6-9 猫と鼠の共演
ラガレーム国の兵士は昼前から攻城戦の準備に取りかかっていた。
近くの林から木を切り倒しオルレーゾの東口近くに運び、丸太を井桁型に組み上げる。
キャンプファイヤーのように組まれた木の塊が十カ所設置された。
そこから十メートル下がった位置に前日と同じ布陣でラガレーム国軍が隊列を組んでいた。
「点火!」、連絡係の騎士が号令をかける。
黒煙を上げながら丸太が燃えさかる。
「風錫裂智よ、我の求めに応じ汝の力を示せ」
ソフィーが風の精霊に助力を請う。
東から緩やかに風が吹き始め煙がオルレーゾの町を包み始める。
城壁の上に待機していた魔王軍の兵士から、ラガレーム国軍の様子を伺うことが困難になった。
そこへラッパが鳴り響く。
ラガレーム国軍は北と南に別れ派手に足音を立てながら走り始めた。
魔王軍は何も見えない状態で、足音だけが移動するのを聞くことになる。
それが敵の罠だと感づいていても不安には勝てず、東門の守備隊は北と南の応援に向かうのだった。
黒煙の下を、足音を立てずに進む閃光の獅子一行。
ガットが鉤縄を放り上げ、城壁にかけるとスルスルと綱を登る、その後を小人族のフェルネも続いて登っていく。
城壁の上は黒煙で何も見えない、しかし目隠し稽古を怠らなかったガットは敵の気配を察知する力を伸ばしており、敵の位置を把握することができた。
後から登ってきたフェルネの手を取ると数人残っている敵の間をすり抜け城門を降りる階段まで進む。
城壁内側の門前には四体の蜥蜴人が残っていた。
一番近い敵に素早く駆け寄る二人。
ガットが敵の攻撃を受け流し体勢を崩すと、背後に回り込んだフェルネが敵の足首を狙って切りかかる。
膝を付いた敵の首めがけ、ガットがククリナイフを横一線に振ると、パックリと喉が裂け敵が絶命する。
攻撃速度の速い二人のコンビネーションに翻弄される蜥蜴人、対応しきれない内に一体、また一体と命が削られていく。
門前を掃討した二人は力を合わせて重い閂を押す。
閂が擦れる音を出しながら横へとずれ、しばらくするとドスンという音とともに閂が地面へ落ち門が開かれた。
「やったな」、二人を見てニヤリと笑うルーベルガ。
町の中央通りを駆け足で進む閃光の獅子の一行。
敵は北と南の城門に集合しているらしく町中で遭遇することはなかった。
家々の窓からは不安そうな目をした町の人が彼らを目で追っていた。
閃光の獅子が町に入るのを確認した作戦本部は燃えさかる丸太に水をかけ火を消したのだった。
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迎賓館の前では本部を守る魔人が十名ほど待機していた。
閃光の獅子は二十名いる。二対一の戦闘だが魔人の身体能力は人間の倍と見積もっていいだろう。
戦闘はほぼ互角であった。
「ほうらオマエら急げよ! 応援を呼ばれたら一溜まりもないぜえ」
ルーベルガは珍しく少し真面目な顔をしていた。
それもそうだろう、ここは敵陣のど真ん中、囲まれれば逃げ場はない。
ガットは敵陣をかいくぐり迎賓館のドアを開ける。
待ち構えていた蜥蜴人が同時に剣で斬りかかる。
「【加速】っ!」
剣が振り下ろされる前に中央突破し階段を駆け上がった。
もたもたと彼の後を追う蜥蜴人。
ガットは執務室のドアを開け中へ入る。
「わが主よ、ようこそおいで下さいました」
ガットを見た瞬間、指揮官セルジェロが胸に手を添えて礼をする。
「ああ、そこの二体を始末しろ」
後を追ってきた蜥蜴人がセルジェロによって瞬殺される。
剣を降り付着していた血を払い落とすと鞘にしまい再び胸に手を添えて礼をする。
窓際までガットが移動すると、
「こっちへ来い、今からオマエは人質役だ」
「ハハッ」
ガットが窓を開け、
「全員、戦闘を中断しろ。おまえたちの指揮官の命は俺が預かった、救いたくば西門より即刻退散せよ! 各門を警備している仲間にも伝えよ、行け!」
指揮官のセルジェロが窓際に立っている。その首には爺が押しつけられすぐに切れる状態であった。
「全軍……ルグミアンの町まで撤退せよ……」
セルジェロが脅迫されている演技をする。
顔を見合わせていた魔人は仲間に知らせるため四方へと散っていった。
ガットは窓を閉める。
そして手を前に伸ばし召喚扉を開く。
「戻れ」
セルジェロは礼をしつつ漆黒の渦へ入っていった。
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ラガレーム国の正騎士がオルレーゾの町中を警邏し魔王軍の残党がいないか確認している。
傭兵達は四方の門前で待機し敵の再来に備えていた。
迎賓館の前では騎士団長のディナルドと軍師のサラディオが事後処理の指示に追われていた。
そこへ、ケインを見つけたサラディオが近寄る。
「ケインさん、お見事です。町の人に被害を出させることなくオルレーゾを奪還することができました。あなた達の活躍があったから成し得た戦果です。この国の民としてお礼を言わせて下さい、ありがとう」深々とお辞儀をした。
「俺なんかが役に立てて良かったです、町の奪還おめでとうございます」
複雑な表情のケイン、しかし彼の拳はもう強く握られていなかった。
「今回の活躍を王にお伝えします。報酬の支払いもありますから首都シュルドに戻った後は、ぜひ王宮へ足をお運び下さい」
「そんな恐れ多いです」
「いいじゃねえかケインよ。王に会えるってこたあ褒美が貰えるんだろ?」
報酬と聞いて機嫌の良いルーベルガ。
「ええ、今回の報酬とは別に王へはお願いするつもりです」
「そらな、美味いものが食えるかもしれねえ、ぜひ寄らせてもらおうぜ」
「まあ、ルーベルガさんが言うなら……」
「よし決まりだ! 団員の奴らも喜ぶぜ」
町の通りには解放された喜びで、抱き合い涙を流す者、神に祈るようなポーズをする者、元気に走り回る子供達で賑わっていた。
その光景を見たケインはにこやかに笑いながら、小さくガッツポーズを取るのだった。




