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6-4 絵本の中の人

魔王軍に占拠された町オルレーゾ。

彼らは町の中心に位置する迎賓館を司令室として接収していた。

国賓級の来客に備えた建物であり、作りは豪華であった。

毛足の長い絨毯、磨き上げられた石の床、高そうな絵が壁にかかっている。


どっしりとした木製のドアが開かれ、そこからお供を連れた男が入ってきた。


「ようこそおいで下さいました王子様、お疲れではございませんか」


エントランスで彼を迎えたのはオルレーゾ攻撃を指揮した魔人のセルジェロ、そして入ってきたのは魔王の第二王子であるクリスターだ。


ネイビーカラーの生地に金色の刺繍が贅沢にあしらわれた服に身を包む王子、下品な成金衣装ではなく落ち着きのある風格を漂わせていた。

軽く波打つ金色の髪とブルーの瞳は、トニエの買った恋愛小説に出てくる王子様そのものだった。


「出迎えご苦労、早速だが牧場の様子はどうなっている」

落ち着きのある甘い声で質問をする王子。


どうやら魔人の王族は天性のカリスマを持って生まれるようで、その姿と声を目の当たりにした女性は腰が砕けるようだ。その証拠に近くにいた人間のメイドが顔を上気させていた。


「ははっ、順調に進んでおります。どうぞご覧になって品質をお確かめ下さい」


指揮官のセルジェロは伯爵はくしゃくである。

魔人の貴族制度は世襲ではなく能力を認められた者が王に称号を与えられる。

彼もオルレーゾ進行前に爵位を与えられこの地を支配するよう命ぜられたのだ。

その視察として現れたのが第二王子というわけである。


迎賓館の近くに建つ宿屋に王子を案内するセルジェロ。


「こちらが生産用の人間です。……どうですか、ここオルレーゾは良質な人間が多く生息しておりますゆえ、今後も安定して出荷できるかと」


飼われているのは牛ではなく人間だ。そう、魔人は人間を食べるのだ。

ただし、食べなければ生きてはいけないという類いではなく『美食』なのだった。

すべての魔人が食するのではなく、貴族それも侯爵こうしゃく以上の地位を持つ者だけが食することを許される贅沢なのだ。


「ふむ、なかなか良いメスが揃っているな」


品質管理をする冷たい眼差し、決して彼が冷たいわけではない。人間が牛や鶏に向ける眼差しと同じなのだ。


「有難うございます。清潔な環境、適度な運動、それと良質な食事を与え健康に気を配っております」


ここに選ばれた女性は町に住む一般人に比べ贅沢な暮らしをしていると言って良かった。

衣食住が与えられ働かずに生活ができる、ただし常に妊娠しているのだが。


宿屋を後にし、さらに少し離れた建物に王子を案内するセルジェロ。


「こちらの建屋が飼育室となっております、現在二十体ほどの人間を飼育しております」


その部屋には幼子から十代の子供、それと乳母の女性が集められていた。


「少し痩せているな、もう少し太らせよ。脂肪ではなく肉多めにな、そのほうが美味だ」


「ははっ、そのように致します」


ここで育てられている人間も裕福で健康的な生活であった、ただし出荷されるまでの命だが。


「町の治安はどうなっている」


「制圧後、目立った反抗はございません。老人と病人を廃棄したときは一時的に暴れましたが、これはどこの町でも同じでして対応には慣れております。すぐに沈静化させましたので問題ないかと」


