6-5 どっちが子供なんだか
オルレーゾから南東に約三キロ離れた平地に首都シュルドから移動してきた騎士および傭兵が陣を敷いた。
陣と言っても戦闘用ではなく、兵士が一時的に駐留するためのキャンプ地である。
作戦本部との連絡係を担う騎士がルーベルガのもとへ訪れ本部の情報を伝えた。
ルーベルガが団員の前に立ち、
「騎士団長から連絡が入った。偵察隊を編成し周囲の状況を収集するんだとさ、誰か行く奴はいるか?」
「俺が行こう。――二人はここで待機な」
ソフィーとトニエを見ながらガットが答える。
「何で先に言うのよ。今回は行かないわ人も多いし私の出番無さそうだしね」
ソフィーがむくれた顔で答える。
「行きたいですけど、隠れるの得意じゃないし足を引っ張るかもです」
少し残念そうな顔をするトニエだった。
「良かったなにいちゃん、今回は素直に引いてくれて。少ししたら本部のテントへ向かってくれ」
「ガット、危険じゃないのか?」と、ケインが心配そうに聞いてくる。
「大丈夫だ、この手の仕事は存在感の薄い俺の仕事だ」、ニヤリと冗談っぽく笑うガット。
ハスエルは心配そうに、
「怪我はしないでね、私は側にいられないんだから……」
「ああ、無茶はしない」
ガットは装備を確認すると作戦本部へ出かけたのだった。
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オルレーゾ奪還作戦の本部テント前では志願兵が集まっていた。
どの男も身軽な装備で、いかにも偵察に向いているという風貌であった。
騎士団長のディナルドが前に立ち、
「偵察隊への志願感謝する。貴君らの任務はできるだけオルレーゾに接近し敵の兵力、配備、町の防衛力、民の様子、敵軍士官の情報などを入手してもらうことである。危険な任務だが無事帰還することを心より願う」
続いて連絡係の騎士が前に立ち、
「それでは二人もしくは三人の小隊を組んでもらう。名前を呼ぶので返事をするように」と、メモをみながら名前を読みだした。
どのような順番で呼ばれているか不明だが、
「ガット・ウルリガとフェルネ・オバル、以上だ」と、最後にガットが呼ばれた。
「オマエかよ最悪だ……」
ガットが声のする方に目をやると、首都シュルド前で手合わせした小人族が彼を睨んでいた。
そんな彼女にガットは、
「そうか俺は誰でも構わない。脚を引っ張らなければな」と、告げる。
「オレが足手まといとでも言いたいのか」、さらに睨みを厳しくする。
「さあそれは知らない。俺がオマエの何を知ると言うんだ、むやみに噛みつくのはやめろ」
火のつきそうな表情の彼女に対し、相手が氷そうなほど冷静な視線を送るガット。
「ケッ……」
何とも言えぬ空気に耐えられなくなったのか、そっぽを向くフェルネ。
そんな二人を見た他の志願者が、
「なんだこの隊は、お子様のお使いか?」
「テメエ今なんつった! もっかい言ってみろ」
消えかけた炎に再び油が注がれる。
「キャンキャン吠えるなよ子犬が、遊んでやる暇はないんだ、帰ったら相手してやるよ」
大笑いしながら彼女をからかった男が去って行く。
「クッソ……馬鹿にしやがって」、握った拳が震えている。
「おい、置いていくぞ」
ガットは一言だけ呟き、さっさと進んでしまった。
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オルレーゾ奪還作戦の陣を出発したガットとフェルネは草原を小走りで進んでいた。
「おい――おいってば!」
背後から小人族のフェルネが叫んでいる。
「なんだ騒々しい、偵察任務だぞ大きな声を出すな」
歩みを止めずに返事をするガット。
「どこに向かってるんだよ? この方角はオルレーゾから遠ざかってるぞ?」
「ああそうだな」
「そうだなって……オマエやる気あんのかよ」
「文句を言うな、ついてこればわかる。嫌なら一人で行け俺はかまわない」
オルレーゾは陣から北西の位置にある、しかしガットが進んでいるのは西南西の方角だった。
事前に淫魔のヘルミルダから情報を仕入れていたガットは、敵の監視網の穴を進んでいたのだった。
ヘルミルダの情報に嘘は無いようだ、敵部隊に遭遇せずに順調に進む二人。
数刻移動しオルレーゾからやや離れた林の中でガットは足を止め、
「ここで時間を潰す、闇夜に紛れて町へ潜入するぞ」と、フェルネに告げる。
「おいオマエいくつだ?」
「いきなり何だ、徹夜になるぞ寝とけよ」
そう言うとガットは近くにあった木にもたれて座った。
「いいだろ教えろよ」、なぜかキレ気味だ。
彼女は答えるまで諦めないようだ、嫌々ながらも、
「……十三だ」と、腕を組み仮眠の姿勢になりながら、面倒臭そうに答える。
「え! なんだよ六つも年下かよ……、それにしちゃ横柄な態度だな年上は敬えよ」
自分が年上だと知って優位に立ったと思ったのか、威張ったように腕を腰に当て胸を張る。
「相手は選んでいる……」、ぼそりと呟く。
どうやら地雷を踏んだようで感情が爆発し、早口でまくし立てる。
「オマエもかよ、皆オレを馬鹿にしやがって! 背が小さいからっていつも半人前扱いだ。小人族だからって弱いわけじゃないんだぞ! チクショウ! それなのに……。――おい聞いているのか? ――なんだ眠ったのか……」
ガットはヤレヤレという感じで鼻からため息を吹き出した。
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曇り空で月と星が隠された深い闇夜であった、潜入には恰好の天候と言えるだろう。
オルレーゾは城郭都市である。町の周囲をぐるりと高い壁が取り囲み外敵の進入を防いでいた。
首都シュルドと比べれば壁の高さはやや低い、二階建ての家の屋根を越えるぐらいだろう。
ガット達は敵の目をかいくぐり、防壁の上を警備する兵士が肉眼で見えるほどの位置まで接近していた。
彼らから西の方角にオルレーゾの南門が見えている。その前には蜥蜴人が二体警備をしている。
蜥蜴人は人間より若干背が小さい獣人である。
全身が堅い皮で覆われており天然の鎧を着ているようだ。
大きな顔。厚い胸板、太い腕、細い腰、細く短い足、短い尻尾とバランスの悪い体型をしているため、走るのが苦手であった。
人間とは利き腕が逆であり、ほぼ左利きなのも特徴である。
ガットは防壁の上を指さし、
「あの見張りが通り過ぎたら防壁を登る」と、告げる。
「門前の敵は二人だ倒せばいいだろ」、なぜか反ギレで返事をするフェルネ。
「騒ぎになると敵が増える、任務は偵察だぞ」
「なんだよ怖いのか、やっぱり子供だな。そこでおとなしくしてろよ」
止める間も与えず南門へ向かって行ってしまった。
「おい……、勝手にしろ」
防壁上の見張りが通り過ぎたのを確認したガットは【加速】を使い壁の下まで移動すると、腰のポーチから鉤縄を取り出し壁の上へ投げ入れた。
ぐいと縄を引き爪が固定されているのを確認すると、壁の上まで一気に登る。
「情報通り、町の中は敵がいないな……」




