・―


魔王軍の町テスケーノ。アルトリッヒ大陸の北北西に位置し隣国ブールジュとの国境に近い町である。

オルレーゾの視察を終えた魔王の第二王子であるクリスターは、ここテスケーノへ到着していた。


町長官邸で執務を消化しているクリスター。


「クリスター様、オルレーゾより連絡がございました」

連絡係が執務室を訪れ報告した。


「ほう」、机の上の書類から目を外さず、耳だけは報告を聞いていた。


「オルレーゾは陥落、再びラガレーム国の支配下となりました」


「なに……、セルジェロはどうした」

さほど驚かず報告係へ初めて目を向ける。


「敵の手に落ちた様子、生死は確認できておりません」


「私が離れて数日だぞ……一体何があった。……この件、兄上には連絡が伝わっているか?」

片手を顎の下に添え少し考える素振りを見せる。


「はい、オルレーゾの敗残兵がルグミアンへ逃げ込んでおります」


ルグミアンはテスケーノより南西に位置し、魔王軍の領地としてはほぼ中央に位置する町である。


「そうか……ならば良い、オルレーゾは兄上に任せよう。モンフォワの様子はどうなっている」


モンフォワはブールジュ国の町でテスケーノから近く、現在侵攻作戦が展開されていた。


「膠着状態が続いているとの連絡を受けております」


「私が行かねばならぬか……、わかった下がれ」


「ハハッ」


「人間にもできる奴がいるということか……」


背もたれに深く腰掛け天井を仰ぎ独り言を呟く。

思い通りに事が運ばないことへの苛立ちか、若干眉間にシワを寄せているが苦悩という表情ではない、むしろ口元には笑みがこぼれていた。

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