6-3 勘違いは誰にでもある
エダフはこれまでの経緯と今後の予定を手紙に書きトラスダンへ送付した。
村に帰り村長や親族と話をすべきとの意見も出たが、止められるのは目に見えているので帰らないことに決めたのだ。
ターバンズからラガレーム国の首都シュルドまでは馬車を手配した。
旅に慣れ始めた一行は旅支度も早くなり、町で必要な物を買い集めると、行くと決めた日にはターバンズを出発していた。
ラガレーム国の国境警備隊により簡単な質疑応答をされたが特に問題もなく通過、途中いくつかの町を経由しつつ首都シュルド手前まで来た一行。
本格的な城塞都市を初めて見たハスエルは、
「ここがラガレーム国の首都シュルド……壁だわ……」と、目を丸くしながら呟いた。
「ああ壁だな」、同じような顔をしてケインも答える。
「私は首都ってお城があると思っていました」、少し残念そうに呟くトニエ。
ルーベルガが笑いながら答える。
「ああ、あるぜ壁の向こうのずっと奥だがな、首都ってのはどこもこんな感じだ」
門の前に長蛇の列ができていた。それを見たソフィーが、
「あの列はナニ?」と、質問をする。
「ありゃ身元確認だ。通行証や身分証、それが無い者は保証金を払って入るのさ。それと人口が増えすぎると都市の機能が麻痺するからな、人数制限だ」
「なんでそんなに厳重なのです?」と、トニエが問う。
「一番の理由は治安だ。金の無い奴は乞食になるか泥棒だ、だから金が無くなると塀の外に放り出される」
「冷たいんですね」、悲しそうな声を出すハスエル。
「ねえちゃんはホントに甘々だな。まあそこが良いのか? なあにいちゃん」
「ゴホッ、ゴホッ……」、話しをふられて咳き込むケイン。
門の近くで木製の拡声器を使い人を誘導している係員が大声で話している。
「あー、オルレーゾ奪還作戦に参加を希望する者は入門の列ではなくこちらへ並べ-。さらにー、個人で参加をする者はここの列だー、団体で参加する者達は代表がこちらの列へ並べー」
「私たちはどうしますかね、個人でしょうか」と、エダフがルーベルガに質問する。
「個人はまずい、どこに配置されるかわからない。略式でいいから俺の傭兵団に入らないか、そうすれば俺の指揮下に入るはずだ」
「そのほうが良さそうですね、ぜひお願いします」
「ハッハッハッ、任せとけって。ちなみに傭兵団の名前は閃光の獅子だ、俺が考えた、かっこいいだろ?」
「え、ええ、強そうですね」、少し顔が引きつっているエダフ。
「そうだろ、そうだろ! 招集や連絡があるときはこの名前で呼ばれるから覚えておいてくれ」
ルーベルガは傭兵団の一人を受け付けに行かせた後、結果の連絡を受けた。
「おめーら、まだ数日ここで募集をするそうだ。ある程度集まったら順次ここからオルレーゾへ出発するらしい。それまでは割り当てられたテントで待機だ。飯も支給されるぞー」
「ういーっす」
―・―・―・―・―・―・―・―・―・―
一行は馬車から荷物を下ろし割り当てられたテントに運び入れている。
テントと言ってもターフテントと呼ばれる上からの雨が防げるだけの布一枚の粗末な物だ。
ルーベルガの傭兵団、閃光の獅子は自前で馬車を二台持っている。
幌馬車で一応は密閉可能なので、そこは女性三人の寝床にあてられた。
夜は不用心なので御者の座る場所にガットが寝ることとなった。
馬は専用の預け場所があり馬車には繋がれていない。
テントの並ぶ一角に広いスペースがあった。たぶん食糧配給所だろう。
そこへ人集りができていた。
「お、なんだか騒がしいな喧嘩か?」
目線の高いルーベルガが騒ぎを見つけ、興味本位で近寄っていく。
そこでは模擬戦が行なわれているようだった。
模造刀を操り相手を翻弄する戦士を見たルーベルガが、
「ほう、あいつ早いな」と、呟く。
負かされたほうは早々に人の輪から逃げ出していた。
「なんだ、口だけかー、オレに勝てる奴はいないのかー?」
勝者が人で作られた輪の中央で次の挑戦者を募集している。