人間は通常の暮らしが許されていた。占領された町は植民地となり食料などを生産させ貢がせるのである。ただし生産に適さない老人と病人は早々に殺されたのだった。


「警備体制はどうだ」


「制圧時に破壊した防壁は既に修復済みです。家畜逃亡防止用の監視塔は町の周囲五箇所に建設済みです」


「シュルドに兵士が集められていると聞いたが、それに対しての策はどうだ」


「ここオルレーゾの制圧でも我が軍に殆ど被害は出ておりません。このラガレーム国に我が軍を脅かす軍事力は存在しません、いくら傭兵を集めたとて烏合の衆にございます」


「油断はするなよ、人間が弱い種族だといえども総数ではわが軍より多いのは確かだ」


「ははっ、肝に銘じておきます」


「私は町を視察した後テスケーノに向かい進軍の準備に入る。この町は貴公に任せた。何かあれば連絡せよ」


「ははっ、お任せ下さい」

セルジェロは深々とお辞儀をし王子を送り出したのだった。


―・―・―・―・―・―・―・―・―・―


オルレーゾ奪還作戦に集まった傭兵が首都シュルド前に集合している。

連絡係とおぼしき人が用意された台の上に立ち木製の拡声器で話を始めた。


「おいオマエら静かにしろ、今から騎士団長から話しがある。無駄話してる奴には金払わんからな、黙って聞けよ!」


連絡係と交代で台に上る騎士団長。オールバックの中年男性でラガレーム国の紋章が入った正騎士の鎧を装備している。


「私が騎士団長のディナルド・ヤコポである。これより貴君らにはオルレーゾの手前まで進み陣を構築してもらう。敵はおよそ四千、それに対し我が軍は五千だ、こちらが多いとはいえ相手は魔王軍、楽な戦いではないだろう、しかし勇敢なる貴君らが力を合わせれば必ず勝利を掴めるだろう。――奪われたオルレーゾを取り戻すぞ!」


大きな声を張り上げ集まっている傭兵を鼓舞する騎士団長、しかし僅かな人数がそれなりに声を出しただけであった。

何とも言えぬ空気を残し彼は連絡係と再び交代する。


「あー、二十名以上で登録した団体には騎士を一名加える。その者は諸君らの採点者だ、手を抜いた戦いをした者には金は払われない、またその騎士を死なせた場合も払われないから注意すること。個人で登録した者は二十名の小隊を組んでもらう、そこにも騎士を一名加える。その者が小隊の指揮官になるから命令を聞くように。では騎士が割り当てられた団体から出発せよ」


一通り話が終わると集まった傭兵が、

「なんだよ、連絡だけなら集まらなくてよかったじゃねーか」と、愚痴をこぼしながら移動を開始した。


騎士団長の背中がなぜか寂しそうだった。


―・―・―・―・―・―・―・―・―・―


傭兵を全て乗せるだけの馬車が用意できないため、オルレーゾまでは徒歩の移動となった。

装備や食料、重い荷物などは馬車に載せて移動するため、辛い行進と言うわけではない。


夜も更け皆が寝静まる頃、ガットは雑魚寝の列から離れ人気の無い場所へ移動した。


手の平からヘルミルダの命珠めいじゅを取りだし、

「おい俺だ」と、呼び出す。


「こんな遅い時間に……明日にしてよ眠いわ……睡眠不足はお肌に悪いんだから……」


ガットが玉を少し握ると、

「いったぁいわよ!」と、ヘルミルダの文句が聞こえてくる。


「目が覚めたか、オルレーゾの情報を伝えろ」


「わかったわよ。町の守備隊も含めおよそ六千、巨人ギガース蜥蜴人リザードマン梟人アンドラスが主に集められた兵士よ。四個大隊に別れ襲撃に備え陣を敷いてるわ、場所は――よ。あとは人間の逃亡監視用に塔が五カ所、町を囲むように建てられたわ、場所は――ね」


「町の中はどうだ」


「中に兵士は殆どいないわ、飼育場に監視がいるくらいね」


「指揮官の居場所は」


「迎賓館にいるわ。町のほぼ中央にある噴水広場に建つ一番大きな建物よ」


「よし、いいだろう」


「ねえ命返してくれるって約束は?」


「接触しないと返せない、次に会ったときだな」


「わかったわ……」


「また連絡する」


再び珠を手の平に戻す。ガットは星空を見上げながら

「迎賓館か……どうやって忍び込むか……」と呟き、作戦を考えているようだ。

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