「ハッハッハー、なかなか威勢がいいな」、目を糸のように細め笑うルーベルガ。
「良くあるのですか?」と、トニエがルーベルガに問う。
「ああ、腕試しってのもあるが、だいたいは注目を集めて仕官を狙ってるんだ。正規兵になれば収入の不安定な傭兵なんて辞めれるからなー」
「あんな小さな子が就職活動ですか?」
背の低いトニエは、つま先立ちをして人の隙間から騒ぎを覗いている。
「おじょうちゃんは見たことないのか、あれは小人族だ。耳の頭がちょっと上に尖っているだろ、アレが特徴だ。アレでほぼ成人の身長なんだぜ」
「へぇー、私より小さいですよ。初めて見ました」
「手先が器用な種族で、特に戦いに秀でているわけじゃないんだがなー、傭兵としちゃ珍しい」
「他に挑戦者はいないのかー!」と、声を上げ観衆を煽っている。
「ここにいるぞー」
ルーベルガは、ガットの手首を掴み高く上げ挑戦者ありと宣言する。
「ちょ、ルーベルガなにを勝手に」
単純な力比べではルーベルガに適わないガットは腕を振り解けず踵が宙に浮いていた。
「いやいや余興だよ。オレに手傷を負わせたんだアレぐらい軽くあしらってこいや、ガッハッハッハ」
「面白がってるな……」、半ば諦めなすがままになっている。
「なんだー、ケツ叩かれないと出てこられないのか? それでも男かよー」
にやっと蔑んだ笑みを浮かべ、ガットを挑発する。
「ふぅー……まあいいや相手しよう」
「そうこなくちゃな」
イタズラ好きなのか祭り好きなのか、まるで子供のような笑顔のルーベルガ。
人でできた輪の中に進むガット、
「勝敗はどうやって決まる?」
「相手が動けなくなったら勝ちだ。ただし殺しはなしだ。アンタ、エモノは何を使う?」
「素手で十分だ」
「へぇー随分と余裕あるね、後悔するな……。いくよ――」
木製の短剣を鋭く突き出す小人族、
「フッ、フッ」と、息を吐きながら連続攻撃を繰り出す。
ガットより拳一つは小さいであろうその身長差、攻撃は斜め下から上へ突き上げる形となっていた。
無駄のない動きでその攻撃をかわすガット、すり足で人の輪の中心から殆ど動いていない。
観客から響めきが起こる。
短剣の動きも見切れないほど素早いが、それよりも華麗に回避する彼の姿に声を上げたのだ。
軽い打撃音が聞こえたと思ったら、
「イタッ……」と、小人族が呟いた。その手からは短刀が落ち地面を転がっていた。
再び観客が声をもらす。
このような状況だと、罵声や応援などで観客は盛り上がるものだが、まるで演舞のような彼の動きに周囲の者は声を出すタイミングを見失っていた。
落ちた剣を人の輪の外にコツンと蹴り飛ばすガット。
これで終わりかと残念そうにため息を出す観客の予想を覆し、
「ハッ、ハッ」と、素手で拳を突き出す小人族。
ガットは突き出された拳を掴み、背負い投げで相手を地面に落とす。
受け身を取れず背中から落下した相手が苦しんでいる。
また立ち上がられたら厄介だと思ったのだろう、ガットは相手を横四方固めで押さえつけた。
「ちょ、イヤッ……、ナニすんだテメエ! 放せ!」と、暴れ始めた。
「おまえ女だったのか」
「見て判るだろ! どこに目付けてんだ」
それは彼にとって納得できない苦情だろう。
ベリーショートの髪、凹凸の無い体型、化粧してない顔、戦闘で汚れた体、どう見ても男である。
不細工ではない。女の子と言えなくもない顔だが、身長からして中性的な男の子だった。
「ああ仮面を付けてるから見えにくかった、悪いな。で俺の勝ちでいいのか?」
「反則負けだよ! オマエ覚えてろよ! 次は転がしてやるからな」
捨て台詞を吐きながら人の輪から退散する小人族。
「にいちゃんやるなあ」、大笑いをしながらルーベルガが近寄ってくる。
暴れた彼女に肘鉄を食らったガットが口から血を流している。
「女だって気がついてたか?」
「二十五以下は女じゃねえよ」、守備範囲を答えるルーベルガだった。




